3BECAUSE 第21話
「気付くのがほんと遅いねぇ…

“サウンド・リミテッド”

音の力さ!!!」





3BECAUSE

第21話
 「残されたメロディー」





数時間前。
ライジングサン一同は、ジョーカーの四天王の対策会議を開いていた。


『なぁ、志保に大悟。おまえら二人は元ジョーカーだろ?

その四天王ってやつらは、一体どんな能力を持ってるのか分かんねぇのかよ?』


『そうねぇ…四天王の何人かには、何度か会ったことはあるんだけど…』


『俺たちもやつらがどんな能力なのか、よくは知らないんだ』


『大悟は幹部の中でも、ほとんどトップクラスだったけど…

大悟が知らなければ、私なんかが知ってるわけがないか…』


『チッ!!一切情報はなしかよ』


ここでレトインが静かに言った。


『四天王の一人で、もし女のやつが現れたら…』


『女?四天王に女がいるのか?』


『あぁ。いる。


“七瀬 綾音”


そいつと戦う際には…

まず自分を信じろ。相手には惑わされるな。
何があっても自分だけを信じてろ』


『はぁ…?意味分かんねぇよ。何だそれ』


『いいから。それだけは覚えとけ』


『お、おぉ…』




(惑わされるなって、こーいうことかレトイン…)


四天王・綾音が得意げに語り出した。


「人とは、いくつもの“感覚”というものを持つ生き物だ。

大きな役割を果たすものとして“視覚”、“嗅覚”、そして…


“聴覚”


この聴覚は、視覚や嗅覚とは違い、自ら防ぐすべを持っていない。

ゆえに私の奏でるメロディーは、おまえ達は聴かざるをおえない!!」


「けっ!そんでその耳障りな音楽が、どうしたって言うんだよ!?」


「私のリミテッドの力で生み出された、この“音”は…

おまえ達の感情に様々に影響する」


「感情…?」


「今私が奏でるメロディーは“怒り”を表す音楽。

何から何までもが、腹が立って常にむしゃくしゃする気分じゃないかい?」


「!!!

(だから無性に腹が立ち、無意識のうちに俺は大悟を斬りかかっちまったってわけか…)」


「さっきおまえら言ってたよな?チームだって…?

そんなもの、私のまえでは無意味さ。
逆にそれを利用して、おまえら同士で仲間割れでもしてもらおうか!」


「くっ……」


「さぁ!始めな!おまえら同士で楽しく戦っているがいい!!」


綾音は、さっきより強くギターを弾き出した。


「ぐっ…くっ…

(止まらねぇ…体が勝手に動き出す…
目の前の相手をぶった斬らなきゃ気がすまねぇ!!!)」


善は目の前にいた大悟に向かって、イフリートソードで斬りかかった。

そして、その攻撃を大悟が大剣で受け止めた。



「てめぇ…善。貴様、俺を殺す気か?」


「あぁ…今ここで死んどけ」


「!!て、てめぇ!!!」


善と大悟が、怒りにまかせて、二人の斬り合いが始まってしまった。


「はっはっは!始めな始めな!
何がチーム!一体それのどこが?

それがあんたらのチームワーク?笑わせてくれるわね!」


善は怒りに満ちていた。それはきっと、綾音の術にかかっているからではなく…

心の底から、自分に本当に腹が立っていたのだ。


(くそっ…これじゃ、まったくもってあいつの言うとおりじゃねぇか!!

あいつの能力に踊らされて、大悟と斬りあってる始末…
くそっ!何が仲間!何がチームだ!!)


そんな善の思いとは裏腹に、体は言うことを聞いてくれやしない。


思っていても…だめだと分かっていても…

善は綾音の奏でるメロディーの魔術から、逃れることはできなかった。


善より精神力が高いであろう、あの大悟とて同じ。
綾音の力のまえでは、体を思うように動かすことができない。


(まずい…まずいぞ!これではどうするこもできん…
やつの思うツボではないか!!)


四天王・綾音の力に苦戦する善、大悟。
“怒り”がおさまることを知らず、いてもたってもいられない。

そんな中、涼しげな表情で立つ人物がいた。


「貴様…なぜだ!?なぜなんだ!!」


「レトイン!!?」


なんとレトインは、善達が苦しむ音の力に、まったくひるまず

堂々と腕を組みながら立っていた。


「フン…おまえらがだらしないんだよ」


「なっ、なんともないのか?」


「俺が言っただろ?何があっても

“惑わされるな” “自分を信じろ”と」


綾音が驚きながら言った。


「そんなバカな…貴様だって私の“音”は聞こえてるはず!?

なのに、そんな平然としてられわけが…」


「フン。音?それがどうした。

確かに俺の耳は、貴様からの雑音を感知してるのかもしれんな。
だが、貴様自身も体験したことがあるはずだ。


『何か物事に集中してる際、他に何か音が流れていたとしても、
その音には全く気付くことはなかった』


そんな体験をな。
用は自己さえしっかりしてれば、音に関心を持つことさえなければ、
貴様の能力なぞ皆無に等しいってわけだ」


善にももちろん、レトインの言った体験は感じたことがあった。


単に、自分が未熟なだけ…


レトインが綾音に向かって放った言葉により、善はそう思い知らされる形となったのだった。


この時、レトインを見て善は思ったんだ…



『あぁ…

こいつ、かっけぇ~…』と。



「だぁ~!!くそ!!情けねぇ!!
何やってんだ俺は!!」


善の怒りはヒートアップする。
更に大悟の怒りのボルテージもあがる。


「同感だ。実に情けない…
だが、このうっぷんも全て、おまえにぶつけてしまっている!!」


「あぁ、そいつは俺も同じだ」


意識はしっかりしているのに、体はまるで別の動きをとる…

このうまく言えない歯がゆさが、怒りを増大させ、悪循環を生み出している。


「動け俺!!言うこと聞きやがれバカ野郎!!

レトイン一人で涼しい顔して、何やってんだ俺たちは!!」


今の善のセリフに対し、レトインがニヤつきながら言った。


「どうやら…俺一人だけではないみたいだがな」


「えっ!?」


レトインがそう言いながら指をさす、その先には…



「志保!!?」



そう、忘れてはならない、ライジングサンのメンバーの一人、志保だ。


「志保だって!?
何であんたみたいな弱っちぃやつが、私の能力を…」


「フン。志保も始めっから、貴様の雑音に何の影響もなかったぞ」


「な…なんだって…?」


志保も、レトイン同様、平然とした表情で立っていたのだった。

すると、志保が小さな声で喋り出した。


「聴こえない…私には聴こえない…

私の耳にはいつも流れてる。忘れることのないメロディー…」


「……?」


「“川”の音が…“川のせせらぎ”が!!!」


「川…ですって…?」


「時には激しく…時にはゆっくりと…
私のメロディーは私にはある。

川が…川の流れる音が…それが私のメロディー」


「!!!」


“川の流れる音”


善はこの時、志保が何を言っているのかピンと来た。


「忘れないよ…“お父さん”…
私はいつまでたっても覚えてる」


川…
それは志保がリミテッドとなった、自分の父が死ぬこととなってしまった場所である。


志保の記憶は蘇る。
そこに映るのは決まって同じ場所、同じ場面。

志保がリミテッドとなる、川に溺れてしまう場面だ。


志保の耳には川の音が流れる。
思いだしたくもない、とても苦い思い出。

頭の中には、決して忘れることのない記憶、そして“音”。


いつまでたっても消えずに残るこの音は、とても辛い思いをし続けることとなるのであろう…



しかし、志保は違った。

志保にとってこの音は、実は自分の好きな音となっていたのだ。


だって、この音が流れている時は、あの出来事を思い出してる時間である。

それは即ち、父を思いだしている時間。



“愛”がなければ成り立たない“リミテッド”



この音が流れている間は、最愛の父に会える時間。
父を想える素敵な時間なのだから。



志保は四天王・綾音に向かって、強く言った。


「私は惑わされない。あんたなんかを、私の大切な時間に踏み込ませたくない!!

私の時間を…私のメロディーの邪魔をしないで!!!」


「な、何を生意気な!!志保のくせに!!」


「なっ。善に大悟。

“自分を信じろ”って意味が分かったろ?」


(自分を信じろ…

それって、自分という存在…自分の持つ世界…

“自分”というものを尊重しろってことだったのか!!)



四天王・綾音は新たな動きをとった。


「効かないと言うのなら…これならどう!?」


そう言うと、綾音は突然、先ほどまでとはまるで違った音楽を奏でだした。


「こ…これは…」


「志保…あんたを見てると、無性に哀れみたくなってきちゃうのよね…

その瞳に写る…哀しい目!!
“哀しみ”のメロディーよ!!」


すると途端に、善と大悟の目から、涙が溢れてきた。


「う…ううっ…なんだかすげぇ哀しいぜ…
涙が…なぜだか泣けてくる…」


しかし、志保は…


「無意味よ。なんであろうと、私には効かない!!」


「チッ……」


志保の目を“哀しい目”と呼んだ綾音に対し、善が反発した。


「効くわけねぇよな?志保。
志保の目が哀しい目だって!?

志保の瞳の奥にあるのは…


“希望”だ。
志保の目は輝いてるっつーの!!なぁ、志保!!」


「バカね…かっこつけて言ってるつもり?

涙流して、泣きながらそんなこと言われても困るんだけど」


「だ…だって…

感動だ~~!!!」


善は泣いた。とことん泣いた。



(頼むぜ…志保…
おまえしかもういねぇんだ!!

おまえは俺達の“希望”だ)



志保の奏でるメロディーは…

普通の人であるならば、消しさってしまいたい音なのであろう…


しかし、このメロディーは、もしかしたら

父親が残した、愛する娘への最後のプレゼントだったのかもしれない。





第21話 "残されたメロディー" 完
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