3BECAUSE 第35話
ジョーカー四天王・琢磨VSライジングサン

ダークリミテッド、闇の力にライジングサンは苦戦していた。


天井にわずかに光る、今にも切れそうな灯り。

そこから放たれる光から、自分達の分身の“影”が産み出されていた。


「あの天井の電球を破壊すれば、恐らく影は消えるだろう…

しかし、あの光がなくなれば…
もはやこの空間はヤツのフィールドと化すだろう」


「マジかよ…

でもそれおかしくないか?
だったらなんで最初から真っ暗にして戦わないで、影なんか作って回りくどい戦い方を…

って…もしかして…


あいつ…
まだまだ本気じゃない…?」





3BECAUSE

第35話
 「捨てられぬプライド」






「なんてことだ…
ただでさえ影のドッペルゲンガーを攻略することに必死だって言うのに…

やつはまだまだ力を隠し持ってるってのか!?」


一同が言葉を失った。

今だドッペルゲンガー攻略の糸口さえ見いだせていない。


「そう考えるとすごい先が思いやられるけど…

まずはこの影…
なんとかするしかない!!」


影と戦ってどんどんメンタルを消費していく。

本体の琢磨と戦う前に、すべてを使いきるわけにはいかない。


しかし、善達の前にはいずれも影が立ちふさがる。


「くそっ!!邪魔すんな!!

俺達はおまえら影を相手にしてる場合じゃねぇんだよ!!
琢磨を伐たなきゃ…じゃなきゃ意味ねぇんだ!!」


ここでエーコが嫌なことに気づいてしまった。


「あたし…思ったんだけどさ…

この影を倒しても…
また琢磨が新しく影を作り出すんじゃん!?」


「!!!」


「今はあいつ寝てるからいいけど…
あいつ寝てるからメンタルの消費も少ないんだろうし…

せっかく倒しても、やつが目を覚ませばまた影を作り出される気がするし…」


「あり得るな…

例え実体となった影を倒したとしても、きっと影はまた俺達の本来あるべき影に戻るまでだろう…

そしてまたやつが力を影に注げば、ドッペルゲンガーとして動き出すに違いない…」


これはあくまでエーコと大悟の推測にしかすぎなかったが、今ドッペルゲンガーとして生み出されている影…

この影は善達の地から離れて動き出している。


普段は地から離れずついてくるはずの影が、実体となって意思を持ち動き出しているのだ。

だからドッペルゲンガーを倒したとしても、完全に消滅するわけではなく…

また元あった地に戻ると考えた方が自然であった。


「もしそれが本当だとしたら…

影を倒しても倒してもキリがないじゃない…
この戦い…どうなるの…?」


「確かにキリがねぇな…

もうこうなったらマジであの電球ブチ壊して、本気で勝負するか!?
これじゃいくら戦ったって終わらねぇじゃねぇか…

ん…!?待てよ…」


少しヤケを起こしそうな善であったが、その時あるおかしなことに気づいた。


「何だか俺の影…
こいつだけみんなと比べて何か変じゃなぇか…?」


今戦っているドッペルゲンガーは、メンバー全員分
すなわち4人分存在していた。

善、志保、大悟、エーコの分身と呼べる影だ。
しかし、その中でも善の影だけに違和感があった。


「!!!

本当だ…
善の影だけ、他の影と比べると…

一回り小さくなってる…?」


「そうだ!
みんな分身なわけだから、背丈も体格も同じはずなのに…

俺のだけ自分の身長より低くなってる!!
でもなんで俺のだけ…」


「もしや…

善の武器がそうさせたんじゃないか!?」


「俺の武器…?
このイフリートソードがか…?

そ、そうか!!
考えてもみろ!あの分身共は、いくら同じ強さを持つと言っても…


所詮は“影”、“闇”だ!!
ってことは、もちろん“光”に弱い!!

俺の火の力による光で、どんどん力が弱まってたのか!!」


ドッペルゲンガーをまるで攻略できないでいたが
ここに来てようやく攻略の糸口が見えてきた。


「そうと分かれば楽勝じゃん!!

火の力でやっちゃえし!!」


「あぁ!!
なんでこの“相性”に気づかなかったんだ!!

くらえ!ファイヤー!!」


善は自分の影に向かって、火の力を放った。


「おっ!効いてる効いてる!

でもこれじゃまだ力が足りねぇみたいだな…
もっと力を溜めてブッ放す!!」


「それならまかせろし!
その間達があたしが時間を稼ぐし!!」


弱点さえ分かってしまえば、もはやライジングサンのペース。

守りに特化したエーコを筆頭とし
力を溜める善を全員で、影からの攻撃から守った。


「おし!こんなもんだろ!
みんなありがとよ!

溜めるに溜めた力、見せてやる!!
“火炎地獄”!!!」


善が力を放つと、大きな炎が工場内を取り囲むように立ち上がった。

この攻撃は、以前エーコと戦ったときに見せた技だ。


「あたし達まであっついし!
でもあたしこれ知ってるし!!

これやられたら、あたしの氷の攻撃出せないんだし!
それぐらい影響するんだから、これを放てば…」


「!!
見ろ!!影が…ドッペルゲンガーが…

どんどん小さくなっていくぞ!!」


「よっしゃぁ!!
これでもう影からの攻撃も終わりだぜ!!」


火から放たれる“光”によって、ドッペルゲンガーは見る見るうちに力を失い始めた。
そしてついには…


「あっ!影が…私達の元に…」


琢磨の命令で敵となり動き出していた自分達の影が
本来あるべき場所、いつも通りの地へと戻っていった。


「倒した…
ようやくドッペルゲンガーを打ち破ったぞ!!」


打ち破ったことを喜んだが、元に戻った影を見て大悟は


『戻ったということは…
またやつの手によって、出現させることができる…』


そう察して、喜びながらも少し不安を覚えた。



戦いの邪魔となっていた影も消え、残すは本体の琢磨。

まだ立ち上がる炎が勢力を落としながら燃える中で
四天王・琢磨は…


「あいつ…

こんな状況下でも寝てるし…」


まだ眠りについていた。
ドッペルゲンガーが消滅してるにも関わらず。


「これってもしかして超チャンスじゃね?

苦しめられた分、俺がきっちりお見舞いしてやるぜ!!」


眠る琢磨に近づき、善はイフリートソードを構えた。
そして琢磨に斬りにかかった。



しかし…


キン!!!


善の攻撃は受け止められてしまう。


「第一段階突破!やるじゃねぇか!!」


「てめぇ…起きてたのか…?」


寝ているように見えた琢磨は、実は起きていた。
四天王もそんなに甘くはない。


「起きたのはさっきだけどね。
こんなに熱けりゃ、寝られるわけねぇじゃんか…」


そう言うと、琢磨はゆっくり起き上がる。


「さっきの攻撃…

“こいつ”で受け止めたわけか!」


「まぁね…

やる気はイマイチ出ないけど、さすがに痛い思いしたくないんでね」


先程の琢磨と違い、琢磨の片手には“武器”が握られていた。

ようやく戦闘モードに入るようだ。


「その武器は…鎌?」


「あぁ。大鎌ってやつ?

闇って言ったら鎌が似合わねぇ?
カッコイイだろ?だからこいつにしたのよ!」


リーチが長く、大勢を相手するには、もってこいと思われる
闇の力で作られた大鎌

それが琢磨の武器だった。


「そんな理由で選ぶとは…

ふざけているように思えるが…
もちろん本気なんだろうな」


「当然!

ようやく周りの火の力もおさまってきたわけだし…
こっからまた完全に俺のペースでしょ!」


善の放った火炎地獄。
その力も今やほとんど失われていた。

少し力を溜めたぐらいでは、長時間はもたないようだ。

「くそっ…
もう終わっちまったか…

やっぱもっと力溜めなきゃだめだったか…」


「これで闇の力も安心して使えるな!

またお前達の分身、ドッペルゲンガーでも作って、俺はゆっくり休んでようかなぁ~…」


(予想通りね…
いくらでも影は生み出せる…

何度倒しても意味がない…)


「けどまた同じの作るんじゃおもしろくないな!
なにより…

おまえ達の分身じゃ弱い」


「!!!」


「だって、この中で一番強いのは…

俺だからね!
俺の分身作った方がおもしろい!」


そう自信満々に琢磨は言った。

今までまるでやる気がなかったくせに、急にこの態度。
琢磨の強さと自信に疑いを持つ善が、強気に出た。


「えらい自信だな!
一番強いのはおまえだ…?

そりゃ聞き捨てならねぇな…」


先程の琢磨のセリフに、善が苦言を呈す。


「この中で一番強いのは…



大悟だ!!
大悟、やつと戦って証明してみせろ!!」


「お、俺かい!!」


これを聞いた琢磨は、あざけ笑うかのように、鼻で笑った。


「大悟か…

俺はめんどくさがり屋だから、訓練とかよくサボってたし…
そーいえば大悟とは一度も手合わせしたことなかった…」


「あぁ…そうだな…」


「あんまり真面目にやってないと、さすがにジンさんにも怒られちゃうしな…

めんどくさいけど…
やってやるか!行くぞ大悟!!」


「来い!!!」


一度も自分から攻撃を仕掛けてこなかった、四天王・琢磨が
ここに来て始めて自ら攻撃を仕掛けだした。


琢磨はリーチのある大鎌を振る。
リーチが長い分、大悟の体から少し距離がある。


(何!!!速い!!!)


琢磨のキレのある攻撃に、一同は驚いた。


(なんだこいつ…

弱いんじゃないのか…?)


琢磨の俊敏な攻撃が続く。
今までののんびりなイメージが、ガラリと変わった。


「だ、大悟…

大悟が…押されてる…?」


善は大きなショックを受けた。
大悟は剣術において、自分より上の存在。

その大悟が、琢磨に圧倒されている。


(くそっ…

あの鎌のリーチでこの速さ…
これでは全然ヤツの懐に入り込めない!!

ちまちま俺達の分身で体力削られるより、よっぽど強力な相手じゃないか!!)


「こんなもんだったのか?大悟って…」


「だ、黙れ!!」


傍観者となりかけてる、善たちに琢磨が気づく。


「他のやつらも暇だろ?

もう一人の俺が、今そっち行くからさ!」


大悟と琢磨が1対1の戦いを繰り広げている中…
善たちの前には…


「これは…琢磨の影…
琢磨のドッペルゲンガー!!」


琢磨の分身が立ちふさがった。
琢磨は自らの分身を作り出した。


「あれだけ大悟が苦戦するのを見せられると…」


「大丈夫だし!こっちには相性がいい善がいるんだから!

さぁ善、また火炎地獄おみまいしろだし!」


「簡単に言うな!
あれはすげぇ時間かかるんだよ!

さっきもみんなに時間稼いでもらってやっとだったろ…

でも相性がいいのは確かだ。
やるしかねぇな…」


善達は分身と戦い始めようとしたが、防戦一方の大悟が目に入る。
それに気づいた善が、志保とエーコに声をかける。


「俺の方はいい!!
どうせ分身だ。倒しても意味がねぇ!!

2人とも、大悟のサポートに回ってくれ!」


「そうだね!大元を倒さなきゃ、何もならないしね!

大悟、今行くから!」


志保とエーコが、大悟のもとに急いで駆けつけようとする。
しかし…


「来るな!!!」


「えっ…?大悟…?」


「俺の方は大丈夫だ…

いいからお前たちは、影の方を相手していろ!!」


「でもそれじゃ…」


「いいからそうしろ!

琢磨は俺が一人で倒す。俺を信じてくれ、善」


「言ってくれるねぇ~…大悟くん。

キミの意地…プライド…
立派なもんだよ!サシでの勝負、受けてたつよ!!」


普段やる気をあまり出すことのない琢磨だが
今の一言で、どうやら本気にさせてしまったようだ。


「何言ってんだよ…何やってんだよ!!

こんな時に、勝負なんかにこだわってる場合かよ大悟!!」


「………

俺を信じろ…善」


「バカ野郎!!!


(俺だって大悟が勝つことを信じたいよ…

けどこっちは分身だぞ!?戦ったって意味ないんだぞ…?

そんなプライド…必要あるのか…?
どうしたらいいんだ…俺は…

今すぐ1対1の戦いを止めるべきか、それとも…
大悟の意志を尊重すべきか…


こんなとき俺は…
“あいつ”みたいに冷徹にはなれない…

俺はどうすれば…
どうすればいいんだ…)





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