3BECAUSE 第17話
善&志保VSジョーカー・大悟

善達は大悟の力に手も足も出なかったが、奇跡が起きた。


突如降り出した雨によって、一気に優位に立つことができた。


「この雨は…勝利の雨よ!!」


「“約束”したよな?大悟!!
てめぇが負けたら俺達に協力するって!

行くぞ!!志保!!」


「えぇ!!」




3BECAUSE

第17話
 「闇の中の訪問者」





(ここでのまさかの雨…まずい!一気に形勢が変わった…)


「残念だったわね…大悟。
あと一歩のところで」


「………」


「土の大剣はおろか、この雨で濡れた地面…

そのせいで地面からの土の攻撃すらも出すことはできない」


「おぉっ!そうか!

(すげぇな…リミテッドの力ってのは、その場の状況で、こうも変わってしまうのか!)」


「くらいなさい大悟。決してかわすことのできない、逃げ場のない攻撃を。

“バレッヂ ウォーター”!!!」


志保が手を挙げ、大悟の方へ向けて、手を振り下ろす。

すると、天から降り注ぐ雨が、まるで細かいレーザービームのように、
大悟に向かって一斉に飛んでいった。


「ぐぁぁっ!!」


「す、すげぇ数だ…こんなのかわせるわけがねぇ!!」


「どう?大悟。
一発自体はたいしたダメージはないけど、無数の雨が、体を貫く。

雨がやむまで降り注ぎ続ける…
いつまで耐えられるかしら?」


「くっ……

(このままじゃいつかくたばっちまう…
まだ終わらねぇ!!)」


大悟が痛みに耐えながらも、体を動かした。
志保の方へと走り出し…


「!!!」


ドン!!


走った勢いのまま片手を前に出し、志保を突き出した。


「志保!!」


志保が地面に倒れ込む。

それと同時に、大悟に向かっていた雨のレーザービームの効果は切れ、
雨は普通の雨へと戻った。


「やっと止まったか…」


「くっ…しぶといわね!終わったと思ったのに…」


起きあがる志保。そこに善が駆けつけた。


「大丈夫か!?志保」


「大丈夫。なんてことないわ」


志保の強力な攻撃を、なんとか止めた大悟であったが…

攻撃は止まろうが、雨はやむ気配がない。降り続けている。


(これじゃ…またさっきの用に攻撃されるだけだ…)


大悟が依然不利な状況であることに、変わりはなかった。


(だが…ひとつだけ手はある…
もうこれしか俺が勝つ手はない!)


何かを狙う大悟。不利な状況ながらも、ひとつの作戦を立てていた。


「まだ終わらないなら…もう一度“バレッヂ ウォーター”を…決める!!」


「あぁ!そうだ!俺もサポートする。頼むぜ志保!」


「だったら善…私が技を決めたら…
すかさずあいつに攻撃を入れて。

こんなじわじわした攻撃じゃ…いずれ…」


「ん!?」


今、完全に善・志保のペース。
それなのに志保は、暗い表情を見せた。

その表情はまるで、こちらが追い込まれているかのようだった。


そんな志保に疑問を抱く善…
それを見ていたレトインが、志保の心の内にある不安要因を割り出した。



「“メンタル”…だろ?」



「!!!」


図星だったのか、志保はあからさまに動揺した。


「メンタルって…確か…リミテッドの力、スタミナみたいなやつだよな?」


「そうだ。この数え切れぬほどの雨…
こいつを操作するって言うんだ…

消費するメンタルは相当なもんなはずだ」


「………
もう…言わないでよ。大悟に気づかれちゃうじゃない…」


「いや、恐らく大悟も分かっていることだろう。

気づいてないやつが一人いてな…
そいつのために説明したまでだ」


(お、俺のことか…)


大悟が冷静に言う。


「あんたの言うとおりだ…
俺の狙いは一つだけ…

メンタル切れした志保を倒す。それしかない」


「………
そう。言われなくても気づいてたのね…」


「てかさっきの攻撃…そんなに力使うもんなのか…?
あと何回…何回使える!?」


「………

あと一回」


「いっ、一回だって!?」


「放ってる時間にもよるけど…
二回目はない。次で決めるしかないの」


「そ、そんな…

(じゃあ…もし外したり、勝負がつかなかったりしたら…)」


「勝負は一回きり。これにすべてをかける!!

行くわよ!善!あんたもすべてをかけなさい!!」


「ちょっ…ま、待ってくれよ!!」


「何言ってんのよ!向こうだって待ってはくれない!
攻撃が決まったら、次はあんたが決めるのよ!!」


(ま、マジかよ!?どーすりゃいいんだよ!
こっちは雨のせいで“イフリート・ソード”も火の力も使えねぇんだよ!!

どーする…一体どーすれば…)


「これで終わりよ!!大悟!!」


志保がそう言って、腕をあげようとする。


(まずい!あの腕があがりきったら、俺は負ける!
それだけは食い止めねば!)


大悟が猛スピードで止めに入る。
その加速とともに、そのままタックルに行くつもりだ。

志保の腕があがりきる前に、なんとか間に合ったように思えたが…


ドッ……


「!!!
(な、なんだ…?何かにぶつかった!?)」


大悟は“何かの”感触をとらえた。
しかし、これはあきらかに志保の体ではない。


「甘いわね。大悟」


大悟が目をやると、そこには水で作られた、大きな“壁”が立っていた。


善が、この水の壁に反応した。


「こいつは…以前、俺と戦ったときに見せた、水のシールド!!

水でできてるだけに、物理攻撃は一切効かねぇんだよな!これが!」


「捕まえたわよ。大悟。もういくらもがいても、あなたはそこから抜け出せない」


「し、しまった!!
さっきの攻撃の素振りは…フェイクだったのか!!」


「今度こそ本当に行くわよ!!
“バレッヂ ウォーター”!!!」


降り注ぐ雨の全てが、大悟の体の一点へと、突き刺さる。


「ぐわぁぁっ!!!」


「今よ!!あとは頼むわよ!善!!」


「!!!
頼むって…言われても…だから俺…」


焦る善。この絶好のチャンスを逃すわけにはいかない。
何もいい手が思い浮かばない中、隣にいたレトインがささやいた。


「何をしているんだ…善…

あるじゃないか。まだおまえにも、立派な武器が…」


「えっ…!?」


「大悟はどうしたと思う?おまえと同じく、リミテッドの力を失った大悟は…

どうしたと思う?
あいつはただ突っ立って、見てただけか…?」


「大悟…大悟は…

(あいつは武器を、大剣を失って、土の力も封じ込まれた…
だけど…だけどあいつは…

!!!
そういうことか…そういうことかレトイン!!

あるじゃねぇか…俺にも…まだ十分使える“武器”が、あるじゃねぇか!!!)」


何かに気づいた善は、口を緩ませ、にやついた。


(ようやく気づいたか…善。
“力”とは…本当の力とは、こーいうことだ…

かませ!おまえの最強の武器の“拳”をよ!!!)


「観念しろよ大悟!思いっきりぶっ放してやる!!

(今、雨のせいで火の力は使えねぇ…
けど、火を放つんじゃねぇ…火の力を溜める。

溜めて…溜めて…そして一気にぶっ放す!!

拳を燃やすんじゃねぇ…拳を…爆発させるんだ!!)」


火の力を溜め続けた善の片手は、赤く光り輝き出した。


「行くぜ!!
“ブラスト ナックル”!!!」


光に包まれた善の手は、パンチを繰り出すとともに爆発し

身動きのとれない大悟の体に、炸裂した。


「やった!!決まった!!」


「ハァ…ハァ…どうだ!?大悟!?」


「がっ…ぐっ…」


大ダメージを受けた大悟は、もはやまともに声をあげることすらできなかった。

善が大悟の近くにかけより、大悟の体を揺すりながら問う。


「おら!なんとか言え!こら!負けたって言いやがれ!このやろう!!」


レトインが鼻で笑いながら善に言った。


「バカが。こーいう姿になったやつのことを…
負けって言うんだよ」


「か、勝ったのか…?俺たち!?」


「えぇ。雨が降らなきゃ勝ち目はなかった…
かなりラッキーだったけどね」


「か、勝った…勝った…よっしゃーー!!!」


気を失いかけて、ぐったりした大悟を目の前に

大声で歓喜の声をあげる善。それを見て微笑み志保とレトイン。


終わった…長き一夜が。ジョーカーとの戦いが、夜の世界が終わりを迎えた。

そんな安心感から、3人は気を緩めた




その時だった!!!


パンパンパン!
どこからか拍手が聞こえる。

その拍手は、実にわざとらしく、とてもいい気分はしない音色を奏でていた。


「誰だ!!??」


「すごいじゃん!まさか倒しちゃうなんて!
予想外だし」


気の陰から、一人の女がこちらに歩み寄ってきた。


「な、何者だ!!てめぇは!?」


拍手をしていた人物は、まさしくこの女だった。

背は低めで、特徴的な衣装を身にまとっていた。

真っ黒のゴスロリファッション。
闇にとけ込むにはちょうどいい。見るからにも怪しい雰囲気が漂う。


「何者って言われてもねぇ…別に答える必要ないし」


「なんだと!?てめぇ…いつからそこに隠れていた!?」


「いつからって…だいぶまえ?
だいたいのあんたら“リミテッド”の戦いは見てたし」


“リミテッド”


この、一部の者でしか知らない、いや、リミテッドである者しか知らないであろうフレーズを

耳にした志保は、形相を変え、謎の女につっかかっていった。


「今“リミテッド”って言ったわね!?
あんたも、リミテッドなのね!?」


(えっ…?志保もこいつのこと知らない!?
ってことは、こいつ…

ジョーカーではない…?)


「さぁ…?そんなのどっちだっていいことじゃん?」


「いいわけないでしょ!あんたそれ以上ふざけてると、容赦しないわよ!!」


志保が謎の女に腹を立て、ほとんど力の残っていない、水の力を使おうとした…


「やめといた方がいいよ。あんたの能力は、私の能力に相性最悪だし」


志保の手が、ピタッと止まった。


「なんですって!?そんなハッタリ誰が…」


それでも力を使おうとした志保に対し、レトインが叫んだ。


「やめろ!!!志保!!!」


「!!!
な、何よ!レトインまで…」


「へぇ~…あんた頭いいじゃん?
そこの女…あんたもちょっとは頭使った方がいいし。

あんた怒りに身をまかせて、メンタルの計算できてないんじゃん?
今戦うのは、自殺行為だし」


「………」


「悪いけど私、今日はあんたらとやり合うつもりないし。
偵察に来ただけだし」


「偵察…?」


「そう…そこのあんたのね」


謎の女が指をさす。
その指の先には善がいた。


「俺…?」


「まっ、今日はこんぐらいってとこで。じゃぁねぇ~」


そう言うと、謎の女はまた闇の中へと消えていった。


「ちょっ…待ちなさいよ!!」


しかし、志保も、誰も女を追うことはしなかった。
あの女の言うとおり、事実、こちらのメンタルが切れていたからだ。

今、追って戦っても、簡単にやられてしまう。
どうすることもできなかった。



あまりにも突然の出来事だったため、呆気にとられる一同。

特に善は、全く状況を飲み込めていない。


「な、なぁ!あいつもリミテッドか!?
なんだったんだ!?今のやつ…」


「………」


黙る志保とレトイン。
そして、沈黙のあと、志保が言った。


「“あいつら”ね…」


「えっ!?あいつら…?それってどーいう…」


「………」


それでもレトインは黙る。何も答えようとはしない。
しつこく善が問いかけた。


「だから!!あいつらってなんなんだよ!!」


「ジョーカーじゃなきゃ、残るはひとつしかないでしょ…


“キング”」


(キング!?それって一体!?)





第17話 "闇の中の訪問者" 完
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