3BECAUSE 第36話
「琢磨は俺が一人で倒す。俺を信じてくれ、善」


「言ってくれるねぇ~…大悟!

おまえの意地…プライド…
立派なもんだ!サシでの勝負、受けてたつよ!!」


大悟の挑発。

普段やる気を出すことのない、四天王・琢磨を、とうとう乗る気にさせてしまった。


「何言ってんだよ…何やってんだよ!!

こんな時に、勝負なんかにこだわってる場合かよ大悟!!


(俺だって大悟が勝つことを信じたい…

どうしたらいいんだよ…俺は…

今すぐ1対1の戦いを止めるべきか、それとも…
大悟の意志を尊重すべきか…


こんなとき俺は…
“あいつ”みたいに冷徹にはなれない…

俺はどうすれば…
どうすればいいんだ…)





3BECAUSE

第36話
 「窮地」





「善!!俺を信じろ」


大悟が善に、必死に目で訴えかけてくる。


「………

分かった。大悟、俺はおまえを信じる!
1対1の真剣勝負、琢磨はおまえに任せた!!」


まさかの善の判断に、志保は驚いた。


「ちょっと善!あんたまで何言ってんのよ!

私達が琢磨の影を倒したところで無意味なのよ!?
本体を倒さなきゃ意味がないっていうのは分かってることでしょ?」


「あぁ…分かってるよ。

だから本体の琢磨を、大悟が一人で倒すんだ。
俺は大悟を信じてる」


「あんたバカだし!!」


「ありがとよ…善」


琢磨にたった一人で挑む大悟。

それに対して、琢磨の影
ドッペルゲンガーの相手をする

善、志保、エーコ…
影相手に人数を注ぐことは明らかに無駄である。


しかし、これには大悟の考えがあった。

決して大悟は、己のプライドでサシの勝負を申し込んだわけではなかった。


(なんとかうまくいった…
口で説明するわけにはいかないからな…

仮に本体に多人数で挑んだとすれば…
きっと琢磨の影が、本体を守ろうと、いっしょになって戦うはめになる…

今一番脅威なのは、本体と影が同時に襲ってくることだ…
一人だけでもこんなに強いのに、その強さが同時に攻めてきたとしたら…な。


だから本体と影を別々にさせて、戦うしかない。
恐らく善一人では琢磨を倒すことは不可能…

となると、挑むのは俺しかいない。
俺も一人では、正直無理かもしれんがな…


これに賭けるしかないんだ。
俺が…なんとしてでも倒す!!)


そんな大悟の苦肉の策を知ることもなく
善達は影との戦いに挑んだ。


「まったく…意味ないことと分かってて戦わなきゃいけないなんて…

まるでやる気出ないし」


「そんなこと言ってると、影にやられるぞエーコ。

大悟と琢磨の勝負に手出したら、俺が許さないからな。
特に志保!」


「わ、分かってるわよ!

そんなことより行くよ!」


こちらには影に相性のいい、善がいる。


「俺の火の力で、消えてろ!
ファイヤー!!」


善が火の力を放つ。
すると、琢磨の影は、善と同じように闇の力を放ってきた。

その互いの力は、ぶつかり合って消滅した。


「なるほど…さすがは琢磨の影…

そう簡単にやられてくれはしないんだな」


善は大悟に琢磨を任せた。
だが、そうは言っても、どうしても大悟の方が気になってしまう。


「どうした大悟?本当にこんなもんなわけ?

確かにこれじゃぁ四天王にはなれねぇなぁ…」


「黙れ!!そんなもの、なりたくもない!!」


(やっぱり大悟がおされてる…

俺の判断は、間違いだったのか…?)


善は大悟の戦いを見ていた。
そこに生じる大きなスキ。


「善!!危ない!!」


よそ見をする善に、影が大きな闇の鎌で斬りかかった。
しかし…


「何よそ見してんだし。
あんたあたしに助けられてばっかじゃん?」


エーコが氷の盾で守ってくれていた。


「エーコ…」


「しっかりしろし!
あんたが大悟に任せるって言ったんじゃん?

だったら黙って自分は自分に集中しろし!!」


「そうだよ!善!

善の火の力があれば、なんとか3人で協力して
影ぐらいなら倒せるよ!!」


「志保…エーコ…

悪かった…

(大悟を一番信じてなかったのは、俺か…)


2人とも、力を貸してくれ!
まずはこの影を倒そう!!」


ようやく善は、目の前の敵に集中した。

この出来事から、3人の歯車は、うまくかみ合いだしてきた。


エーコは守りに専念し、志保はアクア・ウィップで敵の体を拘束する。

もちろん攻撃の主体は善である。


「よし!うまく決まった!

私の水のムチで、あいつは今身動きが取れない!

今がトドメよ!善!!」


「おし、任せろ!!」


影・闇の弱点をつく善の攻撃

イフリート・ソードで善は琢磨の影を切り裂いた。


「やったし!!
やっぱ協力すれば、琢磨の影でもなんとかなるし!!」


ターゲットを影だけに絞った善達は
ほぼ無傷で、琢磨の影の撃破に成功した。


これで今度こそは琢磨本体、と思ったが…



「遅かったね。待ちくたびれたよ」


「!!!」


善が琢磨の方に振り返ると、そこには…

血だらけになった大悟が横たわっていた。


「大悟!!!」


善がすぐさま、大悟に駆け寄った。


「おい!大丈夫か!?しっかりしろ、大悟!!」


「……善…」


「!!
大悟!!

(よかった…まだ息はある…)」


「すまなかった…俺一人では…

勝てなかった……」


「もういいんだ…

話さなくていいから、静かにしててくれ…傷口に響く…」


大悟を見てうつむく善に、琢磨がふっかける。


「見てくれよこの斬り傷…
あ~痛ぇ…

2、3太刀ほどあびちゃったよ…」


「てめぇ…!!!

大悟、あとは俺たちに任せろ!!」


1対1で戦っても、勝つことは無理も承知。

大悟の策など、誰も理解してはいなかったが…


誰一人、大悟や善を責めることはしなかった。

あのエーコでさえも…


「もう俺は十分だよ…大悟との戦いでお腹いっぱいだ。

あとはテキトーにやらせてもらうよ」


「!!なんだと…?」


そう琢磨が言うと、また琢磨は新たな自分の影を作り出した。


「!!!
琢磨のドッペルゲンガー…

これでは琢磨2人を同時に相手するようなもの…」


大悟が最も恐れていた事態が起きてしまった。


「あとは…
テキトーに遊んでるだけで終わるかな…」


琢磨、琢磨の影による大鎌の乱舞。

倒れて身動きの取れない大悟。
その瀕死の大悟にも、うっすらとこの光景が見えていた。


大悟の目に写った琢磨は、琢磨が言っていた通り…

まるで遊んでいるかのようだった…



(つ、強い…
勝てるのかここから…)


そこまで時間は必要なかった。

善、志保、エーコが瀕死の状態になるのは…


「大悟同様、本当にしぶといんだな!おまえらは!

善…まずはおまえから殺してやるよ!!」


「!!!」


まずは善が狙われた。
だが、幾度となく助けられてきている…

エーコが善を氷の盾で守りに入った。


しかし…
瀕死のエーコにそんな力はなく…

氷の盾を貫き、鎌の攻撃がエーコの体に入った。


「エーコ!!!」


「あたし…何やってんだろ…

(もともとスパイで来てたはずなのに…
なのに…


こんなにも…勝ちたい…)」


大悟に続いて、エーコが倒れた。


「おっと…先に違うやつが…

残りはあと2人」


「くっ…

くそーーーっ!!!」


怒りまかせに、闇雲に善が飛び込んだ。


「善!!やめて!!!」


志保の叫びも聞くこともなく
火の剣片手に飛び込んだ。


「なんだ…ついにヤケを起こしたか?」


「そんなんじゃねぇよ!!!」


善はイフリート・ソードを琢磨目がけて振る。

しかし、いとも簡単に琢磨の大鎌に止められてしまう。


「随分と遅い…
大悟のがよっぽど速かったよ…

おまえじゃ役不足だ…」


止められたはずのイフリート・ソード…

だが、そのイフリート・ソードが琢磨の体を切り裂いた。


「ぐあっ…

な、なんだと…?」


止められたはずのイフリート・ソードがなぜ…?

不思議な顔をして琢磨が善を見ると…


善の手には、“2本”のイフリート・ソードが握られていた。


「二刀流!!??」


「善…二刀流なんていつの間に…」


(そんなもんできやしねぇし、うまく扱えやしねぇ!

力も残り僅かだし、どうすることもできねぇけど…

最後まで攻めて攻めまくるしかねぇ!!!)


今まで余裕ぶり、遊んでいるかのように戦っていた琢磨が
急に表情を変えた。


そして、脅威となっていた自分の影のドッペルゲンガーを

元の自分の普段の影へと戻した。


「!!!
影を消した…なんで…?」


「橘善。

ここに来てもまだその気力…
窮地にたたされ、この土壇場で閃くその発想力…


久しぶりに俺もやる気になった…」


「やる気になった…?」


「忘れたのか?

一番おまえたちが恐れていたことは、俺と俺の影の一斉攻撃なんかではないはず…」


(こいつ…急に何を言ってやがる…

今までと、雰囲気が全然違う…)


「今日は大悟だけで十分だと思っていたが…
おもしれぇ逸材だ…

リーダーが、少しおまえを恐れていた意味が分かった…


けどよ…
まだ俺は見てないんだよな…それが今回のもう一つの指令でもある…」


「………?

どーいうことだ…?さっきからわけ分かんねぇよ!!」


「それは…
こういうことだよ!!!」


琢磨は天井目がけて、闇の力を無数も放った。


パリン!パリン!!


天井にある、いくつもの電球がすべて壊れた。
そして…


すべてが“闇”に包まれた。


「!!!
そ、そうだった…

最も俺達が恐れていた事態…
それは…これか…」



すべての光は失われた。
すべては闇へと変わった。

善に宿る希望の光も…


すべて消えた。





第36話 "窮地" 完
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