3BECAUSE 第41話
ジョカー・ジンVSキング・ヤコウ

その頂上決戦は、一気にカタがついた。


あまりにも大きすぎる力同士のぶつかり合い。

他のリミテッドである善達が
その力のぶつかり合いに、気づかないわけがなかった。


「!!!

お、おい…
なんなんだよ今の“2つ”の大きな力…」


「それでいて、今一瞬だけ放たれた力…

ケタ違いの強さだった…」


「力のする方角って…

キングのアジトがある方じゃねぇか!?
もしかして今のヤコウの力か!?」


突然出現した、強大な2つの力。
善達は戸惑っていた。この力が一体誰による力なのかを。

しかし、大悟には分かっていた。
今のケタ違いの力が、一体誰によるものなのかが…


「いや、今の強力な力…
あれはキングなんかじゃねぇ…

ジンだ。
長く付き添った俺には分かる。間違いない」


「ジン!!!

まさかとうとう自らヤツが!?」


「そうなると、もしかして…

もう一人は…
キング・ヤコウ!?」


「そ、そんな!!

まずいよ…
トウマさんが危ない!!

早く行かなきゃ!!」


ヤコウの身を心配して
一目散にアジトへと一人で走り出す。


「お、おい!エーコ!

行くぞ!俺たちもヤコウのもとへ!」


この頂上決戦。
リミテッドである者なら、嫌でも力を感じ取ってしまうだろう。

それほど大きな力のぶつかり合いであった。


そうなると、善達以外にも駆けつけた者がもう一人…
いるはずである。






3BECAUSE

第41話
 「すべての始まり」





全速力でキングのアジトへと向かうライジングサン一同。

特にエーコはヤコウを心配してやまない。


嫌な予感はすでにあった…

それでもとにかく、今は急いで駆けつけるしかなかった。



キングのアジトへとたどり着く。

そこにはジンの姿はなかった。


そこにいたのは、横たわっていたヤコウの姿と…

その姿を静かに眺める一人の男。


「!!!

レトイン!!!」


善はまず初めに、レトインがいたことに気づいた。
そして、次に…


「ヤ、ヤコウ!!!!」


血だらけになり、ピクリとも動くことのないヤコウの姿。
無残な姿が、善の目に飛び込んできた。


「トウマさん!!!」


その姿を見たエーコは、慌てて近寄った。
しかし、冷静な男は言った。


「無駄だ。

ヤコウ トウマ
こいつはもう死んでいる」


「!!!

そ、そんな!!トウマさん!!!」


一気に泣き崩れるエーコ。

善達に心は動かされようと、キングへの感謝はある。


元キング・黒崎とは違い

ヤコウを本当に慕っていた、仲間の一人だ。


この状況を見て善は、ふと思った。


「レトイン…
なんでてめぇがここにいる…

もしかして…
ヤコウを殺したのは、てめぇなんじゃねぇだろうな…?」


「えっ!!

ヤコウを殺したのはジンなんじゃ…?」


「ジンなんてどこにもいねぇじゃねぇか…

正直に答えろレトイン。
返答によっては、今ここでブチのめす…」


「………」


レトインは黙った。
善に背を向けたまま、振り返ることなく。


「レトイン!!答えろ!!!」


「………

そうだ。
キング・ヤコウを殺したのは

この俺だ」


「!!!

てめぇ!!!!」


善はレトインを本気でぶん殴ろうとした。


「待て!!善!!!」


飛び掛ろうとする善を、大悟が止めた。


「なぜ嘘をつく…

レトイン」


「うそ…?」


「さっきも言っただろ。

俺には分かってる。
間違いない。あの力はジンだ。

さっきまでジンはここにいたんだ。
そしてヤコウを殺したのはジン!!


そうなんだろ?レトイン」


「………


そうだ。ヤコウを殺したのはジン。
それは間違いない」


善はレトインの言っている意味が分からなかった。

先程は自分が手にかけたと言ったのに
今度は犯人はジンだと言っている。


「どういうことだよそれ…

わけ分かんねぇよ!!」


「俺が殺した…


そのようなものなんだ」


「自分が殺したようなもの…?

だってヤコウを殺したのはジンなんだろ?
さっきから意味が…」


善はレトインに近づいていった。

すると善の目には、自然とあまり見たくない映像が写り込んできてしまった。


血だらけになり、動くことのないヤコウの姿だ。

しかし、それと同時に“あるもの”に気づいた。


「ん…?

なんだこれ…
地面に何か書いてある…」


ジンに敗北し、死を直前にしたヤコウ。

今まであった、ある一つの想いをどうしても伝えたかった。
それでも伝えることができぬまま、死をむかえようとしている…


その想いを伝えるために、ヤコウは最後の力を振り絞った。



地面には文字が書かれていた。

その字は赤く、明らかに自分の血で書いたのだと思われる。


かすれた字ながらも、かろうじて読むことはできる。

そこには、こう書かれていた。





「すまなかった レトイン」





ヤコウがどうしても伝えたかった想い。

それはレトインに対する想い。
そして謝罪の言葉。


「すまなかったって…

なんでヤコウがレトインに…」


善がレトインを見た。
レトインは握りこぶしを作り、震えていた。


「もっと他に…他に残すことがあっただろう…

ここにこんなにも、おまえの死を悲しむ者がいたんだぞ…」


エーコ…

エーコはずっと泣いていた。泣き崩れていた。


今でもヤコウの死を信じたくはなく、現実を受けいることができていなかった。


「レトイン…」


そして善は気づいた。

冷静なふりをしているが、先程からずっと涙をこらえているレトインに。


善はレトインの体を強く揺すりながら叫んだ。


「なぁ…教えてくれ!!

何があったんだ!?
レトインはジンやヤコウのことを以前から知っている…

昔何かあったんだろ!?
なぁ!!本当のことを…“真実”を教えてくれ!!」


レトインは震えた声で答えた。


「真実…?

これが真実だ。

今起きていることがすべての現実であり
これが真実だ!!」


「違う!!!!」


善は叫んだ。心の底から。


「これは…真実なんかじゃない!!

俺は…俺達はまだ何も知らない!


おまえがヤコウを殺したと自ら言っても…

ジョーカーを創ったのはレトインだと自分から言っても…


俺はそんなの信じない!!!
すべてを聞くまで、真の答えを聞くまで、俺はそんなもの信じない!!!」



今まで溜まりに溜まっていた善の気持ち。

レトインが真の敵だと知らされても
善の心の奥底では、レトインを信じる気持ちは変わってはいなかった。


確かにそれは、現実から目を背けているだけで
そうあって欲しいという、善の単なる願望なのかもしれない。

しかし、そんな願望でもいい。
すがれるものがあるなら、何でもすがりたい。


本当の答えを、“真実”を知るまでは
善は誰が何と言おうと、レトインを信じたかった。



「そうだよレトイン!

私達…あんたの言ってることなんて全然信じてないんだから!
だってあんた嘘つきだしね!」


「もうあきらめろよレトイン…

善のあきらめの悪さ…
おまえなら知ってんだろ?

あきらめの悪さで対決したら、善にかなうはずがない。
いい加減、すべてを話してくれ!」


「志保…大悟…」


善だけではない。

志保や大悟だって、本当はレトインのことを信じていた。


「次レトインが話すこと…

それが“真実”だと俺は信じる!!
だから今度ばかりは、嘘やごまかし…

そんなものは一切やめてくれ!!」


先程まで涙をこらえていたレトインが、今度は少し笑った。


「フン…

俺の負けだよ。
おまえらの執念にはかなわん。


分かった。
話そう。“すべて”を。

ジョーカー、キング設立から
今ここまでに至るすべてを」



ここまで来るのに、多くの時間を費やした。

レトインが初めて善達を信じようとしている。


“仲間”と認めようとしている。

とうとうその時が、やってきたのだ。



「よく聞いとけよおまえら…

今から話すことが“真実”であり
すべての始まりであるんだ」


「あぁ…

頼む、レトイン」


レトインは何か肩の荷がおりたような

少し今までより安らかな表情を、そっと善達に見せた。


そして、レトインは静かに語り始めた。



「今から9年前…

俺はリミテッドとなった。


いや、そもそもその時代には、“リミテッド”などと呼ばれているものはいなかった」


「えっ…?

じゃあもしかして、レトインがリミテッド、第一号ってことか?」


「そういうわけではないだろう。

俺よりも前に、リミテッドとなった者はいるはずだ。
だが、俺より前に“リミテッド”と呼ばれたやつはいない」


善は首を傾げた。


「……?

相変わらずレトインの話は分からん…」


「少しは考えろ…

いるはずがないんだ。
なにせ、“リミテッド”と名づけたのはこの俺なのだから」


「!!
名づけ親はレトインだったのか!」


「そうだ。

俺は落雷の事故に巻き込まれたにも関わらず
命を取り留めた。

そんなもの、人間の構造上ありないことだった。
自分が生きていることが、奇跡というより、謎だったのだ。


そして、俺はある時、不思議な力があることに気づいた…

こんな力、人間の成し得ることではない…


自分に恐怖を覚え、人とは違う自分に
孤独感を味わい続けた」


「分かるわ…その気持ち…

私もリミテッドだと自分が知った時…
すごく怖かったもの…」


リミテッドの者、全員にその気持ちはあったことだろう。

共感できることばかりであった。


「そして、そんな孤独さを抱えていた俺は考えた。

この不思議な力…
持っているのは俺だけではないはずだと!


きっとどこかに俺と同じようなやつがいて
俺と同じような悩みを抱くやつが必ずいるはずだと!」


レトインの以前とはまるで違う表情。

今度こそ嘘、偽りなく話していてくれていると
大悟も安心して聞いていた。


「そう考えるのが普通だよな…

自分一人なはずはない。


でも、同じリミテッドの者を探すのは
とても困難だっただろう…」


「あぁ…だが、今は便利な世の中だ。

信憑性の高いものなど数少ないが
ネットってもんがある。


誰か俺と同じような悩みを持つやつが、必ずどこかにいる。
そう信じていた俺は、頭おかしいと思われても構わない…

分かるやつには意味が分かるはず…


俺はネットで呼びかけた。
俺のように不思議な力を持つやつがいたら、集まろうと。

俺は“孤独”が嫌だった…
仲間が…いや、単に“友達”が欲しいだけだったんだ!!」


だんだん話しているレトインの表情が暗くなり
話すのが辛そうになっているのが分かる。


「もしかして…その集まりで現れたのが…」


「あぁ…もうだいたい検討がつくだろ?


もちろん中には冗談半分で嘘ついてるやつ
自分に力があると思い込んでいるやつ…

そんなやつらは何人もいた。
しかし…

その中に、本当に“リミテッド”であるやつがいたんだ!!」


もう全員が予想ついていた。

だが、その予想とは、一箇所だけ違った。


「そこに現れたのが…

“二階堂 仁” “八光 灯馬”」


「やっぱり…その2人だったのか…」


「いや、それともう一人いたんだ」


「えっ…?もう一人…」


「そう…

リミテッドだった者が
ジン、トウマ…

そして…



“レイ”」





第41話 "すべての始まり" 完
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