3BECAUSE 第32話
ライジングサンの一同は、ジョーカー・四天王の一人であり

なおかつ、ジンの次に強いと言われる男…


“東條”に、善との実力の差を、まじまじと見せつけられてしまった。



「くそっ…くそっ…

何もできなかった…何も…」


善は屈辱感と、あまりの自分の無力さに

地面にひれ伏せてしまっていた。


慰めかけるように、大悟が優しく声をかける。


「善…そこまで落ち込むな…

あいつが紛れもなく強いことは明確だ。
俺だって、正直死んだと思った…

俺も何一つできはしなかった…」


「………」


善は大悟の顔を、目を見ずに言った。


「そんなこと…素直に言うなよ…

自分が情けないと思わないのか…?」


「確かに情けないこと言ってるかもな…

だが、俺達はチームだろ?
一人では勝てなくても、力合わせて全員で勝てばいい」


「俺達が力合わせて、束になってかかって行っても…

あいつに勝てんのかよ…?」


「まず無理だろうな…今の段階では」


「だったらどーすりゃいいんだ!!

ジンだって…更に上にはジンだっているんだぞ!?」


冷徹に本心を語り続ける大悟に、善はムキになり始めた。

だが、そこで志保が言う。


「どうすればいいかなんて分からないけど…でも…

私達はまだ生きてる。
生きてる限り、まだ可能性はある」


「可能性…か…

ほぼ0に近いけどな…」


「どうしちゃったのよあんた…

今までのあんたなら…絶対弱音なんて吐かなかった!!
あんたの性格がうつって、私はこんなにもあきらめ悪くなってしまったっていうのに…」


「………」


(善…失ったのは、レトインだけじゃなかったか…

心が折れてしまったか…?)


「とにかく…東條が言ってたわよね…

明日の22時。どうするの?」


「………

少し…考えさせてくれ…」


「それがいい。どうせ罠だ…
何も無理に飛び込む必要性もない」


「そうね…いったいどんな仕掛けがあるか分からない…」


「でもこれじゃなめられっぱなしじゃん?

なめられっぱなしじゃ嫌だし…
相手をぎゃふんと言わせてやりたいし!」




「………


!!!
今の口調…もしかして…」





3BECAUSE

第32話
 「魔性の女」





聞き覚えのある特徴的な語尾。

3人共、一斉に後ろを振り返った。


そこにはやっぱり“あいつ”がいた。


「!?何だし…」


「キングのあの女!!
あんたいつの間にいたの!?」


そう。キングの氷の力の使い手。
“エーコ”だ。


「いつの間にって…キングのアジトからここまで、ずっとあんたらの後ろにいたし」


「なっ、なんだと!?」


「あたしも死んだかと思ったし!
あいつ強すぎじゃん!」


「ずっと隠れてたのか!?
貴様、何しに来やがった!!」


「何しに来たって…だってさ…
どうせいずれはキングとライジングサンは手を組むわけだし…

いても変じゃないじゃん?」


聞き捨てならないセリフに、慌てて善が反論する。


「ちょっと待て待て!!一言も手を組むなんて、こっちは言ってねぇぞ!?」


「それにさ、あたし気に入っちゃったんだよね!」


「む、無視か…」


「気に入った?」


「ほら!あんたらとあたし、一戦交えたじゃん?あん時にさ…」


(あぁ…結局は最後トドメってとこで、キングの黒崎嵐に阻まれちまったんだっけ…)


「仲間を信じてるってやつ?
感動したし!あたし心打たれちゃったし!

さすがにレトインの存在にはびびったけど…」


(てかこの子…こんなに話すやつだったのか…?)


「だからいいじゃん!仲良くやれば!

まぁだめって言われても、勝手についていくけど」


今まで敵同士であったはずなのに、突然変わったエーコの態度…

元々エーコは変わった人物で、性格が読みづらかったが…
ここに来てますます分からなくなった。


「はぁ~…私ほんとこの女だけはだめ…

超苦手だわ…なんとかして…」


どうも志保は、エーコとはまるで馬があわないらしい。


「なんとかしてって言われても…

こうも張り合いがないとなぁ…」


「あぁ…やりづらいな…それに…
ジョーカーに多くの強敵がいるのが分かった…

明日はもしかしたら四天王と戦うかもしれない…

ここでの無駄な戦闘は、なるべく避けたい…」


「じゃあ…どうすんのよこいつ…
ついてくるって言ってるわよ…?」


強引に仲間に入ろうとするエーコだが、志保に対し、強く言った。


「ちょっと!あたしあんただけは許さないし!

あんたのこと気に入ったわけじゃないし!」


「……?なんでよ…」


「忘れたの?
この前あんたがリミテッドでの攻撃を仕掛けてきたから、戦うはめになったんじゃん!

あの後、嵐とトウマさんにこっぴどく怒られたんだし!
あんたのせいだし!」


「執念深い女ね!まさかそんな理由とは…」


さっきまでの緊張感が、まるでうそのようだ…

ひどく落ち込んでいた善も、このわけの分からぬ事態のおかけで、
実は少し気が楽になっていた。

その点だけはエーコに救われた。


「で、四天王のまえに…まずこいつをどうする…?
大悟…」


「そうだな…キングの何かの狙いか…

イマイチ信用はできんが…

(レトインがいない今、以前よりも一人分…
いや、それ以上に戦力を失ったに等しい…

正直なところ、一人でも多く戦力が欲しいところ…
仕方あるまい…)

ついてくるって言ってるんだ…
こいつの相手をするだけ、時間の無駄だろう」


「やった!いいってこと?

あんた話分かるじゃん!」


「ちょっと!大悟~…」


明らかに嫌な顔をする志保。


「だったらおまえがなんとかしろよ」


「えぇ~…無理こいつだけは…」


こんな拍子で、ちゃっかりとキング・エーコは、しばらくライジングサンと
行動をともにすることとなった。

しかし、はっきりしなければならないことが、善にはあった。


「言っとくけどな…だからってキングと手を組むって話と、これはまた別だからな?

そこだけは勘違いするなよ!」


「はいはい!そこはあたしだって分かってるし」


一時的なもののつもりだが、キング・エーコを受け入れた善。

今までの善ならば、考えられないことであったろう。


しかし、東條の出現により変わった。

驚異的な強さを見せつけられ、善の心境も以前とは大きく変わっていた。


「そんじゃ、よろしくね!
善に大悟に…

あとメス豚」


「メ…メス豚!?」


エーコと志保の仲は相変わらずではあるが、善と大悟は何とかやっていけそうだ。

だが……



(きゃはは!簡単じゃん!ライジングサン!

あたしがあんたらに感動した?気に入った?
バカじゃん!!

これはトウマさんからの指令だし…

あたしがライジングサンに近づき、いずれキングと手を組ませるようにする。
それと…

橘善や大悟らの弱点や弱みを調べる。

すんなり仲間に入れちゃったし!
あたしやったよトウマさん!!)



突然人が変わったように、好意的となり近づいてきたエーコ…

実はこれはキングが送り込んだスパイであった。


元々分かりあえない者同士…
うまくやっていけるはずがない。

キング・八光トウマは、だいぶ先のことまで計算していた。


エーコを送り込んだのは、キングと同盟を組みやすくするため。

もう一つは、協力してジョーカーを倒した後は、またお互い敵同士に戻ることとなる…


その時、善達を倒しやすくするための弱点を探すこと。

ヤコウはここまですでに計算していた。


その作戦に、まんまとハマってしまったライジングサン。

偶然ではあるが、ジョーカー・東條の出現が、
ライジングサンを狂わせてしまったのは言うまでもない。




一方、その頃番狂わせ張本人の東條は…

ジョーカー本陣へと帰還したところだった。


「ただいま戻りました。ジンさん」


「おぉ…東條。早かったな!
どうだった?」


「はい。伝えるべきことは、伝えてきました。

しかし…
お言葉ですがジンさん…

ライジングサンの橘善。ジンさんが気にかける男…
実力はいかほどなものかと、とても楽しみにしていたのですが…

あれでは…話になりません。
ジンさんほどのお方が、橘善など、まるで相手にする必要はないのでは?」


「………

そうか…そう判断したか…
確かに現状ではそうだ…まるで話にならん…

だがな東條…
のんびりやってると、おまえもいつか足下をすくわれるぞ?」


「!!!

はっ!大変失礼いたしました!
誰が相手だろうと、油断してはならない…

申し訳ございません」


「そう…それでいい。東條。
下がれ」


「はっ、はい!失礼します」


ジンから思わぬ渇を入れられた東條は、ジンのもとから離れていった。


東條がいなくなると、ジンは左手をさすり、
遠く離れた場所にいる善に話しかけるように言い出した。


「橘善…まだまだこれからだろ…?
おもしろくなるのは…
もっと俺達を楽しませろよ…

俺の相手に相応しい…

そう呼ばせるほどの、高みまで早く上りつめて来い!!
橘善!!」


ジンのさすった左手には、謎のマークが光り輝いていた。


明るみを好まないジンは、いつも闇に包まれている。


その闇の中で一つだけ明るさを持つ光…

その唯一放つ光が、ジンの不敵に浮かぶ笑みを捉え
より一層不気味にさせていた。





第32話 "魔性の女" 完
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