3BECAUSE 第39話
体が…熱い…

俺の体に、何が起こっているんだ…?


“リミテッド・エレクト”


一体何なんだそれ…
ちゃんと教えてくれよレトイン…

お、おい!
どこ行くんだよレトイン!!



善は必死にレトインを呼んだ。呼び止めた。

しかし、レトインは振り返ることなく

善に背を向けたまま、暗闇へと消えた…



そこで、善の目が覚めた。


「!!!

夢…?」


「善!!目が覚めたのね!!」


志保が善の元へ駆け寄る。


「心配したのよ!あれから2日も寝てたんだから!!」


「俺…そんな寝てたのか…


なぁ志保…
夢…なんかじゃないよな…?

俺、四天王の琢磨を倒したんだよな?
“リミテッド・エレクト”っつー、変な力使って…」


「そうよ!勝てたのも、善のおかげよ!

もしかして…覚えてないの…?」


「なんだか、意識がはっきりしないんだ…

あん時の俺は、本当に俺なのか…?
自分でもよく分からない…」


「確かに、あの時のおまえは別人だったぜ」


「大悟…」


善の目覚めに気づき、大悟も善の元へとやってきた。


「あまりにも起きねぇもんだから、もう起きねぇんじゃねぇかと思ったぜ!」


「はっ…バカ言え」


「ホント心配かけすぎだし。

それに、まだ寝ぼけてんのか、気づいてないみたいだし」


「エーコ…

気づいてないって…何が…?」


「ここ。この場所…

どこだか分かってる?」


「あっ…!!」


善達がいた場所は、以前ライジングサンがアジトとして使っていた所だった。



「なんだよ…結局戻ってきちまったのかよ…」


「考えてみたら、俺達に行く場所なんてなかった。

まぁ今となっては、善もリミテッドとして、スキルアップしたことだし

力を使用しない限り、ジョーカーから居場所はバレることはなくなった…


そうなると、逆に場所がわれてるアジトにまた戻ってくるってのも…

敵の裏をかくことになるかもしれないだろ?」


「そうかもな…

せっかく移動したのに、また場所が知られてるアジトに戻ってくるなんて…

それはそれで、相手を混乱させることになってるかもしれないな!」


いつも見慣れた風景。

今の善にとっては、それが何よりの安らぎ、安心感を与えていた。


「ところで善…

こいつはおまえが持っていたものなんだが…


この写真に写ってる女性は、もしかして…

彼女かなんかか…?」


大悟は善に、少し嬉しそうににやけながら、あの“ペンダント”を手渡した。


「あっ!これは…」





3BECAUSE

第39話
 「交わりあえぬもの」





善は大悟から手にペンダントを受け取った。

ペンダントというよりは、ロケットマンというものか。


善は改めて中を開けて見てみる。

そこには以前と同様に、笑顔の女性が写っていた。


「なんだし!善、ちゃっかりしちゃってるし!」


「ち、違ぇって!
これは俺のじゃない…

おそらくこれはレトインのだ」


「レトインの…?
なんだか…レトインらしくないわね…

ちょっとイメージと合わないいっていうか…」


「確かにな…

(写っていた女性…
俺より年上だろうから、20代ぐらいか…

レトインの妹…?彼女…?
大事な人であることは、間違いないんだろうな…)」


写真を眺め、少し考え事をしていると…


「うっ!!」


「善!!?」


善が再び苦しみだした。


「くそっ…なんなんだこれ…

体が重くて、まだ頭がボーッとしてる…」


「よほど“あの力”が、善の体に負担をかけていたんだろう…」


「あの力…

“リミテッド・エレクト”か…」


「そうだ…

あの時のおまえから放たれたリミテッドの力…
とても凄まじいものだった…

無限に放たれているかのようで…
本来は、リミテッドの力も、限りがあるはずなんだがな…」


大悟があの時の善の状況を伝えていたが

志保が、大悟とはまた別の表現をした。


「ううん…ちょっと違うかも…

善から炎の力が放たれていたんじゃなく…


善自身が炎だった。
私にはそう見えた」


「!!!」


自分自身は、何が起きていたのかまるで分かっていない。

聞かされて、初めて自分がどのような状態になっていたのかを知る。


「あの時の善…正直怖かった…
いつもの善とは全然違っちゃって…

意識もはっきりしてなかったのかもしれないけど…

まるで別人だった…」


「………」


善は自分の持つ力、自分という存在自体に、恐怖を覚え始めていた。


“リミテッド・エレクト”がもたらす力。

リミテッドの中でも、さらに特別な存在である自分…


何も知らない、分からないということが

いかに恐ろしいことかというのを、善は知った。


「悪い…みんな…

ちょっと今は、一人になりたい。
行きたいところがあるんだ…」


「えっ!?あんたそんな体で…

おとなしくしてた方がいいし!」


「大丈夫だ。心配しないでくれ。

それに…
考えたいこともあるんだ…」


「………

分かった。
一人で無理はするなよ?」


「あぁ…分かってる…」



善はみんなと離れ、重たい体を叩き起こしながら

ゆっくりと歩き、ある場所へ向かっていた。


「着いた…」


たどり着いた場所は、レトインと誓いを交わした

あの海の見える場所。


初めてここに訪れたとき、善はここでレトインと誓いを交わした。

次に訪れたとき、レトインは善にこう言った。



『善、おまえが“太陽”になるんだ。
おまえが“希望”になれ!!』


『変えろ…おまえがジョーカーを変えろ!!』



今となれば、この時の言葉の意味も、少し分かる気がする。

俺がショーカーを変える…


これはもしかして俺が…
レトインを止めろってことだったのか…?


なんとなく理解したつもりだが

結局すべては分からずじまいだ…


そして、3度目に訪れた今回は…


善たった一人だった。
いつも隣にいるはずの人物はいない。


(“リミテッド・エレクト”…

志保達の話を聞いても、いまだよく、どんな力なのか分からねぇ…

分かっていることは、とてつもなく強力な力ってことだ。


で、その強力な力を、ジンとレトインが持っている…
もしかするとキングも…エレクトなのか…?


今俺がこうして生きていること自体が奇跡だ…

またレトインに助けられちまった…


よし…決めた…
奇跡だろうがなんだろうが、俺は生きてる!

そうとなりゃ、いくらでも勝つ見込みはある!!)



善はある決心をした。
そのために善はこの場所へ来て、一人となって考えていたのだ。




「善…戻ってきたのね」


「あぁ…すまなかったみんな…
心配かけたな!

俺、一人になって考えて、決めたことがあるんだ…

聞いてくれないか?」


「そのために一人で…
決めたこと?何?話してみて」


「あぁ…じゃあ、よく聞いてくれ。



俺達ライジングサンは、キングと手を組む。

同盟だ。同盟を結ぶ」


「!!!
なんだって!!??」


突然の善の決断に、一同は驚いた。

そして、キングの一員であるエーコが、飛ぶように喜んだ。


「さすが善だし!これだから善は好き!

よく言ってくれたじゃん!!」


「騒ぐなエーコ!それに勘違いするな!

あくまで手を組むだけ…
向こうが言ってた条件通り、これは一時的なものだ」


「………

そ、そんなの分かってるし~…」


「だがな、エーコ…

これはおまえが俺の心を動かして、こうなったようなもんだ」


「えっ…?」


「だいたいな…いくら俺でも分かってんだよ!

なんか裏があんだろ?
エーコが俺達の仲間になろうなんてよ…」


「うっ……」


エーコがライジングに近づいてきたのは、元々はスパイ。

ライジングサンとキングが、手を組みやすくするため。


だがエーコは、善達といっしょにいるうちに

本当の仲間のように信頼し、助け合うようになっていたのである。


「だけどエーコは本当に、本気で俺達といっしょになって戦ってくれた…

間違いなく、おまえは今、俺達の仲間だ!」


「善……」


だいぶキングの目論見は違うが、結果的にはライジングサンとキングが

同盟を組むような形へとなってきてしまっていた。


「おいおい…いいのか善…?」


さすがに大悟も、これでは納得いかなかった。

キングはライジングサンにとっての敵であるからだ。


「いくらエーコが信用できるからって…

キングの野郎は分からんぞ…?
それに手下の黒崎ってやつだって、謎が多い男だ…」


「そりゃ志保や大悟は、納得行かないよな…

けど、俺だってよく考えたんだ。


エレクトの力…まだよく分かりはしないが、こいつはとんでもない力だ…

そいつをジンとレトインが使ってくる…
それに対抗するには、どうしても力が必要なんだ…

それと、もしかしたらキング・ヤコウなら、エレクトのこと、何か知ってるかもしれねぇ!」


そんな説明を受けても、納得がいくはずはなかった。
いや、むしろ、どんな説明を受けたところで、納得いくものではないのだろう…


ライジングサン、ジョーカー、キング

すべてが分かり合えるものではなく、交わりあえるものではない。


「チッ…納得いかねぇけどな…

エレクトでもない、琢磨にあんだけ苦しめられたんだ…
力が欲しいってのは…間違ってないからな…」


「そうだろ?
俺だって気は進まねぇけど、こうするしかないんだ…」




ライジングサンが、キングと同盟を組む決断をした頃…

その時、キング・ヤコウ トウマは…


「トウマさん…

あれからエーコがライジングサンのスパイとして行って、結構な日にちがたちますが…

実際のところ、どうなのでしょう?
橘善は、同盟など組む気はあるのでしょうか…?」


「間違いない…

間違いなく、善は俺達の力を必要としてくるだろう。
それほどに、ショーカー・ジン…


あいつは強すぎる…」


「そうですか…」


「我々にも感じた共鳴反応…

あれは恐らく、善がエレクトとして目覚めた証…

そうなればますます、エレクトの力を持つ、ジンの強さが分かってくるはずだからな…



だがな、嵐…
それだけではまだ足りないんだ…」


「足りない?

善達を仲間にしたとしてもですか?」


「そうだ…

むしろここが一番大事なところかもしれん…」


ヤコウは少し黙り、険しい顔つきで言った。


「どうしても必要になるんだ…

“あの男”の力がな…」


「あの男…?」


「あぁ…
ジンに勝つための、必須条件だ…


レトイン
ヤツがいなければ、まずジンに勝つことなど不可能だ」


「レトイン…ですか…

ん?あれは…?」


キング・ヤコウと、黒崎嵐が話す中…

キングのアジトには、ある一人の人物がやってきていた。



「お、おまえは……」





第39話 "交わりあえぬもの" 完
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