3BECAUSE 第45話
善の一言によりレトインの今まであった緊張が

一気にすべて解けた。


何一つ本当の自分というものを出すことのなかった

偽りの人格“レトイン”が
心の底から感情を表に出して、泣いた。



「レトイン…

どんだけ強がっても、泣くのを我慢しても…
何も変わることがないのなら…

泣きたいだけ泣けばいい。


そこから立ち上がったって…
決して遅くなんかない」


(レイ…

俺は今まで無理をしていた…
おまえのために、おまえの仇をとるためだけに…


おまえの望んでいたことは何だ?

おまえが天国で喜ぶ姿を見せてくれるのは
いったいどんな時だ…?


分からない…
今の俺には、どうすることが一番いいのかが分からない…

だから俺は…
あいつの言った通り…



今、泣いてもいいかな…?
俺は…

今を生きてもいいのかなぁ…?)



レトインはしばらくの間、泣き続けた。


何も考えることなどできない

これから先のこと…過去のこと…
何一つ…


今はただ、泣くことしかできなかった。


(善…

俺はおまえに言った…
“ジョーカーを変えろ”と…


おまえは人を変えてしまうような
そんな不思議な力を持っていると…

フン…ばかな話だ…
ジョーカーまでもか…


俺まで変えちまったというのか!!
とんだ才能だ!!)


泣きたいだけ泣いたレトインは

ようやく、ふっと顔を上げた。


そして、今まで見せたことのないような
安らかな表情で善を見て、一言いった。


「善……


ありがとう」


「!!!

お、おう…」


突然のレトインからの感謝の言葉に
善は驚いたが…

そのレトインの表情からは、何一つ曇りはなかった。


背負い込んでいた重荷を降ろし
重圧から解かれたようで…

すっきりした表情だった。


そんなレトインを見た志保がレトインに言った。


「もう大丈夫なのね…?

ここからが“本当の”レトインなんだよね…?」


「あぁ…

俺はすべてを犠牲にしようと…
いや、犠牲にしてでも、成し遂げなければいけないものがあった…


けど…善が俺に気づかせてくれた…

犠牲にしてはいけないものだってある。
レイ、トウマ…

そいつら以外にも、俺には守らなければならないものがあったみたいだ!!」


「レトイン…」



善とレトイン


この2人は何度も行き違い、すれ違った。


同じ思いを持っていながらも
うまくお互いを表現しきれずに

何度もぶつかった。


しかし、こうして今
2人の思いが、ようやく一つになろうとしている。


「バカ野郎が…遅ぇんだよ!!

覚えてんだろうな?おまえと
あの海の見える場所で交わした…


“例の約束”をよ…」



善はレトインに以前
こんなことを言っていた。


『目の前にいるやつが、例えどんなやつでも、どんなに悪いやつであろうとも…

俺はそいつを殺さねぇ!!


それがジョーカーの頭だろうとな。
俺の目の前で、死人なんてもんは絶対出させねぇ!!』



「ちくしょう…守れなかったじゃねぇか…

もう破らせねぇぞ?破るわけにはいかねぇんだぞ…?」


「あぁ…
分かっている。絶対に破るわけにはいかん」


「そうだ。忘れんじゃねぇぞ…」


志保と大悟には何の話かは、分からなかったが

おおよその予想はついていた。



「よし、レトインも戻ってきたことだ。

あとはおまえだけだぞ…



エーコ」





3BECAUSE

第45話
 「5人」





エーコ

今となっては形すらなくなってしまった
キングのメンバー。


スパイといいながらも
ほとんどライジングサンの一員となりかけていた。


キング・ヤコウの死は
エーコにとってあまりにもショックが大きすぎる。

先程からの、善達の会話にも
一切入ってくることはなかった。


まだ現実を受けいることができず
死体と化した、ヤコウのまえで、うつむき続けている。



立ちあがれないのも無理はない…

エーコにこの現実は、辛すぎる。


レトインはエーコのもとへ歩みよった。
そして、腰をおろし、ゆっくり話しかけた。


「エーコ…いいんだぞ…?

おまえこそ無理しなくたって。
俺達がいる。俺達がジンを倒すんだ。


おまえは、これから先…
何も俺たちといっしょについて来なくたっていい。

無理して、戦わなくたっていいんだ」


レトインは、エーコに
このリミテッド同士の戦争から

身を引くことを勧めた。


しかし、それに対してエーコは…


「………」


何も反応しなかった。


「誰も逃げたなんて言わないし
そんなことを思いはしないさ…

戦うことも勇気だがな…
もしかしたら俺達は…


“生きること”の方が
勇気がいるのかもしれない。

生き延びることことが
何よりも大変なことなのかもしれないいな」


そんな言葉も、今のエーコには何も聞こえやしない…


レトインは
『エーコはもう無理』

そう判断して
善の方を見て、首を横に振った。


善も本音は寂しく、戻ってきてほしかったが…
ぐっと堪え、言葉をのんだ。



善達は新たな出発を迎えようと
歩き出そうとした。

だが、その時…


志保が言った。



「待って」


志保がみんなを止めた。


「あんた…何いつまでも泣いてんのよ。

何そんなとこで、ずっと立ち止まってんのよ!!」


「おい…志保…」


「あんた…そんなガラじゃないでしょ?
そんな弱くないでしょ?

分かってんの…?
あんたの力が必要なのよ…


ジンを倒すには…
ジョーカーを倒すには、まだまだ力が足りないのよ!!」


いつもいがみあっていた志保とエーコだが

志保はしっかりと
エーコを認めていた。


エーコも、ライジングサンの
“仲間”だった。



「………



なんだしそれ…」


今まで黙り続けていたエーコが
ようやく口を開いた。


「分かってるし…そんなこと…

あんたらいつも、あたしの氷の盾に守られてばっかじゃん…


あたしがいなきゃ、あんたらなんて
すぐやられちゃうんだから…」



またエーコは黙った。
静まりかえった。

そして…



「ジンのバカーーーーー!!!

てか嵐ふざけんなし!!
一番ふざけてんの嵐だし!!!


許せないし!!
誰が戦いから降りろって!?

そんなのこっちから願いさげだし!!!」


エーコは爆発した。


「あたしも行くに決まってんじゃん!!
置いてくつもりだったの!?善!!



“また”あたしを一人にしたら…
許さないし!!!」


「おう!!そんなことするわけねぇだろ!?

おまえもライジングサンのメンバーだっての!!」


「うるさいやつが目覚ましちまったな…

そのまま寝かせとけばよかったか…?」


「なんだと大悟!!

あんた凍らせてやろうか!?
氷人形にしてやろうか!!!だし!!」



急に大きい声をあげ、ハイテンションになったエーコ。

しかし、エーコの目からは
涙が流れ続けていた。


無理して笑顔を作り、無理して元気に振るまっていたことは
一目瞭然だった。


けれど、そんなエーコの姿を見て
志保は少し微笑んだ。

エーコは志保の言った通り…


強かった。




新生・ライジングサン
5人のメンバーがそろい

ジョーカー、ジンを倒すため
立ち上がった。



一方、その頃
ライジングサンの敵、ジンは…

黒崎 嵐とともに
自分達の本拠地へと戻っていた。



「おかえりなさい!!ジンさん!!」


「あぁ、ただいま戻った」


一同はジンを迎える。
その中には、四天王・東條もいた。


「あかえりなさいませ。ジン様。
そして…



黒崎様」


「久しぶりだな!東條!!

う~ん…堂々とここに戻ってこれるのは
実に何年ぶりだろうな…


元気にやってたか?東條!!」


「はい。もちろんです!!


(チッ…黒崎め偉そうに…

1対1で戦えば、恐らく私の方が実力は上…


しかし、ヤツはジンさんの側近でありながらも…
正直、何を考えているか分からない…

ジンさんも頭はいいが、幼稚な一面もあり
考えが読みやすい…



それに比べ黒崎…
一番厄介なのはおまえだ!!

ジンさんの側にいたいのか…
それとも出し抜こうとしているのか…


何を考えているのかさっぱりだ!
本当は実力さえも私より上なのかもしれない…

貴様は何を…
ジョーカーをどうしようとしているんだ!?黒崎!!)」





第45話 "5人" 完
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