3BECAUSE 第31話
善達はレトインをおいて、目の前から立ち去った。

善は後ろを振り返ることせず、前へと進んだ。


その後ろ姿をレトインはひたすら眺めていた。

まだ近くにいるはずの善の背中が、やたら遠くに感じた。


追い打ちをかけるようにヤコウが言う。


「はっはっは…一人きりになっちまったみたいだな」


レトインはヤコウを睨みつけながら言った。


「フン…一人きりはおまえの方だろ」


「なんだ?負け惜しみか?

橘善…邪魔者のおまえさえいなければ、俺達キングのものだ」


「善はそんなに甘くはない。
おまえの思い通りに動きはしないぞ」


「どうかな…」


「まぁいい…もう俺と善は関係ない。

すべては善自身が決めることだ」


そうレトインはヤコウに言い、この場を離れていった。



「トウマさん…レトインはキングの敵…?
仕留めなくてよかったのですか?」


「構わん。あいつは相手にすると厄介だ。

俺達の敵はジョーカー・ジンだ。
それを忘れるな嵐」


「は、はい…すいません。

しかし橘善…ヤツは我々の力となってくれますかね?」


「そのつもりだ…だが…

ジンだって黙っちゃいないだろう」


「そうですね…必ず阻止してきます」


「あぁ…それより一番の問題は…

恐らくライジングサンのブレーンはレトインだったに違いない。
そのレトインを失ったライジングサン…

橘善の考えはまだまだ子供だ。
その善が判断を誤れば…

ライジングサンはいとも簡単に消滅するぞ」





3BECAUSE

第31話
 「無力」





その頃、ジョーカーには、キングがライジングサンと接触をはかったことが伝えられていた。


「ジンさん…キングは一体何を考えているつもりでしょうか?」


「おおよそのことは察しがつく。

キングがライジングサンを呼び出したか…
おもしろい。ならばこちらも動くとするか…

おい!琢磨!!」


呼ばれた一人の男が、めんどくさそうにフラフラと歩いてきた。


「ふぁ~ぁ…俺ですか?」


「出番だ。橘善とその一味を抹殺しろ」


「俺かよ…だりぃ…
綾音のバカがミスるから俺がこんな目に…」


こう見えて、琢磨も四天王のうちの一人だ。
いよいよ2人目が動き出す。


琢磨が善達のとこへ向かおうとした時、もう一人別の人物が声をかけた。


「お待ちください!ジンさん…

私に行かせてもらえませんか?」


「“東條”…まだだ。おまえはまだ早い」


「いえ…そうではありません」


「何?」


「毎回毎回、こちら側からあちらに出向く必要性もないかと思いまして…

キングのように、こちらからおびき寄せてみるのはどうでしょう?」


「なるほど…キングと同じように呼び出すってわけだな」


「えぇ…その役目を私に任せていただきたい」


「それは名案だな。だが、東條。
わざわざおまえが出向く必要もないだろう」


「気になるんですよ…一体橘善ってのがどんな人物なのかね」


「そうか…ならおまえに任せよう。

橘善をおびき出す、その役目」


「ありがとうございます」


ジンと東條が話を終えると、気の抜けた声で琢磨が言った。


「なんだよぉ~…東條さんが善の相手してくれんのかと思ったよ…

結局相手すんのは俺かぁ…めんどくせぇ」


「すまないな琢磨。決戦は明日。
俺がおまえの得意なフィールドに持ち込んでやるからよ」


「へ~い…期待してますよ~」


そう言って、とてもやる気のない足取りで、琢磨は戦いの準備に入った。


「相変わらずだな琢磨は…あんなんで大丈夫なんですか?」


「あぁ…あいつは任務だけはきっちりこなす男だ。
心配はない」


「そうですか…それならいいんですが…

では、私は橘善のところへ向かうとします」


「あぁ。頼んだぞ」




ジョーカー四天王が動き出したことなど、全く知ることのない善達。

善達はキングのアジトから、自分達のホームまで 歩いて帰っていた。


善は歩きながらブツブツと、ひたすら独り言を言っていた。

もちろん考えていることはレトインのことだった。


レトインに対する怒り…


(レトインの野郎…ふざけやがって…

あいつがジョーカーを作っただって?
なのに俺にジョーカーを倒せなんて…

わけわかんねぇよ!それに…)


レトインにはいくら文句を言っても足らなかった。
しかし、それ以上に…


(なんですべてを話してくれなかった…?

あいつがどーいう理由で、どんなつもりでジョーカーを作ったかは知らねぇが…

なんで俺達に話してくれなかったんだよ…?

俺達はチームじゃ…“仲間”じゃなかったのかよ!?
結局あいつはいつも肝心なとこは隠して話さないで…

やっぱりあいつにとって俺達って、そんなもんだったって言うのか…)


何より…善は悲しかった。


一人肩をおろして歩く善に、志保と大悟の二人は、何の声もかけることができなかった。

もちろん二人も辛かった。レトインの本性には、ショックを受けた。


けれど、誰よりもショックを受けているはずなのは善…

それを二人は分かっていた。
そんな善に、なんて声をかけていいか、どうしたらいいのか…

歩いている間、お互い会話はまったくなかった。


沈黙状態が長く続いたが、ようやく三人は自分達のホーム付近へと帰ってきた。

その時だった。
善達がいつもいた場所に、何者かの人影が見えたのは…


「ん…?誰だ…?誰かいるぞ!?」


まずは善が誰かいることに気づいた。


「!!
なるほど…あなたが橘善ですか…」


「だ、誰だおまえは…」


そして、その人物に志保と大悟も気づいた。


「!!!

な、なんであんたがこんなとこにいるんだ…

(なぜこのタイミングでこいつが…)」


「ん?あぁ…

久しぶりだね。裏切り者の志保に大悟君」


二人はこの人物のことを知っていた。
善が志保達に聞いた。


「おい…誰なんだこいつ?」


「こ、この男はね…

ジョーカー四天王の東條」


「!!!
四天王だって!?」


「それだけじゃない…

こいつは四天王の中でも、最も強いと言われている男…
いや、次世代のジョーカーを担う人物、ジンの次に強い男!!」


「!!!

(ジンの次に…だと…)」


「そこまで言ってくれるとは志保…

照れますね。でも…
ジンさんにはまだまだかないません。

次の世代なんて当分来ませんよ」


「そんなことはどうでもいい…

なぜ貴様がこんなところにいるんだ!!」


「なぜ?おかしなことを言う人ですね…

あなた達の居場所は、とうにこちらに割れている…
そんな場所を拠点としてる方がおかしいと思いますけどね!」


元々突発的に動く善。
その善が、いつもに増して冷静さを失っていた。


(こいつがジンの次に強い男…
てことはジョーカーのナンバーツー…

こいつをここで倒せばジョーカーの勢力は一気に弱まる!
こいつを倒せば…倒せば!)


無意識のうちに善は、闘志をむき出しにし、東條に攻撃を仕掛けようとしていた。

だが…


(うっ!なんだこれ…こいつ…
いったい今何を…?)


善の気持ちとは裏腹に、全く何もすることができない。


(な、なんだこれ…?こいつは“何か”している!?
どんなリミテッドの能力だ…!!)


一切情報のない強敵をまえに、何もできない自分…

ここでようやく多少の冷静さを得た。
そして、初めて気づく。


まだ相手のリミテッドの力を感じ取ることがうまくできない善でも分かる

未だかつてないほどの大きいリミテッドの力。
それに伴う殺気。


「す…すげぇ…」


思わず善も、声に出してしまった。


(リミテッドの力がハンパねぇ…

これが…これがジョーカーの二番手…
か、かなうわけねぇ…)


普段は超プラス思考、負けず嫌いのの善もすんなり認めた強さ。

それと同時に今分かる…


恐らく同等の力があると予想される

キング・八光

強さは未知数だが、間違いなく力はあると思われる

レトイン


この二人がいかにして、善と対峙しても敵意を殺して話していたのかが…


(キングの嵐の力もすごかった…
でもこいつの場合は比じゃねぇ!!

でも…
ジンは…これ以上に力が上…?)


「やめておきなさい。橘君。
キミでは相手にならない」


「!!!
くっ…」


東條は、善が自分に攻撃しようとしたことに感づいていた。


「何も私はあなた達を倒しにやってきたわけじゃありませんよ…

今日は招待状を渡しにやってきたんです」


「招待状…?」

(このパターン…もしや…)


「このメモが書いてある場所に…

明日の夜10時。私とは別の四天王がいます。

決闘を…
ライジングサンとジョーカー・四天王の決闘のお誘いです」


「決闘ですって…?そんなふざけた話を…」


「いいではないですか。キングの誘いは受けて、ジョーカーの誘いは断るんですか…?

そんなの理不尽すぎますよ」


「やはりな…やり方がキングと同じ…

俺達がキングと会ったってのも、すでに情報として入っているってわけか」


「えぇ…ジョーカーの包囲網の広さ…

元ジョーカーのあなた方ならよくご存じでしょう!?」


「………」


「では…用件は終わったので…

私は帰らせていただきますね」

(橘善…ジンさんが恐れているから…

どれだけすごいのかと思えば…
この程度の力か…

それに、まだ幼すぎる。これでは…
琢磨に勝てるかも怪しいですね…


期待はずれもいいとこだ…
つまらない…実につまらないよ…)



そっと静かに東條は帰っていく。

結局善は…
一歩も動けなかった…


緊張の糸がとけたと同時に、善はひざまづいた。


「何も…何もできなかった…」


悔しそうな表情を浮かべ、握り拳を作り

地面を何度も何度も叩いた。


東條がいなくなり、安心している自分がいたからだ。

幾戦もの死線を乗り越えてきたはずなのに…
死への恐怖は消えることはない。


「何も…何も…

俺には何一つもできないのか…」


さっそうと帰っていく、四天王・東條の背中を見つめる善…


後を追うことも、叫ぶこともできず…

ただ眺めるだけ。それしかできなかった。


遥か遠くに消えたはずの東條だが…

善にはその後ろ姿が、いつまでも目に焼き付いて、消えずに残っていた。




第31話 "無力" 完
第30話へ
STORYトップに戻る
第32話へ