3BECAUSE 第14話
数分前。


(まずい…どこにいる…善…
この辺のはずなんだが…)


善の下へと駆けつけていたレトイン。その時…


『!!!
あ、あれは!!』


急ぐ中、何かをレトインは発見した。
レトインが見た先には…


『志保じゃないか!!なんで志保がこんなところに…』


志保がいた。
数時間前に決着をつけたばかりの、ジョーカー・志保だ。


『!!
あ、あなた…善といっしょにいた…』


志保もレトインの存在に気づいた。


『チッ!!もしや復讐に来たか!?

(この急いでるときに…なんてタイミングが悪い…)』


『急いで!!話してる時間なんてない!!』


『!?ど、どーいうことだ!?』


『今、橘善がジョーカーに襲われて、大変な目にあってる!!

早く…急がないと!!』


(こ、こいつ…?善を助けに来たのか…?)

『これは一体どーいうことだ!?さっきまでおまえは俺達とは敵で…』


『いいから!!早く!!善を死なせたいの!?
早く助けに行くわよ!!』


『あ、あぁ…!!』



こうして、突如出くわした志保とレトインは合流した。

善の心配をする志保…一体何が起きたのか理解できず
困惑しているレトインであったが…


実は、レトインだけでなく、志保も困惑した状態にあったのだった。


(この男…なんでなの…?明らかにこの男は…)



この時感じた志保の疑問…

この疑問も、近いうちにすべて解けることになる。





3BECAUSE

第14話
 「突きつけられた真実」





「遅くなったな。善」


「ホントだよ!待ちくたびれたぜ!!
それにしても…」


善は志保の方へと目をやった。


「どーいう風の吹き回しだ?志保…
俺を助けるだなんて…」


「あんたには借りがあるから」


「……?
借りだぁ…?」


「本当は死ぬはずだった私を、あなたは生かしたのよ…
そんなこと頼んだつもりはないのにね!」


「………」


「でも、今は…

生かしてくれたことを感謝してる」


「志保……」


「だが、そいつも今となっては何の意味もないぜ!志保!」


今のセリフを聞いていた大悟が、話に割って入った。


「リーダーからおまえを抹殺するように指令が下ってる。

結局、おまえはここで死ぬことになるんだよ!!」


「なんだって!?抹殺って…おまえら仲間なんだろ!?」


「いいのよ。善。
ジョーカーってのは、そーいう組織だから」


「マ、マジかよ…」


「まさかおまえの方から俺のところにやってきてくれるとはな…
こりゃ探す手間が省けたぜ!!」


志保は深くため息をついた。


「相変わらずね…大悟…」


そして、志保は善を静かに呼んだ。


「ねぇ…善…」


「ん!?」


「救ってよ…あいつのこと…」


「救ってって…いったい…」


「あいつだって、やりたくてこんなけとやってるんじゃない…

目覚まさせてやってよ…私の目を覚まさせたくれた、あの時のようにさ!」


「!!
やりたくてやってるんじゃないって…

(そーいや、さっきこいつ“事情”がとか言ってやがったな…)」


善と志保の会話を、耳にしていたレトインが喋り出した。


「“土井 大悟” 21歳

7、8年ほど前、家族旅行の際、地震により引き起こされた
土砂災害に巻き込まれ死亡。

が、2つ離れた姉が代わりに死亡し、リミテッドとなる」


「!!!
お、おまえ…なんでそれを…?

おまえがレトインだな…?
なるほど…俺達のことは何でも知ってるんだな。

確かにこれは驚きだ」


「後に、おまえはジョーカーの一員になる…

ある一つの“条件つき”でな」


「条件…?」


善がレトインの言葉に、耳を傾けた。


「条件と言うべきか…何と言うべきか…

こいつには、実は姉だけでなく、妹も存在するんだ。

その妹が、ジョーカーの人質に捕らえられてる」


「!!!
人質だって!?じゃあ…もしかして…

ジョーカーの言うとおりにしなきゃ、妹の身が危ないって脅されてるってわけか!?」


「どうやらそのようだな」


「チッ…一体どこでその情報を手に入れたことやら…」


(そう…大悟には人質の妹がいる…

私は知ってる…こいつは本当に悪いやつなんかじゃない。
でも、すべて大事な妹のために、やむをえなくやっていることなんだ…)



話は数時間前まで、さかのぼる。

志保が善に戦いで敗れた直後。
志保は一本の電話をかけていた。


相手はジョーカーのリーダーではなく、大悟だった。
志保は大悟に電話をかけていたのだった。


『もしもし…』


『志保か?どうした?もう任務は終えたのか?』


『負けちゃった…私…』


『なっ!!やられたのか!?橘善に!?』


『えぇ…あんたも気をつけた方がいいわよ…
もう一人の“レトイン”と言う男…こいつには気をつけた方がいいわ』


『もう一人?何者なんだそいつは…』


『私たちジョーカーのこと…色々知っているみたい…

大悟…私は情報を与えるためにあんたに電話したんじゃないわ』


『……?』


『私は、ジョーカーをやめる』


『!!!
やめるって…分かっているのか?やめるって言ったって…

俺の次の指令はおまえの抹殺になるだけだぞ!?』


『そんなのは承知の上よ。

いい加減あんたも目覚ましなさいよ』


『目覚ませだと…?』


『橘善…あいつ中々面白いやつでね…
たいして歳も変わらないくせに、偉そうにベラベラと…』


『………』


『でも、おかげで私は目が覚めた。本当の私を取り戻すことができた。

あんたもいい加減目覚ました方がいいわよ』


『志保…俺に何を言っても無駄だ。
俺にはジョーカーを続けなきゃならない理由があるからな』


『……そう…』


『いいか志保。いくらおまえと言えど、次会ったときは全力でおまえを倒す』


『えぇ…分かってるわ…』



妹を人質にとられている大悟には、何を言っても無駄。

妹の命を守るためなら何でもする…



「あんたが言ってた事情って…このことか」


「………
悪いな…橘善、志保…

これも妹のためなんだ…悪いが…

死んでくれ」


(こいつ…本気だぜ…

それにしてもジョーカーは、なんて汚ねぇ手口まで取りやがるんだ!)


「はっはっは…妹のためにね…
そいつは笑わしてくれるな」


レトインが突如、大悟をあざけ笑う。


「き、貴様!!何がおかしい!?」


「だって…おかしいじゃないか…妹を守るだって…?バカな話だ」


「バカな話だって!?この話の一体どこが…

貴様…俺を侮辱するつもりか!?」


「そりゃおかしいだろ…

肝心の大事な妹は、とっくの昔に殺されてるだなんてよ。

おまえは一体誰を守ってるつもりだ?バカバカしい話だろ?」



「!!!

殺されてる…だって…?」


レトインの放った言葉に、驚きを隠せない大悟。

そして大悟同様、まるで自分のことのように驚いている善が、志保に言った。


「殺されてるって…
志保!!そいつは…本当か?事実なのか!?」


「………」


志保は黙った。何も答えることはなかった。

しかしその沈黙は


“否定することは何一つない”


そう意味することに等しかった。


「なっ?自分でも分かったろ?
土井大悟。今まで自分がどんなにバカなことをしてたかってことが」


「………」


落胆する大悟…
そしてそこには、心配そうな顔で大悟を見ている志保がいた。


(大悟…だから言ったじゃない…

いい加減目を覚ましなさいって…)


実は志保は、妹がだいぶ前にジョーカーのリーダーの手によって
殺されていたことは知っていた。

何度、大悟本人に言おうとしたことか…


“あの時”の電話でも、大悟に真実を話そうとした…

けど言えなかった…


そのことを知らされた時、大悟がどんな気持ちになることか…

どんな思いをすることか…
それを想像するだけでも怖かった。


だから大悟に言うことは、とてもじゃないけれど、志保にはできなかった。



しかし、今、レトインが真実をつげた。
いつかは知ることになる恐ろしい真実を…

たった今、大悟は突きつけられた。


「………」


黙り込む大悟に、かける言葉が見つからない…
そんな中、大悟が突然、狂ったように笑い出した。


「はっはっはっは…はっはっはっは…

そうか…やっぱりそうだったか…」


「やっぱり…?」


「そんな気はしていた…妹は殺されているんじゃないかって…

そんな気はしてたんだ…あいつは…
“ジン”はそんなこと、しでかしてもおかしくない奴だ」


「ジンって…?誰のことだ…?」


聞いたことのない名前に戸惑う善。
それに対して志保は言う。


「そうね…
あんたジョーカーを壊滅に追い込もうとしてるんでしょ?

だったら覚えといた方がいいわ…


“二階堂 仁”


ジョーカーのリーダー。あんたが倒さなきゃならない相手よ」


「!!!
二階堂…ジン…」


「ジン…くそっ…くそがっ!!
ふざけやがって…許さねぇ…絶対にあいつだけは許さねぇ!!」



ジョーカーのリーダー・ジン



大悟は許せなかった…自分がジョーカーの一員で居続ける限り

妹には手を出さないと約束したにも関わらず


ジンは妹を殺した。
その約束を守らなかったジンが許せなかった。

しかし…
約束を守れなかったのはジンだけではなかった。



『大悟…約束よ…これだけは約束してよね…』



(ごめん…ねぇちゃん…俺…俺…)


地面にひざまずき、うつむく大悟。大悟の目からは涙がこぼれ落ちた。

俺はジンを許さない…
でも、今はジン以上に…


何より自分が許せなかった。





第14話 "突きつけられた真実" 完
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