3BECAUSE 第15話
中学1年の時。家族全員で旅行に行った。

父、母、姉、妹、そして俺。
家族5人全員で旅行に出かけた。


中学生になり、思春期にさしかかると、おもしろいもので…

どうも家族といっしょに出かけるのが恥ずかしくり、
次第に兄弟ともあまり口を聞かなくなってくる。

男ならなおさらだ。


そんな中、ちょっと嫌々な気分で行った家族旅行ではあったが

俺とは違って姉や妹は、すごい楽しく旅行を満喫した様子だった。


こんなどこにでもよくありそうな、ごく普通の家族旅行ではあったが…

その旅行の帰り道。事件は起きたんだ…





3BECAUSE

第15話
 「大悟」





旅行の帰り道。父親が車を運転している。

山道に差し掛かり、急な坂を下り続ける。


ガードレールの向こうは、断崖絶壁。
そんな険しい山道だった。


俺たち家族は、怖い気持ちを半分持ちながらも

辺り一面に広がる、山々の景色を楽しんでいた。

しかし、美しい景色を打ち消すような雨が、突如降り注いできた。


雨で滑る路面に注意しながら、ハンドルを慎重にきる。



その時だった。
険しい山道、滑る路面。

そんな悪条件がそろう中、さらに事態は悪化した。


地震だ。地震が起きたんだ。
割と揺れは大きい。

そして、その地震により土砂崩れが引き起こされた。雨による影響も大きかった。


偶然が偶然を呼び…
走っていた車は、土砂崩れに巻き込まれ

車はガードレールを突き破り、崖へと落っこちた。



俺は車が崖へと落ちた衝撃で、気を失ってしまった。

それから、どれくらいの時間がたったか分からない。
俺が目を覚ますと…
目の前には姉がいた。


『ん…?ねぇちゃん…?

痛っ!!』


俺の頭に激痛が走った。頭をふと触ってみると…

手にはべっとりと血がついた。
崖から落ちた時に、頭を損傷したようだ。


『大丈夫!?大悟!?』


『い、いてぇけど…
ねぇちゃんだけ…?他のみんなは…?』


『分からない…みんなバラバラに飛ばされたちゃったみたい』


どうやら崖から落ちたときに、その勢いで俺たちは車から吹き飛ばされたみたいだ。

父、母、妹の姿が見当たらない。


『そ、そうか…ねぇちゃんは…?
ねぇちゃんはケガはしてねぇか?』


『私は大丈夫…昔から運だけはよかったから』


『ならよかった…
けど、わりぃな、ねぇちゃん。

俺体中痛くて、歩けそうにねぇや…』


『大悟……』


『ねぇちゃんは動けるんだろ?
俺のことはほっといていいから、ねぇちゃんは早く誰かに助けてもらってくれ』


そう俺は言ったのだが、ねぇちゃんはここを離れることはしなかった。

それどころか、体を動かすことのできない俺をまえにして、ねぇちゃんは地面にしゃがみ込んだ。


そして、ねぇちゃんはそっと俺の手を握った。


『なっ!何すんだよ!恥ずかしいだろ!
いいから早く行けよ!』


きっとこの時ねぇちゃんには、分かっていたんだろう。

俺の命もそう長くないことを…


『大丈夫よ。大悟。私がそばにいるから…』


『そばにいるからって…いいって…一人で大丈夫だって』


『強がらないの。あなたは私が守るのよ…約束したんだから』


『えっ?約束…?』


『そう…あなたがまだ赤ん坊の時にね、お父さんとお母さんと。

おねぇちゃんの私が、弟の大悟を守るのよ。って…』


『何バカ言ってんだよ…そんなの子供の頃の約束だろ?
父ちゃんも母ちゃんも覚えてないって』


『そんなことない。いい?大悟…約束よ…これだけは約束してよね…』


『……?』


『あなたにも守るべき相手がいる…

妹は大悟が守るのよ』


大悟の姉が、幼き頃交わした、父と母の約束。
その約束は、中学生になっても忘れることはなかった。

そして弟である大悟と、自分が両親と交わした同じ約束を、この時交わした。


『守るって…俺にはそんなの無理だよ…』


『無理じゃない。あなたにならできるわ。

だってあなたはお兄ちゃんなんだから』


『何言ってんだよ…いい歳こいてよ…

なんだかさ…こーやってねぇちゃんと二人っきりで喋ったのって、何年ぶりだろうな?』


『ふふっ。そうね。何年ぶりかしら』


この時見せた、ねぇちゃんの笑顔。

これがねぇちゃんの最後の笑顔。


このあと、もっと何か話した気がする。
昔の思い出…楽しかったこと…二人でよくケンカしてたこと…

でも正直、今となっては、この時何を話したかは全く覚えていない。


すでに俺の意識は、もうろうとしていたからだ。

覚えていられるはずはなかった。
しかし、そんな中、今でも覚えていることが、ひとつだけある。

俺が意識失わないようにと、声をかけ、強く手を握っていてくれた姉。


握っていてくれた、ねぇちゃんのその手は

なんだかとても温かった。


今でもそれだけは、不思議とよく覚えている。



そして、とうとう俺は力尽きた…
死んでしまったんだ。


だが、この時死んだ俺の代わりに姉が死に…

俺はリミテッドとなった。



(ごめん…ごめん…ねぇちゃん…
俺…俺…ねぇちゃんとの約束守れなかった…

ねぇちゃんは自分の命を俺に変えてまで、俺を守ってくれたのに…
俺は…俺は妹を守ることはできなかった…ごめん…ねぇちゃん…)


大悟は地面に這いつくばりながら、涙を流していた。

その光景を見て、善は何かを悟った。


「大悟…自分を責めているのか…?
妹を守れなかった自分を」


「………」


「立てよ。大悟。そんなとこで座り込んでねぇでよ。
立て…立ち上がれよ!!」


「俺は…許せないんだよ…ジン以上に、妹を守ることができなかった自分を!!」


「だったら…いいじゃねぇか…許さなくても…」


「!!!」


「おまえがいくらそこで泣こうが、わめこうが、妹はもう二度と帰ってきやしねぇんだよ!!」


「!!!
ちょっ…善!!あんた何てことを…」


善の発言に、慌てて志保が言う。


「大悟が今どれだけ辛いことか…大悟はさっきすべてを知らされたのよ?

それなのに、そんなこと言わなくても…」


「いや、こいつはそんな弱ぇやつじゃねぇよ。

こいつは妹のために、何もかもを背負いこんだ。ジョーカーの一員になること…

どれだけ辛い日々を過ごしただろうか…
こいつの覚悟は、並大抵のもんじゃねぇ!!」


「………」


「悔しいんだろ…?許せないんだろ?
自分を…ジンを!!

だったら立てよ。そんなとこで、うずくまってねぇでよ!!」


「妹はもう帰って来ないなら…
それなら…それなら俺はどーすりゃいいんだよ!!!」


「終わらすんだよ。何もかもをよ」


「終わらす…だって…?」


「ジョーカーを…ジンの野望を!!
ヤツが何考えてんのかは知らねぇがよ…

おまえ以外にも、まだまだいるんだろ?
ジンに捕らえられて、ジョーカーの一員になってるやつがよ。

いっしょに…俺たちといっしょに、ジンを倒そうぜ!
その怒りや悔しさを、ジンにぶつけてやるんだ!!」


「俺が…ジンを…?」


「そうだ!きっとその方が、おまえの姉や妹も、喜ぶはずだ。

今のおまえの姿が…見てて一番辛いんだと思うぜ…?」


「!!!」


考えても見なかった…
俺は妹の命を助けることしか考えてなかった…


しかし、そのことによって、俺はジョーカーの一員となって

数々の犯罪行為をしてきた。


この今まで俺のやってきたことは、果たして妹が望んでいたことなのか?

そこまでしてでも、自分の命を救ってほしかったのだろうか?


姉と約束した
『妹を守ること』


これでは、例えいくら妹の命を守り続けてたとしても

姉との本当の意味での約束を果たすことへと繋がっていたのだろうか…?


俺は、今気づかされた。俺が今までやってきたことは…

自分の心の奥底で言い続け、信じ続けててきたことは…


間違っていた。
俺の倒す相手は、この橘善なんかじゃない…


二階堂 仁だったんだ。



「こんな俺を…情けない俺を…仲間に誘ってくれるってのか…?」


「あぁ!もちろんだ!

だって見てみろよ!おまえみたいに前までジョーカーだった、志保もいるんだぜ?」


「そうよ!大悟!」

(もう!借りは返すって言ったけど…
誰も仲間になるなんて一言も言ってないんだけど。

って、そんなこととてもじゃないけど言えない状況ね…)


レトインは、また一つ善に驚かされた。


(こいつ…志保だけじゃなく、大悟まで…
またもやジョーカーの一員を改心させようと言うのか!?)


「嬉しいよ…橘善…
こんな俺を誘ってくれるなんて…

でも…でもよぉ…
やっぱり俺、約束を破るやつは嫌いだからよぉ…」


「えっ…?それって一体どーいう意味…」


「ジンはとてもじゃねぇけど、許せねぇやつで…

むかつくやつだけどよ…今回の任務…
あいつと“約束”しちまってるわけで…

だから…だから…


橘善。俺はおまえを全力で倒す」


「!!!
こっ…この…分からず屋が!!

そんなもん破棄しちまえばいいんだよ!!」


「これを破ったら、結局は俺はジンと一緒のクソ男だ…

俺は、約束は必ず守る」


「はぁ~…バカな男」


志保が呆れてため息をつく。


「はっ!気に入ったぜ!あんた!!
それでこそ本物の漢だぜ!!」


「覚悟しろよ…橘善!!志保!!」





第15話 "大悟" 完
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