3BECAUSE 第22話
ジョーカー四天王の一人、綾音が有する


“サウンド リミテッド”


その力を前に、手も足も出ない善と大悟。

すべての望みは、志保とレトインに託された。



(志保…頼むぜ…
おまえは、俺達の唯一の“希望”だ!!)





3BECAUSE

第22話
 「ろうそくの灯は消えることを知らない」





四天王の綾音は、非常に動揺していた。


「チッ…まさか私の能力が通用しないやつがいるなんて…

しかも二人も同時にとは…」


「よっぽど今まで相手にしてきたやつらが、貧弱だっただけなんじゃない?」


志保は強気に出た。
完全に志保のペースだ。

「くっ……」


今の一言は綾音にだいぶ効いたようだ。
それまでもか別の人物さえも…


(ひ、貧弱……)


どうやら善と大悟も傷ついた様子だ。


「貧弱とは…泣けるぜーー!!!」


善は泣いた。大泣きした。
今まさに、綾音の能力“哀しみ”のメロディーが響きわたっている。

そのせいで、今の一言によってかなり傷ついてしまったようだ。


善のあまりの姿に、レトインは呆れている。


(善…哀れだな…

こんなにも素直に術にハマるバカがいるとはな…)


「ん!?待てよ…」


泣きじゃくる善が、あることに気づいた。


(あのギターから流れる音楽・“音”が、志保とレトインには全く通用しないってことは…

もしかしてやつは、攻撃する術を失ったんじゃ…?


どう見てもあのギターは普通のギターだ。
“リミテッド”で作られた物なんかじゃねぇ。

まさかあれを殴って使うわけないだろうし…)


善にしてはよく頭が回った方。
そう思われるが、他のライジングのメンバーは、すでにそのことに感づいていた。


そんなことも知らず、善が得意げに志保に言った。


「志保!能力が効かないおまえに、やつは戦う術を持ってねぇ!!

やっちまえ!!志保!!」


「そんなこと…あんたに言われなくても分かってるわよ!!」


志保は“アクア・ウイップ”を片手に、綾音のもとへと近づいていった。



その時だった!!
何が起こったかは分からない。

“それ”は一瞬の出来事だった。


「えっ…?志保!!!」


潔く綾音に向かって走り出していた志保が、次の瞬間には倒れていた。


「な、何が起きたんだ!?なぜ志保が倒れている…?」


それと同時に、綾音の演奏が止まった。


「曲が止まった…?」


レトインが慌てて志保のもとへと駆けつける。


「おい!志保!!大丈夫か!?」


レトインが志保の肩をつかみ、大きく体を揺すった。

志保の反応がまるでない。


「レトイン!!志保は!?」


心配そうに、大悟がレトインに聞いた。


「大丈夫だ。息はある…」


ここで綾音が静かに笑い出す。


「ふふふ…四天王も甘く見られたものね。

幹部の中でも下っ端の志保が、この私に楯突こうなんてねぇ」


「貴様…志保に一体何をした!!」


綾音の奏でる音楽は止んだものの、一体どんな手を志保に施したのか分からないだけに

大悟はおろか、すぐさま感情で動き出してしまう、あの善でさえも警戒していた。
迂闊に綾音に攻撃を仕掛けることができない状態が続いた。


「あら…どうしたの?せっかく曲が止まったのに。
今のうちよ?飛びかかって来なさいよ!!


あんた達も志保のようになりたければね!!」


「くっ……」


レトインがもう一度、志保の体を大きく揺らし、大声で叫んだ。


「志保!!目を覚ませ!!志保!!!」


「…ん……」


「志保!!!」


志保がようやく目を覚ました。


「平気か!?志保!?

おまえ、何が起きたか覚えているか!?
自分の身に一体何が起きたのか!?」


「えっ…私…

あいつに近づいたら…あいつはギターの弦を強く弾いた…

そしたら急に“痛み”が襲ってきて…」


「痛み…?」


「でも普通の痛みじゃない…
叩かれたり、斬られたりしたのとは違う…

体の中に何かが響き渡った感じ…
物凄い“衝撃”が走ったような…」



「!!!
“衝撃”…“音”…

まさか…


“ソニックブーム”!!!」



「!!!
ソニックブーム!?なんだそれ…?」


「へぇ~…すごいわね…それだけのキーワードで、そこまで導き出しちゃうんだ!」


「当たってるのか?こいつ…隠さずに堂々と!?」


「それはそうだろう…

ソニックブームなんて超常現象、防ぎようがない」


「防ぎようがないって…その…

“ソニックブーム”ってのは、一体何なんだ?」


「一言で簡単に言えば…“衝撃波”だ」


「衝撃波?」


「あぁ…

しかし、本来ソニックブームは…


ジェット機や、スペースシャトルなど、“音速”を超えるものが、
大気圏を突入した際に起きるもの…


ここは地上であるし、勿論音速を越えるなんてことはありもしないはずだが…

“音の世界”を知り尽くす、サウンドリミテッドの力を持つ、
あいつには生み出すことは可能だというのか!?」


「それで…その衝撃波って、そんなにすごいのか…?」


「上空5000メートルで起こった場合でも、
地上の窓ガラスが割れてしまうほどの威力だ!!」


「!!!

(そんな攻撃…あいつは仕掛けられっていうのかよ!?)」


驚きと、とまどいを隠せない善に対し、大悟が冷静に言い出した。


「上空5000メートルでもだって…?

それならおかしいぞ。あいつが生み出したソニックブーム…
志保の次に近くにいたレトインは、なんのダメージも受けていなかった…


もしそんな威力に広範囲なものなら、いっぺんに俺達は
一瞬であの世行きだったんじゃねぇか?」


「ははっ!!」


綾音が突如、笑い出した。


「あんたら賢いねぇ~!二人とも!」


(二人って…レトインと大悟のことだよな?
俺じゃ…ないよな…?)


一応、善は確認をしていたのだった。


「大悟の言う通り、本来のソニックブームは私に生み出すことは不可能さ!!

私の生み出すソニックブームは、威力も弱けりゃ、範囲もとても狭い 。

それに“メンタル”もかなり消費するし、出したいときにすぐ出せるような技じゃない」


「それでも…やつのソニックブームをくらった志保は…」


善は志保の方に目をやった。
志保は今にも意識を失いそうで、えらくダメージを受けていた様子だった。


「そう!それでもあんたらを倒すには、十分な威力なのさ!!」


今の綾音の言葉を聞いて、大悟がさとった。


(メンタルを多く消費するのに、この技を使ったってことは…

綾音も相当追い込まれていたってことだな。
これがこいつの切り札だったわけか!!

べらべらと色々教えてくれたが、確かに俺らに防ぐ術はない…
きっともっとメンタルを使えば、より強力で広範囲のソニックブームを
放つことが可能なんだろうからな…)


どうすることのできない綾音の攻撃に、善がレトインに助けを求めた。


「レトイン!!やつのソニックブームを防ぐ手はないのかよ!?
知恵を絞って、何かいい案を出してくれ!!」


それに対し、レトインが静かに答えた。


「いや、その必要性はもうないのかもしれんな」


「えっ…?それってどーいう…」


「志保が倒れた今、また振り出しに戻っただけだ」


綾音はまた、ギターで音楽を奏でだした。


「ははは!!おまえらごときを倒すのに、ソニックブームなんて高等技、
使う必要はないんだよ!!!」


“怒り”のメロディー


善と大悟は、また綾音の能力の魔術にかかってしまった。


「これで二人で潰しあってればいいんだよ!!

ソニックブームを放てるようになるのに、どれだけの時間を費やしたと思ってるんだ!!
志保相手に使うことになっただけでさえ、こっちとしてはショックを受けてるってのにさ!!」


綾音の怒りのこもった、怒りのメロディーが響き渡る。


「だぁ~!!くそっ!!こればっかりは、どうしようもできねぇ!!」


善は大悟に斬りかかった。


「どうしようもできないなら…
どうすればいい!?善さんよぉ!!」


同じく大悟も、善を斬り倒しにかかった。

そこで口を挟むように綾音が言った。


「あきらめるかい?」


「………

いや、信じる」


「信じる…?何を信じるって言うのさ!?」


「志保を。レトインを」


「この状況でも、まだ信じるって言うのかい!?

レトインってやつはともかく、志保はもう使い物にならねぇ。
それにレトインが知恵を振り絞って策を見つけだしても、肝心のおまえ達がこれじゃあもう…

まるで勝負になってないじゃないか!!
終わりなんだよ!!」



「終わらない!!!


なぁ…大悟…?」


「………

善がそう言うのなら、そうなのかもな」


「チッ…とんだ甘ちゃん共だね。あんたらは。

私には、もうその手しかない…ってな風にも見えるけどね!!」


「………」


今の綾音の発言に対し、善は黙った。


そのせいなのか、いや、必然とこうなることだったのかもしれない。

善と大悟の剣術の腕は、大悟のが上。
二人の斬りあいの中、大悟の攻撃が善に見事に入った。


「ぐっ!!!」


「善!!!」


術にかかってはいるが、あまりの事態に一瞬素に戻った大悟。

その隙を大悟が突かれ、今度は善の攻撃が大悟にきれいに入った。


「ぐわっ!!」


「はははっ!その調子だよ!!
仲間割れ…見てて実に爽快だよ!!」


高笑いをし、嬉しそうに綾音が騒ぐ。
それに対し、善は…



「仲間割れ…?

いや…これが俺達の“チームワーク”だ!!!」


自信満々にそう答えた。


「チームワーク?笑わせないでよ!どこがよ!

あんたが今誰を斬っているのか分かる?
あんたが仲間と呼んだやつよ!それのどこがチームワークなのかしらね!!」


綾音が善をバカにした、その時。
ある一人が便乗するように言った。


「そうよ。それのどこがチームワークなんだか知りたいわ!!」


「!!!
し、志保…!?」


その声の主は、志保だった。
フラフラになりながらも、志保はまた立ち上がった。


「志保…!?あなたはもう動けないはず…」


「そうね。以前までの私なら、とっくに倒れてたかも…

でもね、ある男に関わったせいでね、どうやら私、かなりしつこい女になっちゃったみたい」


怒りのメロディーが流れている中で、善はニヤけながら言った。


「それでこそ、ライジングサンのメンバーだ!!」


レトインが声をかける。


「大丈夫なのか…?志保…」


「さぁ…無理してでもやるしかないでしょ。
あいつらじゃ頼りになんないんだから!!

それより…どうすれば勝てるのよ!?やつに」


「そうだな…発射口を潰せ」


「発射口?」


「やつのすべての攻撃の起点は、あの“ギター”だ。

起点となっている、その発射口をまずは破壊しろ。
次の手は、またそっからだ」


「なるほどね…分かったわ!!」



この危機的状況の中、ライジングサンのメンバーは、“信頼”という形で強く結ばれていた。


善は仲間を信じていた。


倒れていても志保は必ず目を覚ます。


レトインが、知恵を絞って突破口を見いだしてくれる。


その間大悟が、術にかかっても、ずっと耐え続けていてくれる。



“信頼”



仲間を信じる思い、一人一人の思いが、今ひとつとなった。



善が火種となり、一本のろうそくに灯した“希望”の炎は

消えかけてもなお、光を放ち続け

ろうそくに宿る炎は、瞬く間に大きくなり、ゆらゆらと揺れ動いている。





第22話 "ろうそくの灯は消えることを知らない" 完
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