3BECAUSE 第16話
「俺約束を破るやつは嫌いだから…
ジンはとてもじゃねぇけど、許せねぇやつで、むかつくやつだけど…

今回の任務…
あいつと“約束”しちまってるわけで…

だから…だから…


橘善。俺はおまえを全力で倒す」


「!!!
こっ…この…分からず屋が!!

そんなもん破棄しちまえばいいんだよ!!」


「これを破ったら、結局俺はジンと一緒のクソ男だ…

俺は、約束は必ず守る」


「はっ!気に入ったぜ!あんた!!
それでこそ本物の漢だぜ!!」


「覚悟しろよ…橘善!!志保!!」





3BECAUSE

第16話
 「相性」





「大悟…おまえの任務は…
俺の抹殺か?」


「そうだ。それと…
水野志保の抹殺だ」


「!!
そうか…おまえは任務を守んなきゃならねぇから、俺たちと一緒になって
ジンを倒すことはできねぇんだよな…?

だったら…俺達を倒すことができなかったら…
俺たちに協力してくれてもいいってことか?」


「それでは約束を破ったことになってしまうじゃないか…」


「任務失敗ってやつだ。もうそれでいいだろ」


「もしそうなったら、俺は所詮そこまでの男ってわけか…

フン!いいだろう!万が一俺を倒すことができたらな!」


そう、自信満々に大悟は言った。


「言ったな?今の
“約束”だかんな!

よっしゃ!行くぞ!志保」


「えぇ!でも善…

あんた体は大丈夫なの!?私達が来たときには、あんたもうボロボロだったじゃない」


「ボロボロ?なわけねぇだろ!
今けっこう長い間話してたからな…十分回復した」


「ちょっと…強がらないで」


「強がってなんかねぇさ!見てろよ!?

イフリート・ソード!!」


善は火の剣を作り出した。
それはさっき、しぼんでいたイフリート・ソードとは違い

いつもと同じ大きさ、いや、以前より大きさなイフリート・ソードを作り出していた。


(う、うそでしょ!?さっきまで善はボロボロで…)


(こいつは…この短時間で、メンタルをここまで回復させたって言うのか!?

それどころか、この力は…今まで以上か!?)


同じリミテッドである、志保や大悟は、善の尋常ではない回復力に、驚かされていた。
しかし、レトインは…


(善…なるほどな。やはりこいつは、何か目的や目標があると、より燃えるタイプ。

想像以上の力を発揮するみたいだな)


善のリミテッドとしての素質を見抜いていただけに、当たり前のように見ていた。


「体もだいぶ軽いぜ!これで大悟に勝てる!」


「甘くみない方がいいわよ」


「えっ…?」


「リミテッドの力には
“相性”ってのがあってね…」


「相性!?」


「そう。例えば私の水の力と、あんたの火の力…

まぁ相性はどっちもどっちってとこかしら。
水の力を上げれば、火は簡単に消えるし…

火の力を上げれば、水を蒸発させることだってできる」


「なるほど!」


「でね、私と大悟のリミテッドの相性は…」


善に説明している途中であったが

志保は突然、水の力を大悟へと放った。


その攻撃は、大悟がずっと手にしていた、土の力で生み出された大剣へと当たった。


「!!!」


すると、大悟が手にしていた大剣は、水の力により溶けていき

形は崩れ落ち、泥へと姿を変えた。


「こ、これは…!!」


「私の能力は、大悟の土の力に相性はバツグンなの」


「チッ…」


「これが相性の力ってやつか!
だったら問題ないじゃねぇか!より楽に倒せ…」


「いえ…
相性はいいはずなのに…私は一度たりとも大悟に勝つことはできなかった」


「えっ!?」


「私がジョーカーにいたとき…
訓練として、大悟と何度も戦った…

けど、大悟には一回も勝つことはできなかった…」


志保が気を落としながら語る中、レトインが冷静に言う。


「無理もないだろうな。志保と大悟じゃ…

能力以前に、身体能力が違いすぎる。
根本的なスペックで話にならん」


(確かにな…あいつには剣術だけでも、かないそうになかった…)


「そこまで分かってんなら、あきらめたらどうだ!?

俺には勝てやしないんだからよ!!」


「いえ…私一人では、かなわなくても…

二人なら、善と協力すれば大悟にも勝てる!!」


「協力…?へぇ~…しばらく見ないうちに変わったみたいだな志保」


「それは言えてるぜ…志保の…今のおまえの目…

輝いてるぜ!!
まえ戦った時とは違う」


「ちょっと…やめてよ。こんな時に…恥ずかしいったらありゃしない。

けど、確かに私は変わった…いつまでも変わらないのはあんたよ!
頑固者の大悟!!」


「そうかもな…でも…

俺はこのままでいい」


大悟はまた新たに大剣を作り出した。


「もう油断はしない…こっからは本気で行くぞ!!」


「く、来るっ…!!」


「あの剣をなんとかしなきゃ…ウォーター!!」


志保は水の力を、大悟の大剣へめがけて放った。


「そんなもの…当たらなきゃ意味がねぇ!!」


しかし、大悟は志保の攻撃をなんなくかわした。


(厄介なのは善よりも志保の方…先に志保を潰す!!)

そして大悟は志保へ攻撃を仕掛けた。
だが、その攻撃は…


「!!!」


キン!!!
金属音がこだまする。


「おいおい。俺よりまず女を狙うのかよ。
あんた紳士じゃないね~」


善が志保をカバーし、大悟の大剣からの攻撃を防いでいた。


「紳士…?戦闘において、そんな要素は必要ない。
勝つか負けるか。生きるか死ぬかの世界だ。

おまえはひっこんでろ。あとで料理してやる!」


「はっ!あいにくそうもいかねぇんだよ!
こっちはチームなもんでよ」


「助かったわ…善」


「あぁ!それより志保…

やっぱりあいつの大剣が邪魔だ。なんとかしたい。
おまえの水の力でどうにか…」


「えぇ。分かってる…
けど大悟もそれは頭に入ってる。

私の攻撃が読まれてたら、かわされるだけ…」


「だったら…かわされないようにするまでだ」


「おい…何を二人でごちゃごちゃやってる…」


善は志保に目をやり、次の瞬間、大悟に向かって飛びかかった。

そしてイフリート・ソードで大悟に攻撃を仕掛けた。


「そんな攻撃、俺には効かねぇよ!!」


大悟は善の攻撃を大剣で受け止める。


「(よし!かかったな!)

今だ!やれ!志保!」


「えぇ!ウォーター!!」


善の攻撃を大剣で受け止めた大悟…
その時大きなスキが生じる。


そのスキを狙った志保の攻撃は、見事大剣に直撃し

大剣は水の力によって、力は失われていった。


「よっしゃ!うまくいった!もらった!!」


武器を失った大悟に、善が攻め込む。

善達の思惑通りに行き、会心の一撃をかませると思ったが、
そんな中、レトインが一言つぶやいた。


「甘いな」


「橘善…何かひとつ忘れてないかい?」


「!!??」


そう大悟が言うと、突然地面が光り出した。


(そ、そうだ!何もこいつの力は大剣だけじゃねぇ!
“土”の力…そいつがこいつの武器!!)


「気づくのが遅い。

ノックアップ グランド!!」


爆発音と共に、地面から土の力が一気に立ち上がる。


「ぐわぁぁっ!!」


「善!!!」


善は土の力に巻き込まれ、数メートルの高さまで飛ばされ、その高さから地面へと落ちた。


「善!!大丈夫!?」


「くっ…あぁ…なんとか大丈夫だ…

(土の力…ちょっとなめすぎていたな…
俺らが足をつけている地面…すなわち“土”!!

この環境が、あいつの力を何倍にも強くさせてやがる!!)」


「リミテッドの力とは…周りの環境によって大きく変わる。

この土の力は、リミテッドの能力の中でも、1、2を争うほど、
フィールドの恩恵を受けることが できる能力だ!!」


「甘いんだよ善。ひとつのことに捕らわれるからだ。
周りが見えてない証拠だ。もっと全体を見据えろ」


「うっせー!!レトインは黙ってろ!!」


「橘善…この俺の大剣をどうにかしたいようだが…
いくらやっても無駄だよ」


大悟はもう一度、新たに土の大剣を作り出した。


「志保の水の力で俺の剣を崩そうが…
また新たに剣を作ればいいだけの話だ」


「チッ…くそ!!」


「もうあきらめろ。善。

おまえにもすでに見えているはずだ。
おまえら二人の力を合わせても、この俺には勝てないってことを」


「………」


黙り込む善。嫌な空気が漂う。


更に、突如雲が月の明かりを隠し始めた。
より一層辺りは暗くなる。

まるで今の善の気持ちを表すかのよう…
とうとう、すべての光は居場所を失った。


「俺はおまえのことが心底気に入った。
ここでおまえを殺したくはない。

だから善、志保…
おまえ達はこっから逃げろ」


「!!!」


「今後、一切ジョーカーに関わることをやめるんだ。
そしたらきっとリーダーも、おまえ達に手出しはしないはずだ」


「どうかしらね…リーダーが…ジンがそんな逃がすなんて生易しいことしてくれるかしら…」


「そんなことは関係ねぇよ。志保。

俺は絶対あきらめねぇからよ」


「!!な、なぜだ!?
無駄死にしたいのか!?善!!
今ここで死ぬよりは逃げた方がマシだろ!!」


「俺たちリミテッドは一度死んでる…
一度そう死を受け入れちまったら、死に恐怖を感じなくなった」


「バカ野郎!!善…おまえは確か父親が自分の代わりに死んだんだったよな?

今ここで死んだらおまえの父親の命は!?
父親の想いは!?そいつらは一体どうするつもりでいる!!」


大悟が声を張り上げると同時に

ピカッ!!

っと、とてつもなく強い光が放たれた。そして…


「それはおまえも同じだろうが!!!」


ゴロゴロゴロッ!!!


善が叫んだ瞬間、大きな音を立てて雷が落ちた。


「なんだって…?」


呆気にとられた大悟。
雷の音から一転、辺りは静まり返る。

そして一気に天候は悪化し、雨が降り出した。


「おまえだって自分の姉ちゃんが代わりに死んじまったんだろ…?
それに妹だって犠牲になっちまった…

見たくないんだよ…もう…
ジョーカーのジンってやつに踊らされて、いいように使われてるやつを…

もう見たくないんだよ!!」


「善……」


雨の音だけが鳴り響く。そんな中、善が力強く言う。


「俺は決めたんだ。あんたを仲間に引き入れて、俺達はジンを倒す!!

だから…だから!!
俺はここで負けるわけにはいかねぇんだ!!!」


「そんなの…おまえが勝手に決めつけた話じゃねぇか!
勝手に決めつけられても困るんだよ!」


「確かにな…完全に俺の都合だ。
だから力づくでおまえを倒して引き入れるんだ!!」


「力づくか…
この状況でも、まだ力づくとは…

よく言えたもんだ」


突然降り出した雨によって、善のイフリート・ソードは力を失っていた。

「雨のせいで…イフリート・ソードが…」


「実力どころか…運までも味方しなかったな!善!!
おまえの武器はもうなくなった」


「俺がついてないって…?そうか?
むしろ逆だろ。

なぁ!志保!!」


「えぇ。この雨は…勝利の雨よ!!」


「!!!
雨……“水”の力!?」


「形勢逆転ね。覚悟しなさい!大悟!!」


「大悟…“約束”したよな?
てめぇが負けたら俺達に協力するって!

行くぞ!!志保!!」


「えぇ!!」



この状況では分かるわけがなかった。

集中力を欠けば、大悟から目を離せばやられるであろう、熱戦の最中に…


物陰で何者かが善達を監視続けていることを…

誰一人として、気付くわけがなかった。





第16話 "相性" 完
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