3BECAUSE 第25話
ライジングサンは何度も敗れそうになりながらも、ジョーカー・四天王の一人


音の力を操る、綾音を撃破することに成功した。


「勝った…勝ったんだよな!?
俺達四天王に!!

何が四天王だ!楽勝だぜ!!」


「おいおい…あまり調子に乗るな、善」


善がはしゃぎながら喜んでいる。
さっきまで死にそうになっていたのが、うそのようだ。

そんな我を忘れて喜ぶ善であったが、ふと大事なことを思い出した。


「あっ…!!

志保!!!」


志保の存在だ。
志保は綾音との戦いでやられ、気絶してしまっていた。

善が慌てて志保のもとへと駆け寄る。


「志保……」


善から見た志保の様子は、戦いでやられたと言うより


『こいつ…単に眠くて寝てるだけなんじゃねぇのか?』


そんな風に見えていた。

そう思わせるほど、志保は穏やかな表情をしていたのだ。


(よかった…この様子なら、しばらくすれば目を覚ましそうだな)



綾音との戦い。
間違いなくキーとなったのは志保だった。

志保まで己を忘れ、綾音の術に呑み込まれていたら、勝負は完全についていた。


唯一の希望であった志保が、その希望を善達に託し、勝利へと導いたのだろう。

初めてチームがひとつになった…
そんな瞬間を、志保が創り出してくれた。


ライジングサンの一同は、この戦いで大きな収穫を得たのだった。



志保の体は心配ではあるが、ジョーカーの四天王を倒し、
ライジングにとっては喜ばしい出来事だ。

しかし、そんな中で、素直には喜べない人物が、ここに一人いたのだった。


その人物とは…



土井大悟である。


大悟は、先程からずっと険しい顔をしながら、黙って何か考え込んでいる。

その大悟がついに重たい口を開いた。


「おい!レトイン!ちょっと待て」


志保の体を心配し、志保の所に歩み寄ろうとしたレトインを、大悟が引き止めた。


「なんだ…?」


大悟はレトインを睨みつけながら言った。


「貴様…何をした?」


「……?なんの話だ?」


「とぼけるな!!!」


大悟がカッと熱くなり、声のボリュームも一気に上がった。


「善や、あの四天王の綾音が気づかなくとも、俺の目はごまかせないんだぜ!?」


「何の話をしてるんだ?俺にはよく分からないんだが…」


「とぼけたって無駄だ!!


綾音が左手で力を溜め、トドメのソニックブームを放とうとした瞬間…

綾音のギターの弦が切れた」


「あぁ…ついてなかったみたいだな。ヤツも。
こっちにとっては運がよかった」


「運がよかった…?違う…

一気に全部の弦が切れたりするもんか!
俺には見えた…“何か”が…」


「何か…??」


「その何かが、一体何だったのかは分かりはしなかったが…

俺には見えたんだよ…
貴様の手から何かが放たれていったのを!!」


「………」


どういうわけだったのか、今まで大悟の話に応えていたレトインが黙った。


「善には全く見えてなかったようだかな…
俺の目はごまかされやしないぞ!!!」


少しの沈黙の後、レトインが大悟に声をかけた。


「大悟…こいつは以前、善にも言ったことなんだがな…


俺のことを敵か味方かは、貴様が判断しろ」


「!!!」


このセリフは、善が自分がリミテッドだと分かった直後に、
レトインが善に向けて言った言葉だった。


「レトイン…そいつは…今俺が言っていたことを、すべて認めた。

そーいうことでいいんだな?
そうとらえていいんだな…?」


「さぁな。

大悟、今は“そんなこと”より志保のことのが心配だ。
志保のところに行くぞ」


そうレトインは言うと、大悟との話をやめ、志保のもとへと歩いていってしまった。


「チッ……」


これ以上聞いてもレトインが何も答えるわけがない…

そう判断した大悟は、レトインを追いかけることはしなかった。


(レトイン…一体おまえは何者なんだ…

正体不明、名前すら分からずじまいだが…
なぜか、やたらとリミテッドやジョーカーに詳しい…


今まで何一つ分からなかった。
レトインは全て“謎”に包まれていた…

しかし、今ここで一つ、はっきりしたことがあるぞ…


レトイン…
おまえは何らかの能力を持つ“リミテッド”だ)





3BECAUSE

第25話
 「傷だらけの戦士」





レトインが一体何者なのか、より一層悩み始めた大悟。

だが、今は何より志保のことが心配だった。


気持ちは全く晴れないが、今はレトインが何者なのか考えるのを、いったんやめた。


「志保の様子は…?」


「大丈夫だ。今は単に眠ってるだけみたいだ」


「そうか…よかった…

まったく…無理しやがって」


大悟がそう言うと、レトインはすかさず言った。


「それはおまえらにも言えることだがな」


「へへっ…確かにな!

けど、無理でもしなきゃ勝てる相手じゃなかった。
運が良かった。ついてたぜ…俺達…」


「あぁ…そうだな…」


大悟は善が言った言葉に対し、何の反論もしなかった。

レトインがリミテッドであろう事は、善には隠しておくことにした。


ここでそんな話をしたら、また善とレトインがもめる。


それに、大悟の中でレトインがリミテッドであることは“確信”したのだが

まだこれと言って決定的な証拠はない。
今レトインがリミテッドであると語るには、不十分な状況であった。



そんな時だった。



「ん…う~ん……」


「!!!

志保!!??」


綾音との戦いの最中に気絶した、志保が目を覚ました。


「おい!大丈夫か!?志保!!」


ガバッ!!!


善が自分を呼ぶ声を聞いて、志保が慌てて起きだした。


「綾音は!?四天王は!?

あれっ……??」


そんな志保を見て、にっこり笑う善。
それを見て志保は気づいた。


「勝ったの!!??あの状況からどうやって…?」


「へっ…聞いて驚くなよ?」


善がちょぃと溜めて言った。


「実力だよ。じ・つ・り・き。


まっ、俺の手にかかれば四天王なんてこんなもん!
ちょちょいのちょいよ!ちょちょちょいよ!」


(あのバカ……)


ここで出た。善の得意技・調子乗り。


唖然とする志保…善の言ってることなど、これっぽっちも信用していない。

けれど、綾音を倒したということは事実だと分かり、とても安心したようだった。



だが……
いつまでも安心してはいられなかった。

そんな安らぎの時間も、長くは続かなかった。



パンパンパンパン!!



どこからか聞こえてきた…
実にわざとらしく思える、不愉快になる拍手の音が…


「!!!」


ライジングサンの一同は、すぐに気づいた。
忘れはしなかった。この以前耳にした拍手の音を。


「やるじゃん?あんたら?
ホントにすごいし。まさか勝っちゃうとは思わないし」


「て、てめぇは……」


メンバーの全員がこう思った…


『なんでこんな時に…』


だが、すぐさま気づく。


『こんな時“だからこそ”現れたのか』と。


“あの日”から何日が過ぎただろう。
ライジングサンとは二度目の接触となる。


ジョーカーと相対する、リミテッドだけで構成された闇の組織



“キング”



キングの一員が、善達の前に姿を現した。


「おまえ…またずっと見ていやがったのか…?」


「ずっとじゃないし。途中からだし」


相変わらずのゴスロリ衣装で、特徴的な話し方をするこの女。

以前は、善の視察として一度姿を見せた。


その時も現れたのは、戦いを終えた直後…
善達が疲れきっている状況であった。


「あんたら汚いのよ!やり方が!!

私たちがボロボロの状態になってから出てくるなんて!!」


志保が誰よりも先に怒りを爆発させた。


それも無理はない。
志保が死にそうになりながらも奮起し、なんとかして四天王を倒したというのに…

すぐさまキングが現れ、弱りきったところを攻められ、命を落としてしまったりでもしたら…


志保が怒るのも当たり前の話であった。


「汚い…?なんの話?

悪いけど、あたしはあんたらとやり合うつもりなんてないし」


「何…!?
だったらてめぇは何しに来やがった!!

また善の偵察か!?」


「違う…今日は話があってきたんだし」


「話…?
俺達と戦うつもりはないってか…?」


「ないってさっき言ったじゃん!

あんたらに話がね…
やり合うつもりなら、さっきのうちにやってたし」


「……?」


キングの刺客の発言に対し、一同は首を傾げた。


「分かんないの?

あんたら全員に話があるから、そこの女が目覚めるまで、あたしが待ってたんじゃん!!」


「!!!

(こいつ…わざわざ志保が目覚ますまで、おとなしく何もせずに待っていたと…?

ヤツの言うとおり、単に話があるだけなのか…?)」


全員が納得した。
確かにやるつもりならば、すでにやっていてもおかしくない。

キングの刺客の言うとおり、そう素直に受け入れることができた


志保を除く、ライジングのメンバーは…



今の志保に、冷静さはなかった。
ただでさえ先程目を覚ましたばかり。

ここで志保は、大きく判断を誤った。


「うそよ!!ふざけないで…

またそうやって今回も逃げて、次もまた私達が瀕死になったら出てくるってわけでしょ!?

逃がさない…今回は逃がさないわよ!!!」


「志保!!やめろ!!熱くなるな!!!」


レトインが大きな声で叫び、志保に冷静さを取り戻そうとした。

しかし、今の志保には聞こえやしない。


(やめろ…志保…今の状態で戦って、勝てるわけがない!!)


「何たくらんでるか知らないけどね…
あんたらの好きにはさせないわよ!!」


今はまずいと判断し、大悟も慌てて止めに入る。


「やめるんだ志保!!手は出すな!!」


「何言ってんのよ大悟…ここで逃がしたら、またやつらの思うツボ。

私達の力を思い知らせてやるのよ!!


くらいなさい、ウォーター!!!」


ついに志保がキングに手を出してしまった。


「忘れたの…?まえ言ったじゃん…
もう知らないし!!」


志保に手を出され、やむ終えずキングも“リミテッドの力”で反撃した。



ライジングサン・志保VSキング


その勝負の結末は、“一瞬”でついた。


「えっ…!?志保…?」


キングから放たれたリミテッドの力…
善は志保の方に目をやった…

善の目に映ったのは…


“凍りづけになった”志保の姿だった。


「し…志保!!!」


「まえ忠告したじゃん…

あんたの能力は、あたしの能力に“相性”は最悪だって…


“アイス・リミテッド ”

“氷の力!!!」


志保の手から放たれた水の力・ウォーター。


そのウォーターから志保の体に伝わって

今度は全身に氷の力が行き渡り、志保は完全に凍りづけになってしまった。


一瞬で勝負はついてしまった。
志保は、全く動くことはない。

そんな志保の大変危険な状態に、レトインが大声をあげた。


「何やってる善!!早くしろ!!」


「えっ!?俺…?」


「おまえの“火”の力で、志保の氷を溶かすんだよ!!
早くしろ!!!

じゃないと…
今度こそ本当に死ぬぞ!!??」


「!!!
あ、あぁ!分かった!!」


善がすぐさま志保にかけより、火の力を使って志保の氷を溶かし始めた。


この状況で、“あの男”が唯一取り残されてしまった。


「なぁ…今更、やっぱさっきのはなし…

ってのはだめかな…?」


「なめんな。もう遅いし」



土井 大悟



ジョーカー四天王・綾音との戦いで、すでに傷ついてる大悟が、

たった一人で“キング”に挑むこととなる。





第25話 "傷だらけの戦士" 完
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