3BECAUSE 第30話
「善…正直に答えよう…

俺はリミテッドだ。
そして、ジョーカーを作ったのは…この俺だ」


「レトインが…リミテッド…

レトインが…ジョーカーの創設者だと…?
嘘だろ…?嘘なんだろ?嘘だって言ってくれ!!」


善はレトインの体を揺すりながら叫んだ。


「………」


レトインは何も答えようとはしない。


「言ってくれよ…なぁ!嘘だと言ってくれよレトイン!!」


キング・ヤコウは、空を見上げながら言う。


「さすがだ…天候まで操れるのは…
貴様ぐらいかもしれんな」


すかさず志保も空を見上げる。


「えっ!?このおかしな天候…まさかこれもレトインが…?

いや…待って…
この光景以前どっかで…」


先程までの天気とはうって変わって、激しい雷雨。
あまりに急激な天候の変化だ。


一同が空を眺めていると突然


ドーーン!!
と、バカでかい音をたてながら、雷がレトインめがけて落っこちてきた。


「うわっ!なんだ!?」


善達は慌てる。
しかしそんな中、一人静かにレトインが話し出す。


「ならば善…これでもう信じてくれるか?

俺はリミテッドだ。
“サンダー・リミテッド”
雷の力だ」





3BECAUSE

第30話
 「一滴のしずく」





「この天気…この雷がレトインの力…

なんだったんだよ…今まで俺達は何を信じてきたって言うんだよ!!」


キング・八光以外の人物は、初めて知る真実。

普段クールで冷静な黒崎も、さすがに驚いた。


「まさか…ジョーカーを創ったのが、このレトインと言う人物だとは…」


大悟はもちろん、レトインがリミテッドだと睨んでいた。

しかし、レトインがジョーカー創設者とは、思ってもみない。


そして、今まで共にレトインと行動し、何の疑いも持っていないと思われた志保…

だが実は、志保もレトインに疑惑を抱いていたのだ。


(ジョーカー創設者とは驚いたけど…

やはり彼はリミテッドだったのね…
どうりであの時…)



これは、大悟がまだジョーカーで、善と大悟が戦っている時の話。



『あいつは…
志保!志保じゃないか!!なんで志保がこんなところに…』


レトインは善に頼まれ、買い出しに出かけていた。
その間に、ジョーカーに送り込まれた刺客・大悟が善を襲う。

レトインは善のもとへ急ぐ。
その時、数時間前に決着をつけたばかりのジョーカー・志保とレトインは遭遇する。


『!!
あ、あなた…善といっしょにいた…』


『チッ!!もしや復讐に来たか!?

(この急いでるときに…なんてタイミングが悪い…)』


『急いで!!話してる時間なんてない!!』


『!?ど、どーいうことだ!?』


『今、橘善がジョーカーに襲われて、大変な目にあってる!!

早く…急がないと!!』


(こ、こいつ…?善を助けに来たのか…?)

『これは一体どーいうことだ!?さっきまでおまえは俺達とは敵で…』


『いいから!!早く!!善を死なせたいの!?
早く助けに行くわよ!!』


『あ、あぁ…!!』



志保は復讐などではなく、善に借りを返すために、善の救出へと向かっていたのだった。

これがきっかけで、志保は善と行動を共にすることになるわけだが…


この時志保は、レトインにひとつの疑惑を抱いた。


(この男…なんでなの…?明らかにこの男は…



善の居場所が分かっている…?)


善達が拠点とした場所は、夜になると真っ暗で、明かりなど何ひとつない。

草木が生い茂り、あたり一面同じ景色が続いている。
一度入り込んだら、簡単に迷ってしまいそうだ。


(こんな場所なのにあのレトインは…
迷うことなく一直線に善達の方へと向かっていた…

まるで…
善と大悟が放つ“リミテッドの力を感じ取っている”かのように…)




「やっぱり…レトイン…あなたはリミテッドだったのね…

それにこの光景…“あの時”と同じ…」


志保はこの不思議な天候を眺める…
そこでキング・エーコが言った。


「この天気…なんか変だし…

うちらんとこだけ雨に雷じゃん…」


善達の真上にある、真っ暗な雲。激しい雨が降り注ぐ。
しかし、遠くの方を見ると…

いたって何てことない天気で、一切雨などは降っていなかった。
この善達がいる一部分だけ、局所的に天気が荒れている。


「だから言っただろ?この天気、あいつの仕業だってな…」


「八光の言うとおりのようだな…

これこそがレトインの力…それに…
なぁ、志保」


「えぇ…このおかしな天気…
“あの時”と同じ。

私と善が手を組んで、大悟と戦っていた時に起きた…
あの奇跡の“勝利の雨”と」


「そうだったな…あの時もこんな不思議なことが起きた。

雨さえ降らなきゃ、2対1でも俺が勝つことができたんだ…
なのに、突然の大雨…

そのせいで俺は負けた。

運が悪かったなんて思ってたけど…
まさかレトインが仕掛けてた雨だったとはな…」


「………」


レトインは黙った。
そして善が言う。


「レトイン…今まで俺達を利用してただけなのか…?

俺は…俺達はおまえのこと信じてたんだぞ!?

それなのに…おまえがあの犯罪組織のジョーカーを創っただって!?
今まで騙してたのか?なぁ!なんとか言えこら!!」


「………
何度も言ったはずだ。

俺が“敵か味方かは貴様が判断しろ”とな」


「ふざけんなてめぇ!!!」


善はレトインの対応に腹を立て、レトインに飛びかかろうとした。


「ま、待て善!!」


そこを必死に大悟と志保が善を力づくで引っ張って、止めに入る。


「何かあるとすぐてめぇはそれだ!!

こっちは全部さらけだして話してるって言うのに、てめぇはちっとも心開いてきやしねぇ!!」


「落ち着きなさい。善!熱くなってたらまともに話なんかできない!」


「そうだ!少しは冷静になれ!

レトインはおまえが戦いで死にそうになれば必ず助けてくれた。

俺との戦いの時、四天王・綾音の時も!
レトインは影ながら助けてくれたじゃないか!!」


抑えつけられる善は、振り返って志保と大悟の方を向き、静かに言った。


「なんだよ…みんなレトインの味方かよ…?」


「いや…そーいうわけじゃ…」


その善の目には、うっすら涙が浮かんでいた。

そんな涙を堪えていた善が、レトインに向かって言う。


「俺は…志保がジョーカーに入った理由を聞いた時…

ホントあんたには感謝したんだ」


「!!!」


「ジョーカー・ジンが自暴自棄になった志保に優しい声かけて、ジョーカーへと誘い込む…

もし最初にリミテッドについて話してくれたのがあんたじゃなかったら、
俺ももしかしたら志保みたいに…

ってな。
心の底からレトインには感謝した!」


「………」


「だから俺は、ちょっと変わったやつで、少し怖ぇ部分があるあんただけど…

信じてみようと、あんたの言うことは正しいんだと…
そう思って今まで信じてやってきたのに…

それなのに…それなのに!
なんだったんだ今までのは…

ジョーカーを創ったのがあんただったなんて…」


「善、話せばきっと分かる!
レトインだってジョーカーを創った何かしらの理由が…」


「どんな理由があるって言うんだ!!!」


善は声をあげ、体を引っ張る大悟達をめいっぱいの力で振り切った。

そしてとうとう、善の目から涙がこぼれ出た。


「理由も…いいわけも…何も聞きたくない!!

レトインはジョーカーを創った!!
そこに…なんの偽りもないんだろ…?

レトイン!!!」


「………

あぁ…ジョーカーを創ったのは俺だ」



否定して欲しかった…本当は…
言い訳して欲しかった…

ほんの少しでも
“やったのは俺じゃない”
ってことを、アピールして欲しかった。


けれどあいつは、いつもと同じように冷静に返事をした。



その言葉を聞いた俺は…気が付くとレトインの目の前まで走ってた。

そして俺の拳は…
レトインの顔のすぐ隣にあった。


「善!!やめなよ!!」


レトインは全く動じなかった。
きっと自分でも思ったのかもしれない。

殴られても当然だと…


けど俺の手は…止まった。


「何も変わらないじゃないか…
何も!何もかも!!

俺がおまえを殴ったって…何も変わらない!!

ライジングサンがキングを敵対視してるからって、手を組むのを拒んだって…
何も変わらないじゃないか!!

ジンを…ジョーカーを倒さなきゃ、何一つ変わりやしないじゃないか!!!」


「そうだ。それが今の現状だ。

倒せ…ジンを。
ジョーカーを止めるんだ…善」


善はレトインを殴るのをやめて振り返り、レトインに背を向けた。


「チッ…結局あんたの言う通りかよ」


そう言って、善は服の袖で目をこすった。


「いいか…レトイン…これだけは覚えとけ…

ジョーカーを倒し、キングを倒し…そしたら…

その次はおまえだ。
忘れるなよ。


行くぞ!志保!大悟!」


「行くって…?」


「帰るんだよ。もうこんなとこに用はねぇ」


「え、えぇ…」


善と志保は、レトインを背にして歩き出した。

しかし大悟は…


「貴様が散々言っていた“敵か味方か判断しろ”ってのは…
こういうことか」


「まぁな…」


「善がもっと大人なら…

話し合いで解決したかもしれんな。
どんな理由か…言い訳は知らんがな」


「いや…変わらないさ。

“真実”は変わりはしない」


「フン…悪いが俺は善につくぜ。
俺が気に入ったのはあんたじゃない、善だ」


「好きにしろ」


そして大悟も、レトインを背にして離れていった。



もっと何かいい方法があったのかもしれない。

そうすれば、お互い別々の道に進む必要はなかったのだろう。


しかし、真実は変わることはない。
どんなことがあろうとも。


レトインが降らした、リミテッドの力による雨が、今止んだ。

でも、レトインの目から、雨とも思えなくはない一滴のしずくが、地面へと落ちた。


雨が止んでも、まだあたりは暗かった。
まだ夜は始まったばかりだ。

なんだかこの日の夜は、いつもより深く、長く感じた。





第30話 "一滴のしずく" 完
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