3BECAUSE 第20話
善たちが、新しくチームを結成した。

ジョーカー、キングの消滅を目的とするチーム


“ライジングサン”


ライジングを結成して、あれから2日の時が流れた。



「今日も来なかったな…ジョーカーの連中…」


「あぁ……」


これまで頻繁に動いていたジョーカーの動きが、ぴたりと止まった。

今までが連戦を重ねるほど、ジョーカーから刺客を送り込まれてきた。


そんな日々が続いていただけに、これだけ動きが見られないことが

善たちにとっては、かえって不気味なほどであった。


「それにしてもおかしいわよね…

以前は、ほとんど間髪いれずに新たな刺客が送り出されていたと言うのに…
何があったっていうのかしら…」


「それと…あれから“キング”のやつも姿を見せないな…」



ジョーカーとは別の、善たちのもう一つの敵“キング”。

キングも“謎の女”が善の視察に来たのを最後に、一向に姿を見せていない。


「一体どうしちまったって言うんだよ!

せっかくこっちはチーム・ライジングサンを作って、やる気満々だってのによ!
来るなら早く来やがれってんだ!!」


「バカ野郎。来ないに越したことはない。
何事もなく過ごせるのが一番だろう」


「それが逆に不気味だっつーの。
こんなんじゃ夜もオチオチ眠れやしねぇ!

どうせいつかは戦うんだ。
やるなら早めに終わらせてぇーよ俺は」


「………
まぁ、それもそうかもな」


ここで、一人ずっと静かに考え込んでいた大悟が話し出した。


「今回ばかりは、ジンの野郎が何を考えてるんだかさっぱり分からん…」


志保が大悟に問う。


「ジンと付き合いの長いあんたでさえも、よく分からないの?」


「あぁ…俺が善の抹殺命令を下されたのは、善が志保との戦いを終えた直後。

疲れきった善を始末するといったやり方だった。

しかし…すでにもう俺を送り出してから2日もたっている…
ジンの当初の考えは、一体どうなった…?

やつが何を考えているのかが全く分からねぇ」


「そうよね…あれから2日もたてば、傷も癒え、メンタルも十分回復する。

こちらが好条件になっていく一方だわ…」


ジンの考えを全くもって理解できず、困惑する志保と大悟。

そんな中、レトインが言い出した。


「今となってはもう、そのような手段を取る必要はなくなったんじゃないか?」


「えっ…?」


「疲れきった相手を倒す。
そんなものは、明らかに汚い手口だ。

そーいった姑息な手を取る必要は、もうなくなったのかもしれない」


「じゃあ…ジョーカーが正々堂々と戦うつもりでいるってことか?」


「正々堂々…そう言えば聞こえはいいが…

ジョーカーのジンは、きっと遊んでるんだ。俺たちと」


「遊んでる…?」


「『俺に勝てるかな?』

『俺のが強いんだ』

まるで子供の考え。自分のが力が上だと、俺たちに見せつけたいんだ」


「何よそれ…どんだけふざけてるつもりなのよ!」


「今までは、あくまで勝ちにこだわったやり方だった…
いや、負けというリスクを減らす戦い方と言うのが正しいか。

善が強力なリミテッドの使い手になるまえに、あらゆる手段を取って善を確実に潰す。
それが以前のジンのやり方だった…

だが、今ジンが欲しいのは、ジョーカーの存続といったものなんかではなく…


“価値のある勝利”


リミテッドの力を開花し始めている善を、どう料理し、いかにして倒すか…
そーいうことか!?」


「推測にすぎんが、そうなのかもしれん…
やつは…

俺たちと、この命のかけあいを楽しんでやがるんだ」





3BECAUSE

第20話
 「発動」





「私たちとの戦いを楽しんでるですって!?
ふざけんじゃないわよ!こっちは命がけで食い止めようとしてるっていうのに…」


「まぁまぁ。落ち着けよ志保。

用は才能を開花し始めてしまった、この俺がジンを倒しちまえばいいってわけだろ?」


「調子に乗るな善。

だが…それもあながち間違った考えではないがな。
これは俺たちにとってはチャンスとも言えるぞ」


「チャンス…?」


「そうだ。善を倒してしまいたいなら、ジン本人が出向いて善を倒せばいい。

恐らくそれが一番確率が高いのだろう。
しかし、手下を使ったりするまでもか、今となっては勝負を楽しんだりしている。

そんな悠長なことをやってる間に、善が強くなり、ジンを越える力を身につける…
これほど俺たちにとってのチャンスはないぞ!!」


(確かに…レトインの言う通りだ。
もし今、ジンが直接俺たちを殺しに来たら…

間違いなく終わる。俺たち全員が力を合わせても恐らくな…
そう考えると、これは大きなチャンスなのかもしれん!!)


「おっし!!なんだか俄然燃えてきた!!
俺たちを見くびったバカジンを、ぶっ潰しちまおうってわけだな!!」


「善…張り切るのはいいけど、恐らく次なる相手は“四天王”。

大将じゃないからって、甘く見れないわよ?」


「分かってるって!何が来たって負けねぇ!!」


闘志をむき出しにし、やる気全快の善。


「………」


その善とは裏腹に、一人怖い顔で、レトインをじっと見つめている大悟がいた。


(レトイン…やはりあいつは、相当頭がきれる人物だな。

冷静沈着で、的確に事を捕らえ、次なる目標を迅速に割り出している。
だが…驚くとこはそこじゃねぇ…

いくらあいつの頭がいいからって、ジョーカー・ジンの思考…
そんなものまで分かるわけがねぇ。

けど…あいつが出した推測は、なぜか俺もとても間違ってるんじゃないかとは思えねぇ…
幼稚なジンの考えそうなことだ…

レトイン…てめぇは一体何者なんだ…?)




一方、ジョーカーは、着々と四天王発動の準備が整いだしてきていた。


「アヤネ…とうとう明日だな」


「えぇ。
本当に長く感じましたよ。この2日間…」


「明日、いい結果を期待しているぞ」


「はい。必ずやジンさんのもとに吉報が届くでしょう」


「はっはっは!おまえが負けるわけがないな!

(さぁ…見せてみろ。橘善。貴様の力を。
そして…レトインだったか…?

この危機をどう回避してみせる!?レトイン!!)




そして…
四天王発動の日。その日がとうとう訪れる。

3日間、全く動きを見せなかったジョーカーが、ついに動き出す。


この日は、善たちも朝から何かが違った…

独特の空気…何かがいつもと違う気がする。


『もしかしたら今日動きがあるのでは…?』

ライジングの全員が、不思議と何かを感じ取っていた。


そして、日も暮れて太陽は姿を消す。

代わりに現れたのは闇と交える、不安に恐怖。


静かな足音と共に、一人の女が善たちのまえまで歩み寄る。

善もすぐに分かった。この女がジョーカーの一員だと。


「あら、志保に大悟…久しぶりね…
すっかり橘善のお友達になっちゃって」


「………」


ライジングサンVSジョーカー・四天王


意外にも静かに始まった。
善もいつもとは違って、落ち着いている様子だ。


「もうこいつらは、橘善のゆかいな仲間たちなんかじゃねぇぞ…

“ライジングサン”

俺たちはてめぇらを倒すために生まれたチームだ」


「ライジングサン…?何それ…?
初めて聞いた名前だけど?」


「あぁ…3日前に作ったばっかだ。
てめぇが俺たちチームの第一号の相手。そんで第一号の屍になる。

歴史に残るぜ?光栄だろ?」


「歴史…?そんなもの生まれないわよ。
あんたら全員ここで死ぬんだからね」


「けっ!!なぁ…あんた…
“四天王”なんだろ…?」


「あなた…私が四天王のつもりで、さっきのふざけた冗談言ったの…?」


「あぁ…まぁ冗談じゃねぇ…それが現実になるんだがな」


「ふふ…あなた本当に面白いわね…

この技を受けても…まだそんな冗談言ってる余裕はあるのかしら?」


ドン!!


アヤネは、背中に背負っていた大きなバッグ…
いや、ケースを地面に置いた。

そして、中からあるものを取り出した。


「!!!
ギター…?エレキギター!?」


「さぁ…死ねやてめぇら!!
全員あの世に送ってやるよ!!!」



アヤネがさっきまでとは、全くの別人のように豹変した。

ついに戦いが始まった。


そのアヤネの目つき、表情を見て、みんな一斉に構えだした。


善がファイヤー・リミテッドの力で
“イフリートソード”を。

志保がウォーター・リミテッドの力で
“アクアウィップ”を。

大悟がグランド・リミテッドの力で
“グランドセイバー”を。


一気に、3人が即座に武器を作り出した。


そこで突然、レトインがバカでかい声で叫んだ。


「信じろ!!自分を信じろ!!
惑わされるなよ!!!!」


「……?だから意味がよく…」


四天王・アヤネは、すぐさまギターを弾き始めた。


「さぁさぁさぁ!もっとテンション上げなぁ!!」


「一体…何が始まるって言うんだ…?」


すると、まず大悟が異変に気付いた。


「!?ん…?
なっ、なんか…」


またレトインの叫ぶような、でかい声が響きわたる。


「善!!危ない!!!」


「えっ!?」


善がレトインに呼ばれて振り返ると…

もの凄いスピードで“何か”が善の頭めがけて向かってきた。


「おわっ!!!」


善がギリギリのところで、その何かをかわす。
そして、その物体がなんだだったのか、確かめてみる。


「!!!
お、おい!大悟!てめぇ何しやがる!!」


善に飛んできたその“何か”とは、大悟の武器“グランドセイバー”だった。


「大悟!おまえどーいうつもりだよ!?」


「いや、すまん…何だか無性に腹が立ってきてよ…」


「腹が立ったからだって!?ふざけんな!
そんな理由で俺に斬りかかってくるんじゃ…

ねぇよ!!!」


そう怒りながら言っていると、善は知らず知らずのうちに大悟に向かって剣を振り下ろしていた。


キン!!!


大悟が大剣で、善の攻撃を受け止める。


「き、貴様こそ何しやがる!!!」


「えっ…いやぁ~…つい…」


「ついで済む問題かぁ!!!」


「いいから落ち着けおまえ達!!」


レトインがまたもや声を張り上げる。


ここで志保が感づく。


「も、もしかして…これも全部あの女のせい!?」


アヤネがニヤつきながら言う。


「気付くのがほんと遅いねぇ…
私の力のまえでは、何もかもが無力!!!


“サウンド・リミテッド”

音の力さ!!!」





第20話 "発動" 完
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