3BECAUSE 第18話
「ジョーカーじゃなきゃ、残るはひとつしかないでしょ…


“キング”」


(キング!?それって一体!?)





3BECAUSE

第18話
 「もう一つの闇」





「キング!?なんだよそれ…どーいうことだよ?」


「!!!
あんた…本当に分かってないの!?

ちょっと!レトイン!」


「………

善には“キング”のことは、何も話していない」


「!!なんでこんな大事なことを…」


「大事なこと…?そんなに重要なことなのか?」


「当たり前じゃない!

“キング”

ジョーカー同様、リミテッドのみで構成されたチームよ」


「!!!
なんだって!?

(リミテッドのチームって、ジョーカーだけじゃなかったのか!?)」


善がリミテッドとなって、どれくらいの時が過ぎただろう。

過去二回。善はチーム・ジョーカーと、命がけの激戦を繰り広げ、乗り越えてきた。


ジョーカーを倒すこと…壊滅させること…

善はそれを目標に、レトインに協力し、共に行動してきた…


しかし、リミテッドのチームはジョーカーだけではなかった。


なぜ教えなかった?なぜ話さなかった?

善はレトインに対する怒りが、ひしひしと込み上げ、ついには爆発した。


「おい!レトイン!!
なぜ今まで話さなかった…なぜ隠してきた!?」


善はレトインの胸ぐらをつかみ、怒りに満ちあふれながら言った。


「キングだ…?そんなの今初めて聞いたぞ!!

なんでそんな大事なことを、ずっと黙っていやがった!!」


レトインは善の手を振り払い、あしらうように言う。


「………
別に隠してたつもりはない…

第一、おまえに一度たりとも聞かれはしなかった。
『ジョーカー以外にも、チームはあるのか?』などと言ったことはな。

おまえに聞かれることがなかったから、俺も答えはしなかったんだ」


「なんだそりゃ…なんだその理屈は!!ふざけんなよ!!

知らなかったんだから、質問のしようがねぇじゃねぇかよ!!
こーいうことは、まず先に話しておくことなんじゃねぇのかよ!?」


「落ち着きなさい。善」


志保が善をなだめ、静かに言った。


「けど…まさかキングの話を、まるでしてなかったなんてね…

一体どーいうつもりだったの?レトイン」


「………

いいんだよ。キングは」


「えっ!?いいんだよって…どーいう意味…?」


「俺たちが注意しなければならないのは、ジョーカーだ。
ジョーカーのリーダー、ジンだ。

キングはどうだっていい。善が気にする必要はない。
だから話さなかった」


「どうだっていいって…キングは放っておくつもりなの!?」


「あぁ。相手にする必要はない。

善…キングのことは気にする必要はない。
おまえはジョーカーと戦うことだけ頭に入れておけ」


「そ、そんな!だめよ!キングにも一目置いておくことは必要よ!」


レトイン、志保の二人の意見が完全に割れている。
何を信じればいいのか分からない…善は一人取り残された。


「おいおい…一体どっちの言うことを信じればいいんだよ…
俺にはさっぱり分からねぇよ!!」


「キングには注意すべきよ。決して間違っていないわ!!

何せ、キングのリーダーは、リミテッドの中でも“最強の能力”と
うたわれる力を有しているのよ!?」


(さ、最強の能力だって!?)


「そんなやつを野放しにしてていいはずがない!!

何を考えてるのか知らないけど、レトイン…あなたはおかしいわ!!」


「………」


リミテッドのみで構成されたチーム・キング


このキングを危険視する志保…

キングは相手にするなと、唱えるレトイン…

どちらを信じていいのか、何が本当なのか、うまく事をつかめていない善…


互いに意見は食い違い、話はヒートアップしていた。
そんな中、水を差すように、ある一人の人物が声をあげる。


「あぁ~あ…なんだよ…でかい声出しやがって…うるせぇな…」


やつが目覚めた。
善達に敗れ、気を失っていたジョーカー・大悟が意識を取り戻したのだ。


「!!大悟!?」


三人の熱は一気に冷めた。
いったん話は止めにし、注目は大悟に集まる。



「痛ててて…動かすと体が痛てぇや…」


「大丈夫か!?大悟!?」


「俺をこんな目に合わせた張本人が、大丈夫かって!?
変な話だな…

なぁに、こんぐらいじゃ俺は死にやしねぇよ!」


「そりゃよかったぜ。
おまえにはこれから、俺たちといっしょにジョーカーを倒すのを手伝って
もらわなきゃなんねーんだからな!

まさかやっぱ嫌だとか言いやしねぇよな?」


大悟は少しうれしそうに応えた。


「バカ言え…俺がおまえ達に負けたら、俺はおまえらについていく…

そう“約束”しただろ。今更なにを言ってんだ」


「へへっ!そうだったな!
まぁ実際かなりラッキーだったけどな!雨さえ降らなきゃ、俺達の勝ちはありえなかった」


「俺だっておまえが志保と戦って、疲れきったところを襲ったんだ。
正々堂々というわけじゃなかった…

今度はおまえが万全の時に、また戦ってみたいもんだな」


「そん時は、また勝たしてもらうぜ!」


「よく言うぜ…志保の力がなきゃ、何にもできなかったくせによ!」


「なっ、なんだとー!!」


なんだかとても楽しそうに話す二人。

傍観者の志保とレトインには、二人がまるで昔からの
仲のよい友人であったかのように写っていた。


「なんなのよ…あの二人。すっかり打ち解けちゃって…

さっきまで敵同士だったのが信じらんないわ…」


「昨日の敵は今日の友ってやつかな」


「いくらなんでも急接近しすぎ。
よほど馬が合う二人だったのかしら」


ジョーカーの一員として、やりたくもないことを脅されながら続けてきた大悟。

理不尽な“約束”でさえも、姉との誓いを胸に、決して破ろうとはしなかった。


そんな頑なな大悟を、善が変えた。
善のすべてを込めた拳で。

難しい言葉などはいらない。
その拳にはすべてがつまっている。


そのおかげで、大悟は素直になることができた。

姉の誓いも…妹の想いも…
大悟は背負って生きていく。


自分が行きたい方へ。進みたい方へ。
一歩前に足を踏み出して行けばいい。



「これからよろしくな!大悟」


「あぁ。ジンを相手にするんだ…
おまえらだけじゃ大変だろうからな。俺も加勢する」


土井 大悟。
生真面目な彼が、善と打ち解けた瞬間だった。


大悟が味方に加わり、明るい雰囲気となりそうではあったが…

現状、そーいうわけにはいかなかった。
あきらかに志保の表情は暗かった。


「どうしたんだ?志保?こわばった顔して…」


今まで気を失っていた大悟には、先ほどまで何が起きていたか分からなかった。


「現れたのよ…ここに“キング”が」


「!!!
キングだって!?」


「やっぱり…そんなやばい集団なのか!?」


「善…知らなかったのか!?キングを」


「さっき知ったんだよ。バカのレトインが、今まで黙ってやがったからよ」


「そ、そうだったのか…なら説明が必要ってわけだな。よく聞いておけよ。善。

キング…こいつらはジョーカー同様、リミテッドのみで集められたチームだ。

こいつらはジョーカーを敵視している。
ジョーカーを潰すのが目的と言っても過言ではないかもしれん」


「なんだ…俺達と考えはいっしょじゃん!」


「どうかな」


「えっ!?」


「キングは、もちろんジョーカーのように、世間の明るみに出ようとはしてこない。

だが、ジョーカーとは根本的に違うところがあるんだ。
ジョーカーは、数々の犯罪行為を繰り返し“悪”を貫き通している…

しかし、キングは…
リミテッドの力を使いながら“正義”と唱え続けいるんだ」


「正義!?へぇ~…いいやつらみたいじゃねぇか!」


そう善が言うと、志保が言った。


「正義ねぇ…私にはそんなふうにはとても感じないけど…」


「えっ!?そうなのか?」


「あぁ…正義とは言うものの…
あいつらのやってることは、間違いなく“悪”だ。

リミテッドの力を使って、世の中の犯罪者と呼ばれる者を…
やつらはためらいもなく殺す」


「なっ!!!殺すって…」


「リミテッドの力は強力だ。まず普通の人間では太刀打ちできない。
それをいいことにな…

犯罪者なんて、そんなやつらはこの世にいない方がいい。だから殺してしまう…
それがあいつらの語る正義だ」


「それのどこが正義なんだ!!
ふざけるな…人を殺してるおまえらも、同じ犯罪者じゃねぇか…

そんなことにも気づかないのかよ!!」


「同感だ。だが、ジョーカーよりはだいぶマシかもしれんがな」


キングについて色々語り出す大悟に、レトインがつっかかった。


「キングについて…やたら詳しいな」


「あぁ…実は以前俺は、キングにスカウトされたことがあってな。

当然そんなのは断ったが…
最終的にもっとタチの悪いジョーカーに目を付けられ、
妹を人質にとられジョーカーに入ってしまったんだがな…」


「そうだったか…それでそんなに詳しく…」


「キングも確かに悪い連中だが…
やつらが敵視しているのは、世の犯罪者と、犯罪組織であるジョーカー…

だからキングは、俺たちが手出ししない限り、向こうも襲っては来ないかもしれん」


そう大悟は言ったが、志保が言い返した。


「いえ…キングの一員の女…

善を狙ってたのよ…偵察に来たとか言って…
安心できる保証はないわ」


そんな不安な気持ちを志保はもっていたが、善には…


「どっちだって関係ねぇ…

許さない。許さないぞ俺は。
ジョーカーも…キングも…」


「善……」


善にとっては、すでにキングは敵。
ジョーカー同様、壊滅せねばならない組織のリストにあがっていた。


しかし、レトインは…


「フン…いいんだよキングは…
黙ってジョーカーだけ見とけば」


それでもまだ、ジョーカーのことだけを言っていた。


「まだ言ってんのあんた!いい加減にしなよ!」


「レトイン…キングはもう俺達の敵だ」


「………
勝手にしろ」


そう、呆れた表情でレトインは言った。
だが、ここで大悟が言い出した。


「どちらも敵には違いない。
キングも注意しておく必要はあるが…

今はジョーカーにピントを合わせておくってのは、あながち間違いではないかもしれん。

きっとこれから先…あいつらが動き出す…
ジョーカーの“四天王”と呼ばれるやつらが」


「そうね…四天王が動き出す可能性は高い。
そーなるとかなり厄介になるわね…」


「四天王…けっ!何でもかかってきやがれ」


ジョーカーに長く滞在していた大悟だけに、ジョーカーの内部にはかなり詳しい。

そんな大悟に、レトインが今までずっと謎であったことを聞いてみる。


「大悟…ずっと気になっていることがある…

ジョーカーは…なぜジョーカーは犯罪行為を続ける?
その理由…ジョーカーにいたおまえなら、その理由が分かるか?」


「………
理由か…正直それは、俺にも謎だ。

と、言っても、理解できないって意味の謎だがな」


意味不明とも思える大悟の発言に、レトインが首をかしげる。


「ん!?どーいうことなんだ?」


「ジンさん…いや、ジンはこう言っていたんだ…ジョーカーの存在意義は…


“復讐”


だってな。
そいつが誰に対するもので、何に対してなのか、さっぱり分からなかった」


「復讐…か…」


と、納得いったのか、いかないのか、どちらか分からない…
どちらのニュアンスも残さずレトインが言った。




ジョーカー…そしてキング。

新たなもう一つの敵が、善達のまえに現れた。


このキングの存在が、後の善達を、大きく揺れ動かし、波乱を巻き起こすこととなる。





第18話 "もう一つの闇" 完
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