3BECAUSE 第33話
突然仲間に加わることなった、キングのエーコ。
しかし、エーコはキングの送り込んだスパイ。


そうとも知らず、善と大悟はエーコと、徐々に打ち解けはじめていた。


「なんだかいろいろ落ち着いたら、腹減ってきちまったよ~…」


「あたしもだし…
さすがにジョーカーの東條の強さには驚いたし!」


「あぁ…確かにあの強さには正直驚いた…」


「こんなことにならないためにもさ…
あんたら、いい加減“ここ”から離れた方がいいんじゃん?

もうここにいても隠れ家になってないし」


エーコの言うとおりだった。
ライジングサンが拠点とする場所…

ここは随分前に、ジョーカーにもキングにも、場所はバレていた。


もはやアジトとしては成り立っていない。

“安全”という言葉は、ひとつも見つからないだろう。


「そうね…この場所にこだわる必要は、まるでなくなった。

善も無意識のうちに放っているリミテッドの力も、抑えることできるようになったみたいだしね」


「そうだな…知らないうちにできるようになってたなぁ」


「そんなもんさ…

(まぁそいつをマスターしちまうのも、異例の速度だけどな…)

これで俺達が力を放出しない限り、居場所はジョーカーのやつらにも
分からなくなったってわけだ」


「そうか!ならここにはもう用なしだな!
元々生活できるとこじゃねぇし。

じゃあここを離れよう。
これからは別にどこかに留まる必要もねぇかもな」


ライジングサンの一同は、しばらくの間、拠点としていたこの場所から、離れることを決めた。

それと善が決めたことがもうひとつ。


「あとそれとだな…

エーコも増えたことだし、もう迷うことはなかったな…

明日の夜10時。俺達はジョーカーの挑戦状を受ける!!
四天王をぶっ倒す!!」


「お、おい!いいのか?さっきまであんな慎重になっていたのに…」


「あぁ…さっきまでの俺…どうかしてた…

変な拍子に現れたエーコだったけど、なんだかおまえのおかげで、
うだうだ悩んでんのがバカらしくなったわ!」


そう…善は元々気が変わりやすく、気分の浮き沈みが激しい人物。

エーコの出現により、事態は混乱していたが、今の善には好都合であった。


ジョーカー東條に対する恐怖心…

決して消えたわけではなかったが、持ち前の明るさと楽観的思考が
徐々に上回り始めていた。


「はぁ~…その辺があんたらしいというか、なんというか…」


「わりぃな!
今からジョーカーの2番目の四天王倒せなかったら、
この先なんて勝てんのかって話じゃんか?

だから行く。勝つしかねぇ!!」


「そうだし!罠だろうとなんであろうと、勝てばいいんだし!!

それなら何の問題もないじゃん!!」


「その通り!!」


大悟は呆れていた。
だがこれは、予想できることでもあった。


(やはりこうなってしまったか…

善がこうなってしまえば俺が言っても言うことを聞かない…
レトインがいれば、少しはあいつに言い聞かせることができたかもしれないがな…

仕方あるまい…
あとは勝てるかどうか…

エーコは一度戦っているとはいえ、強さは未知数…
なにしろ信用おけん…)


強張った顔をする大悟に、善が気づいて声をかけた。


「なぁ~に!心配することねぇよ大悟!

勝てばいい!俺達は勝つんだ。
何の心配もいらねぇよ」


「………

そうだな…

(戦うと決まった以上、これ以上考えても仕方ないか…

勝つしかない…
確かにそうだ。もう自分達を信じるしかない)」


大悟も腹をくくった。
生か死か…最終的にそこに行き着いた。


「よっしゃ!決戦は明日の夜10時!!
それまで今日はみんなゆっくりしよう!」




3BECAUSE

第33話
 「いらない覚悟」






その日の夜。


隠れ家としての役目をまるで果たしていない、この隠れ家で最後の就寝。

全然寝付けない人物達がいた。


「善…寝れないの?」


「あぁ…志保か…

なんだ?おまえもか!?」


「えぇ…
明日は四天王との対決だからね…

いつもはジョーカーがいつ襲ってくるか分からない…
そんな恐怖があったけど、明日戦うと事前に知っているってなるのも、これはこれで怖いものね…」


明日自分が死ぬかもしれない…
ライジングサンのメンバーに、恐怖がないわけがなかった。


「あんたも同じ?」


「そうだな…正直明日が来るのが怖い…

それにジョカーのことだ…
明日決戦なんて言ってても、騙して今襲ってくるかもしれねぇしな…」


「ありえる話ね。何をしても不思議じゃない…
約束や決まりなんて守るようなやつらじゃないし…

でもそれなら心配しなくて平気。
大悟はね、寝てるように見えて、完全に寝てるわけじゃないの。

寝込みを襲われるようなことがあれば、すぐに勘付いて目を覚ますから」


善が大悟を見てみると…
大悟は完全に寝ていた。少なくとも善の目にはそう見えた。


「あ、あれで寝てないって言うのか…?」


「えぇ。多少なりの意識はあるみたい」


「あいつはホント人間かよ…
恐れ入ったわ…」


善は大悟に頼もしさを得たとともに、少し恐怖も覚えた。


「でもあんたが寝付けない理由…

怖いからじゃないんじゃない…?」


「………」


善は黙った。


「後悔しているの?善…」


「えっ…?」


「レトインのこと…

レトインを突き放してしまったこと…
そうなんでしょ?」


「そんなわけねぇだろ!!
第一に、突き放すようなことをさせたのはあいつの方だ…

後悔も何も…
いけないのはあいつだ…」


「そうね…」


二人は地面に座り込んだまま話していた。
大悟とエーコ寝ている。

善はうつむきながら言った。


「なぁ…志保…

明日の四天王戦…
もし俺が負けそうになったら…


おまえらだけは逃げてくれ」


「!!!

何バカなこと言ってんの!!
それに戦うまえから負けること考えてるなんてあんたらしく…」


「違うんだ」


「えっ…」


少し大きな声を出した志保に対し、善は冷静に静かに対処した。

いつもならここで善も熱くなって反発してくるであろう。


「おまえ言ったよな…?

相手がどんな強い相手でも、生きてれば勝てる可能性はあるって」


「い、言ったわよ…」


「確かにその通りだと思った…

死んじまえばすべては終わり…
でも生きてさえいれば、また戦いに挑むことができるしな…」


「けど私が言ったのはそーいうことじゃない!!

初めから負けること考えて戦うのなんて…
そんなの意味ないよ…」


「東條にあって、自分の実力を知った。
これが俺なりに真剣に考えて出た結果だ…

全員死ぬわけにはいかない…
たとえ俺が死んでも、すべては終わらない」


志保はまた善がマイナス思考になり始めている…
そう最初は思った…

しかし…
例え“自分が死んでもすべては終わらない”


この発言を聞いて、これは善だからこそ出た
前向きな考えだと気づいた。


普通ならば、自分の死は人生の終わり…
それはすべての終わりだ。

けれど善は、自分の死の先の世界を考えた。


この考えはあの時の悲観的な善では、出てこなかっただろう。

志保は善の覚悟を知った。


「善…あなたの覚悟は分かった…
十分伝わった…でも…

死ぬ時は全員で死にましょう。
きっと大悟も許さない。もちろん…

レトインもね…」


「………」


「あんたの決めた覚悟は、私たちもいっしょに背負い込むから。

勝手な真似はさせないわよ?」


「そうか…
ちぇっ…一人かっこつけるわけにもいかなかったか…

ありがとう…」


善は照れながら志保に背を向けた。
それは恥ずかしかったと同時に…

目から溢れて、こぼれそうになった涙を隠したかったからかもしれない。


「さぁ…いい加減寝ましょう」


「あぁ…」


二人はまた横になり、目をつぶった。
そしてそのあとに、一人が静かに目を開けた。


(善のバカ野郎が…いらん覚悟決めやがって…

そんなの気持ちだけで十分だよ…)


二人の会話を、実は大悟も聞いていたのだった。

しかし大悟は、自分も起きていたことを二人には告げず、また眠りに入った。



そして次の日。
約束の10時は刻々と迫ってくる。

ライジングサンのメンバーは、案内された場所へと向かっていく。


「ここか…
四天王がいるって場所は…」


そこはあまり使われていなそうな、古ぼけた工場。


「いかにもジョーカーが好みそうな場所ね…」


「さぁさぁ!開けるし!
なんでも来いだし!!」


「えらいやる気だなエーコ…

よし、中に入るぞ」


錆びて重たくなった大きな扉を、力いっぱい開けた。
その工場の中には…


「え~っ…マジで来ちゃったの!?

戦わなきゃいけないのか…
めんどくさっ…」


「お、おまえが四天王か!?」


「そうだよ。
俺が四天王の一人の琢磨。よろしくね」


(な、なんだこいつ…
こいつ本当に四天王か…?)


四天王の琢磨が待ち構えていた。

工場内は非常に暗かったが、今にも切れそうな電球のわずかな光のおかげで
かろうじて周りが見えている状況だ。


「ふぁ~ぁ…眠いけど…

敵さん来ちゃったわけだしね…やるとしますか!」


「なんだし!やる気あんのこいつ!?」


「エーコ。油断だけはするな!!」


「だって…」


エーコと大悟がもめていると…
謎の“ある物体”が目の前に現れた。


「な、なんだこれ…?」


志保があることに気づいた。


「これって…大悟…?」


「おい!俺はここにいるって!!」


「だってこれ…どうみても大悟じゃない…

ぼんやりとしてるけど…全身真っ黒の大悟…?」


志保がわけの分からないことを言ってると
その謎の物体は突然志保を襲ってきた。


「!!!
なっ、なにこいつ!!」


「大丈夫か志保!!」


心配する善であったが…


「善!!おまえの後ろにも“何か”いるぞ!!」


慌てて善が後ろを向くと…
先程とは違う謎の物体が立っていた。

そのシルエットはどうみても…


「お、俺か…?これ…?」


善にそっくり、いや、善そのものだった。


「もしかしてこれ…」


善が後ろを振り返った時、また志保が重大なことに気づいた。


「影…?善と大悟の影なの…?」


「影ってどーいうことだよ!?」


「だって今…

光に当たって写るはずの善の影がない!!」


「なっ、なんだって!?」


「なーんだ。もう気づいちゃったのね」


一同がパニックを起こす中、四天王・琢磨がうれしそうに言った。


「そいつは俺の力で生み出された…

“ドッペルゲンガー”さ。



“ダーク・リミテッド”

“闇”の力でね」



第33話 "いらない覚悟" 完
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