3BECAUSE 第24話
最後の希望である、志保を失ったライジングサン。

そんな一同に、もう望みはなかった。



(終わるのか…?俺達…

どーすれば…どーすればいいんだよ!!!)





3BECAUSE

第24話
 「一度目の終わり」





「“怒りのメロディー”

これでもう詰みさ。
あとはおまえ達が勝手に潰しあってるだけだ!!」


善と大悟の体が動き出す。
また同じことの繰り返し。ふりだしに戻ってしまった。


「くそっ!!!」


善がイフリートソードで大悟に攻撃する。
その攻撃を大悟が受け止める。


「なぁ…善…

終わるのか…?俺達…」


「そうなのかもな…」


あの超プラス思考、負けることを考えない善が、ついに弱音をはいた。


(善……

折れるな…おまえが気持ちで負けるな…
おまえがそんなでは…)


ライジングサンの中の、実力者は大悟だ。

総合的に考えて、大悟が一番強い。


しかし、ライジングサンにおいて、橘善という男は一番大きな存在だった。

善がいたから…どんな不利な状況でも、決してあきらめない善がいたから…


強力な力を持つ、四天王に対しても、ここまで戦ってこれた。

志保やレトインの力は確かに大きかったが、
実は善の気力が仲間を底から支え続けてきたのだ。


「善…おまえ…」


大悟は今になって気付いた。


なぜ自分がさっき善に、あんな事を聞いたのか。
何を大悟は善に求めて言っていたのか。


こんな最悪の状況でも、善の口から


“勝てる”


その一言を聞きたかったからだ。
そんなの気休めにすぎないのかもしれない。


しかし、大悟は求めていた。
善の何の根拠もない“希望”の一言を…


大悟はここでさとった。


俺たちはもう終わる……と。


「じれったい奴らだね!いい加減もう終わりにしようか」


「!!!」


あとは勝手に潰れるのを見ているだけのはずの綾音が、
待ちきれず自ら動き出した。


「この使ってない方の左手に、また力を溜めて…

トドメの“ソニックブーム”で片をつけよう!この勝負に!!」


(終わったな…完全に…)


綾音が左手に力を溜め始めた。


なんとしてでも阻止しなければならないが、綾音が反対の右手で

怒りのメロディーを奏でているため、どうすることもできない。


「こんなもんで十分だろ。
思ったより楽しめたよ…

じゃあな!!!」


(くそっ!!終わる!!)


綾音が左手を弦に近づけ、左手で弾こうとする。

この左手が弦をはじいたとき。

この瞬間こそが本当の終わり、善達の“死”だった。



「死ねぇぇぇ!!!」



綾音が左手で弦をはじこうとする。



その時だった。



バチバチバチン!!!



何かが大きな音をあげた。

死を覚悟し、自然と目を瞑っていた善が、ゆっくりと目をやった。


まだ“終わっていない”善たちはまだ生きている。


「こ、これは……」


「どーいうことなんだよ…なんなんだよこれ!!!
何が起きたってのよ一体!!!」


綾音が大きな声で叫んでいる。
それも無理はなかった。なぜなら…


綾音の手にするギターの弦が、全て切れていたからだ。

先程まで何事もなく弾いていたはずなのに、
一瞬にして全部の弦が切れてしまっていた。


「弦が全部切れてやがる…はっ、ははっ!

バカな野郎だぜ!粗末にギターを扱ってるからこんな事になっちまうんだよ!!」


形勢は一気に逆転した。さっきまで死にそうだったはずの善が、
またいつものように強気に出ている。


「そんな…ありえない… 戦いに備え、しっかり準備してきたのに…

それに全部の弦が一気になんて…そんなのありえるわけが…」


「はっ!日頃の行いがいけないんじゃねぇか?

ついてなかったな!!」


(ついてない…?これが偶然か?
いや、今のは…)


突然の出来事に、綾音は動揺を隠しきれず、取り乱している。

今こそがチャンスだった。
ここぞとばかりに、善がスキだらけの綾音に立ち向かった。


(チャンスは今しかねぇ !)

「くらいやがれ!!」


善はイフリートソードで綾音に攻撃した。

その攻撃は、スキだらけの綾音の体に見事に入った。


「ぐっ……」


今の一撃は、この戦いで初めて善たちが、まともに与えることができた攻撃だった。


「よっしゃ!!」


「今だ!!善!たたみかけろ!!」


大悟が大きな声で、善に向かって叫んだ。


「あぁ!今度こそやつは、戦う術を失った!

俺達の大逆転勝利だ!!」


そう善が言うと、それに対し綾音が、小さな声で言い返した。


「甘くみるなよ…四天王を、甘くみるなよ!」


「何…!?
ギターが使い物にならなくなった今、てめぇに何ができる!?」


余裕の表情の善に、レトインが忠告する。


「下がれ!!善!!
またヤツが何かをしでかしてくるかもしれんぞ!?」


「はっ!どーやってだよ?
もうこっちのもんだぜ!!」


それでも善は攻めに行く。
イフリートソードを振り上げた。


「終わりだ!!くらえ!!」



ジョーカー・四天王の綾音。
そこまで甘くはなかった。

善から重い一撃をもらい、綾音は冷静さを取り戻していた。



善が剣を振り下ろす。
その瞬間だった。

綾音がバカでかい大きな声をあげた。


「甘いんだよ!!!」


「!!!

ぜ…善…?」


大悟は自分の見た光景を疑った。
綾音が叫んだあと“何か”が起こった。


「どーいうことだ…この光景は…まるで…」


大悟が目にしたもの、大悟が見た光景は…


“数時間前と全く同じ”光景だった。

攻撃をしかけようとしていたはずの善が、地面に倒れ込んでしまっていたのだ。


「この光景、さっきも…まさか今の…」


「がっ、くっ……」


「善!!!」


善がゆっくりと立ち上がった。

それを見た綾音が、舌打ちをしながら言う。


「チッ!これじゃ力が足りないか!」


大悟が立ち上がる善の体を、支えながら問いただす。


「おい!善!今の攻撃って…」


「あぁ…間違いねぇ…今のは

“ソニックブーム”だ」


「や、やっぱり!!
しかし、なぜだ…あいつのギターはもう…」


ここで綾音が、笑いながら話し出した。


「ははっ!勘違いしては困るねぇ~…
私の力が一体なんなのか、忘れたのかい?

私の力は“音”だ。
ギターから奏でられる音楽はもちろん音だが…

私の“声”これだって音。
十分立派な武器となる」


(!!!
そうか…俺は勘違いをしていた…

ヤツの能力は“音”。すなわち、音が出るものなら、それが全て武器と化す…

声然り、足音然り…
なんだっていいわけか!!
その中で、音を出すのに特化していた楽器を使用していただけだったのか!!)


今頃気づかされた大悟であったが、更にレトインが綾音の能力を暴き出す。


「なるほどな…
しかし、貴様の声だけでは、ソニックブームも先程までの威力はないと見える。

それにギターがなければ、もう貴様のくだらんメロディーとやらを、奏でることはできんようだな」


「そうさ…こっから先は、あんたらと直接戦わなければならないみたいだ」


「もうさっきみたいに、ギターからの変な術にはかからないってことだな!」


「だからって油断は禁物だぞ。
まだソニックブームが残ってる」


「あぁ、分かってる。

大悟…作戦があるんだよ。
おまえにしか頼めねぇ作戦がよ」


「作戦…?」


「あぁ。メンタルも残り少くねぇ。
一気にカタをつけちまう作戦だ」


「どんな作戦だ?」


「がむしゃらに突っ込む 。綾音に向かって“同時”にな」


「おいおい…そんな能のない攻撃じゃ…」


「おまえにだから頼んでるんだよ。
もし志保なら頼みやしねぇ。

いいか?“同時”にだぞ!?」


「!!!」


善の作戦に、大悟が感づいた。
そして、笑いながら答えた。


「断る権利はなしかよ。嫌なリーダーだ」


「へへっ!愚痴はあとで言ってくれ。

行くぞ!!!」


そう言うと、善と大悟は一斉に綾音に向かって走り出した。


「!!!

なんだこいつら!?真正面から突っ込んで来て…バカか!?」


あまりに能がない二人の行動に、慌ててレトインが止めようとする。


「何やってる!!突っ込めばヤツのソニックブームの餌食だ!!

死ぬぞ!!??」


「あぁ…死ぬんだよ…」


「何!!??」


「はははっ!わけ分かんない。
バカなんじゃん?あんたら?

そんなに死にたきゃお望み通り殺してやるよ!!」


どんどん二人が綾音に近づいていく。

それに合わせ、綾音がソニックブームの準備をし始めた。
そして準備は整い、ソニックブームが放たれる。


その直前だった。綾音の下の地面が、突如光り出す。


「!!!
これは…大悟の攻撃だな?」


大悟が走りながら、土の技を唱えていたのだった。


「残念だが大悟…もう意味ないよ」


時すでに遅し。綾音のソニックブームの準備はもうできている。

しかし、それでも大悟はまだ攻撃を続けた。


「“ノックアップ グランド”」


「もう遅いって言ってんだよ!!!」


綾音のソニックブームが放たれた。
それとほぼ同時に、大悟の土の技も放たれる。


光る地面が爆発し、土が空高く舞い上がった。


「ははっ!何やってんだかねぇ~…
バカみたいに突っ込んでくるどころか、大悟の攻撃も私に当たりやしないじゃないか」


大悟の放った土の攻撃は、無情にも綾音にかすりもしないで、はずれていた。


地面が爆発したと同時に、土煙も立ち上がった。

土煙の煙幕も、次第に晴れていき、人影が現れる。

倒れている大悟の姿が見えた。
しかし……


「!!!
やつは!?橘善はどこにいる!?」


そこには善の姿はなかった。


「ここだよ」


「!!!」


綾音が声のする方を向く。
綾音の視線の先には善の姿が。その後ろには“空”が映っていた。


「上!?な、なんで貴様がそんなところに!!??」


「あぁ~…痛かったなぁ…大悟の攻撃」


「!!!

ま、まさか…狙いは初めから私ではなく貴様で、ソニックブームをかわすためにわざと…」


「ば…バカ野郎が…」


ソニックブームをくらった死にそうな大悟が、根性で立ち上がる。


「痛ぇって…俺に比べたら大したことねぇぞ…」


レトインが驚きながら大悟に聞いた。


「これが…作戦通りなのか…?」


「たぶんな…俺もイマイチ分かっちゃいねぇよ…

俺が身代わりになってなんとかしろってのは確かだ。
こんなバカなことは俺にしかできねぇ!

どうも“同時”ってのが気になってな…
きっとソニックブームは連発できやしねぇ!

だからこの一発を俺が身代わりになって受け止めれば、チャンス到来だ。

善がどう考えたが知らねぇが…
まっ、こんなもんだろ!」


(すごい…ここまでの連携を、あんなごく僅かな時間とワードで…)



「終わりだな。四天王さんよぉ!!」


「あ、ありえるわけない…
負けるわけがない…

めちゃくちゃじゃない!あんたら!
こんなやつらに私が負けるはずがない!!」


「負けるんだよ。おまえは俺達に。
そりゃおまえには理解できないだろうよ。

これはおまえにはできない戦い方だ!!」


「嘘…嘘よ!!こんなのありえない!!」


「じゃあな!四天王!!

“メテオ シューター”」


空からいくつもの“炎”が降り注ぐ。
善の渾身を込めた攻撃は、綾音に炸裂した。



何度も死を頭がよぎったこの勝負…
ライジングサンは、見事な逆転勝利をおさめた。


ジョーカー・四天王の一人撃破。
ライジングサンにとっては、喜ばしい出来事だ。


しかし、心の底から喜べない人物が、ライジングサンの中に一人いたのだった。





第24話 "一度目の終わり" 完
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