3BECAUSE 第38話
善の右手に刻み込まれた謎のマーク
そのマークが、強く光り輝く。


(何やってんだ…俺は…

自分から突き放したくせに
俺はレトインに助けられた…

情けねぇ…情けねぇよ…
俺は…俺は…)


「何やってたんだよ!!!!」


善は叫んだとともに、全身が真っ赤な炎に包まれた。



(そうだ…善…

それだ…その力だよ!
今こそ、目を覚ますんだ!!

おまえは…選ばれたんだよ…
奇跡の中の奇跡…


“リミテッド・エレクト”)





3BECAUSE

第38話
 「リミテッド・エレクト」





リミテッドとして、とてつもない素質を持っていると言われた男・橘善。

その善が、ようやく力を発揮しようとしている。


善の目覚めに、いち早く気づいたのはジョーカー・ジンであった。


「!!!

こ、これは…
俺の左手にあるマーク…

こいつがいつに増して光輝いてやがる…
そうか…


目覚めたか!橘善!!
ようやくだ…ようやくおまえも“俺達”のステージへと上がってこれたわけだ!!」


善から遠く離れた場所から、善の目覚めに笑いの止まらないジン。

この目覚めは、ジンだけではなく、すべてのリミテッドの者に影響を与えていた。


「この光…そして包み込む炎…
こいつが…

“リミテッド・エレクト”!!

ジンさん…
あんたからのもう一つの指令…

きっちり果たしましたよ」


善達の相手をしている四天王・琢磨。
彼に与えられていた任務の一つ。

どうやらそれは、善が“リミテッド・エレクト”の力を発揮させることだったようだ。


「しかし、この力…
なんなんだ…

エレクトでもない俺でさえ、とてつもないパワーを感じる…
リミテッドである者同士が、共鳴しあってるというのか…」


何か不思議な力を感じ取る琢磨。
いまだ善は、自分の身に何が起きているのか、うまく把握できていない様子である。


(なんなんだ…?この溢れる力は…
レトイン?あいつが俺に何かしたのか?

何かいつもと違う…
どんどん力が沸いてくる!!)


「やつの力は、メンタルはもう残っていなかったはず…
それなのにこの溢れんばかりの力…

エレクトの力は底なしなのか!?」


先程から琢磨が感じ取っていた、不思議な力。
その力が、次の瞬間、なんとなくではあるが、分かり始めようとしていた。


「な…なんだ…?
この強い光…」


「!!!」


琢磨は驚いた。
なぜなら、完全に戦闘不能となっていた、大悟が目を覚ましだしたからだ。


「大悟!!
なぜおまえが…俺が完全に貴様を叩きつぶしたはず!!」


それが、大悟までもか
エーコまで立ち上がりだした。


「あれ…?あたし…
さっきやられてた気がするし…」


そして…


「善!!!」


「志保!!
おまえまで目を覚ましたのか!!

大丈夫だったか!?みんな!!」


ついさっき、瀕死となったばかりの志保まで目を覚ました。
このタイミングで、ありえないほどに一斉に全員同時に目を覚ましたのだ。


「こいつはおかしいぞ…
橘善の覚醒…

こいつは何かすべてのリミテッドの者に、影響を与えちまってるというのか!?
俺にも感じる力…

これもすべて善のせいか…」


突然目覚めたため、善の身に何が起きているかまるで飲み込めない大悟達。


「善の体が炎に包まれている…
善から大量の力が溢れているのか…?

いや、違うな…
その逆だ。


善から炎が出ているのではなく…
善が炎となっている…そんなふうに見える…」


いつもとは違う善の姿に、一同は目がいったが…
志保は一人、“あの男”の存在に気づいた。


「!!!
あれって…レトイン!!!

レトインじゃない!!
やっぱり…助けに来てくれたのね!!」


「何!?
レトインだって!?」


気を失っていたため、レトインが助けに来たことを志保達は知らなかった。

その元・ライジングサンであるレトインは…
工場内の自分が現れた、2階の非常口にいた。


「なんだし…
あいつ助けに来てくれたんじゃないの?

なんか外出て帰ろうとしてるし…」


志保達に気づかれたレトインは
この場を逃げるように立ち去ろうとしている。

そこで志保が叫んだ。


「ねぇ!また行っちゃうの!?

助けに来てくれたんだしょ!?
戻ってきてくれたんじゃないの!?」


「………」


レトインは黙った。
そして、志保の問いかけには一切答えることなく言った。


「善…覚えておけ…

それが…
“リミテッド・エレクト”の力だ。

おまえは…選ばれたんだ」


「“リミテッド・エレクト”…」


(もうこれで…勝負は見えただろう…

俺の助けなど…
もう必要はない…)


「!!!
ねぇ!あれ見て!!」


志保がまた、立ち去ろうとするレトインの“何か”に気づいた。


「!!!
光ってる…あいつの右肩が…

まるで善と同じように…」


その“事実”を知った善は、小さく笑った。


「はっ…またやられたな…

またあいつに、うまくごまかされてたわけだ!


(レトイン…
てめぇも“リミテッド・エレクト”…

なんだな…)」


(善、ジン、そして俺…

ジン…
段々おまえが望むような展開になってきてるようだな…


どうするつもりだ…ジン…)


レトインは善に一言だけ残し、この場を立ち去っていった。
レトインはライジングサンに戻ることはなかった。


「チッ…ジンさんと善までもか…
あいつがエレクトだとはな…

気にくわねぇな!
まぁいい…


見せてもらおうか、橘善。
そのエレクトの力とやらをよ!」



そう…善はレトインの雷の力によって、死を免れたが…

まだ琢磨との戦いが終わったわけではなかったのだ。


「あぁ…覚悟しろよ…

なぜだかは分からねぇが、今の俺なら
おまえに負ける気がしねぇ!!」


(けっ!よく言う…
確かにその力は凄そうだが…

何も別に剣術のスキルが上がったわけじゃねぇ!
あいつは剣だけなら大悟より弱い!

俺が負けるわけがねぇ!!)


善のおかげで、すっかり立てるほどに回復した一同。

これから始まる、覚醒した善VS琢磨
この戦いに、ふと志保は思った。


「ねぇ大悟…
今の善…あいつの体にはずっと炎がまとってる…

これじゃ琢磨も、得意の“闇”の力を使えないんじゃない?」


「確かにな…
だが、さすがにあいつの闇だって、そこまで弱くはない。

武器の大鎌ぐらいは使えるだろう。
たった一つの武器ではあるが…


正直、琢磨にはそれで十分なほどだ。
あいつは本当に強い…

俺もやつに致命傷を与えることはできなかったんだ…」


目の前の善の姿を見ても、臆することのない琢磨。
琢磨は全くひるむことなどなかった。


「行くぜ善!
まともにやれば俺が負けるわけねぇ!!」


琢磨は善に攻撃を仕掛けた。
一方善は、何か一人小言を言っていた。


(くそっ…レトインの野郎…

またあいつに助けられちまった…
俺達はもう敵なんだ…


なのに…
俺はあいつに今、感謝しちまってる…

あいつに礼を…?
いや、なんでそんなこと…


とにかく…何かあいつには言わなきゃ気がすまねぇ…
俺は…あいつにもう一度会うまで…



絶対死ねない!!!)



善の目つきが変わった。
善は炎の剣を作り出した。

しかも、先程挑戦したばかりの“二刀流”だ。


「!!!
二刀流か!!

まぁ…
予想はついてたよ!」


琢磨が先に攻撃を仕掛けていたはずだが…
善の攻撃は鋭く

両手から繰り出される攻撃を
なんとか凌ぐことで精一杯だった。


(こ、こいつ…
どんどん成長していく…

戦い始めた頃とは、まるで別人のようだ…
恐ろしい速度で強くなっている…


それでいて…この“力”…)


「すごいし…
善の剣…なんかいつもよりでかくない?

倍ぐらいある感じするし!」


「あぁ…もしかしたら、いつもの善のイフリート・ソード…
あれはメンタルを気にして、限りなく力を抑えていたのかもしれないな…

どうやら今の善は、メンタルを気にする必要性がないと見える」


今善が手にしている二つの炎の剣。
エーコが言ったように、通常の倍ぐらいの大きさがあった。


(厄介なのはそれだけじゃねぇよ…
大悟の大剣並の大きさのくせして…

大悟の土の剣のように、火には“重量”がない!
おそらくとてつもなく軽い!


そのリーチにして今の速度…
これは…手がつけられねぇ…


だがよ…
いくらなんでも、俺が負けるわけねぇだろ!!)


琢磨は自信に満ちていた。
エレクトの力、そして今の善。

琢磨は完全に見くびっていた。


「死ね!!!橘善!!!」


「だから…俺は死なないっての…」


「ん?なんか言ったか!?」


大鎌を手に、向かってくる琢磨。
善は微動だにしない。

琢磨の攻撃が善に触れる寸前、善が動き出した。


善は両手に握られた2本の剣を合わせ
一つの大きな大剣へとした。


「!!!
2つの剣をまた一つに!?」


ただでさえ大きかった善の剣。
その剣は更に倍へと膨れ上がった。


「こんなとこじゃ俺は…

死ねねぇんだよ!!!」


善は一気に巨大な剣を振り下ろした。
琢磨の大鎌による攻撃…


善が振り下ろした一撃は
琢磨の大鎌を完全に切り裂き

琢磨の体まで貫いていた。


「がっ…バカな…
たかが…ちょっと力が使えるようになったからって…

簡単に…俺が負けるなんて…」


「………」


エレクトとして目覚めた善。
先程まで苦戦していたのが嘘かのように

たった一振りで勝負は決まった。


「善!!やった!!
琢磨を倒した!四天王を倒したよ!!」


大逆転の勝利に喜び、善のもとに一同は走りよる。
善にも笑顔が見られると思われたが…


「善……?」


善には一つも笑顔はなかった。
本当にいつもの善とは別人ようで

仲間であるはずの志保が、恐怖を覚えた。


善はゆっくりと歩き出した。


「お、おい!善!
どこへ行くんだ!?」


大悟の声が聞こえなかったのか、それとも無視したのか…
どちらかは分からないが、善はゆっくりとレトインが出て行った非常口の方へと歩き出した。


善の意識はもうろうとしていた。
恐らく、今自分でも何をしているのか、よく分からなかっただろう。

そんな状況下で、善はそっとつぶやいた。


「レトイン…」


そう静かに言い、善はうつむいた。
そして、善は床に落ちている“あるもの”に気づいた。

善はゆっくりとしゃがみこみ、あるものを拾う。


(なんだこれ…ペンダント…?)


善は誰のものか分からないペンダントを、そっと開けた。
そこには見知らない、一人の女性が写っていた。


(誰だこれ…?てか誰のだこれ…?
もしかしてこれ、レトインの…かなぁ…)



意識がいつ飛んでもおかしくない善。
ついに限界が来た。

がっくりと膝から崩れ落ち、ペンダント片手に
善は意識を失った。


「善!!!」


善が床にうつぶせで倒れ
その勢いで善の手からペンダントが放り出される。


善の目が閉じると同時に
ペンダントのフタもゆっくりと閉ざされた。

ペンダントに写っていた笑顔の女性
その女性は、また再び闇へと閉じ込められてしまった。





第38話 "リミテッド・エレクト" 完
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