3BECAUSE 第13話
「はぁ…はぁ…どこだ…?どこにいる…?善」


レトインは善の下へと、駆けつけていた。


(この辺りだと思うんだが…どこだ…?
すっかり遅くなってしまった…)


買い出しに行ったレトインであったが、見慣れない地であったため、
随分と時間がかかってしまったようだ。

善は今、ジョーカー・大悟の襲撃にあい、絶体絶命のピンチを迎えている。


レトインの力が必要だ。急いで善の下へと向かわなければならない。


「ん…?あれは…?」


そんな急いで走っているレトインが、“何か”を見つけた。






3BECAUSE

第13話
 「メンタル」





「くそっ…力が出ねぇ…リミテッドの力が出ねぇぞ…?」


「限界を迎えたんだよ。橘善。

“メンタル”も計算に入れず戦ってきたんだ。無理もない」


「メンタル…?

何なんだよ…メンタルって…?」


善の右手にある、イフリート・ソードが

みるみるうちに小さくなって、力を失っていく。


「お、おい!どーなっちまってんだよ!なんで力が出ねぇんだよ!!」


「あまりにも惨めだな…橘善…

いいだろう。冥土のみやげにはちょうどいい。

“メンタル”とは何なのか…
教えてやろう」


「!!!」


「そもそも…リミテッドの力は、無限だと思うか…?」


「!!……違うのか…?」


「そーいったわけではない。リミテッドの力にも、限りがある」


「限り!?限度があったのか!?」


「当たり前だ。無限なわけがあるまい…

その限度は人それぞれだ。多くの力を使えるやつもいれば、
少ししか力を使えないやつもいる。

そのリミテッドの力を使える、限られた量のことを、俺たちは“メンタル”と呼んでいる」


(つまり…あの名作・ドラクワで言う、呪文を使うMPみたいなもんだな!?

リミテッドを使うには、その分の“メンタル”を消費するんだ…
今の俺の状態は、ドラクワで言う

『MPが足りない』

状態ってわけか!!)


こんな時にゲームのことを考えてるとは…のんきなやつだ…



「メンタルは例えるなら、スタミナみたいなもの。
個人によって量は様々で、少なくなればなるほど、体は苦しくなってくる…」


(フッ…例え勝負なら、俺のドラクワの勝ちだな。
俺の方が分かりやすい)


「そして、それだけではない。
なぜ俺たちが“メンタル”と呼んでいるか…

そこには最大の理由がある」


「最大の理由だって…?」


「実はリミテッドとは、人の精神や感情といったものに、大きく作用するのだ」


「精神や感情!?どーいうことだ!?」


「もしおまえが怒り狂った状態で、リミテッドの力を発した場合…

リミテッドの力はより強力となり、そしてメンタルも大きく消費する。

それだけではない。おまえが俺との戦いで、焦れば焦るほど…
精神を乱せば乱すほど、メンタルは、より消費されていく!!」


「なんだって!!!」


「メンタルを使いすぎたくなければ、いかに冷静でいること。
平常心を保ち続けることが、一番大事なんだよ」


(なっ、なんてことだ…俺が追い込まれれば追い込まれるほど、
リミテッドの力は出せなくなる…

て、てか、今焦ってどーする!?これじゃ余計にメンタルを失ってくだけじゃねぇか!!
なんという悪循環…)


「どうだ!?聞いて焦ってるか…?はっはっは!」


(チッ!!どうも親切にメンタルのこと教えてくれると思ったら…

俺の動揺を誘って、メンタルを余計に消費させることが狙いだったのか…)


「分かるか?橘善。
メンタルを失ったおまえの、この危機的状況が!?」


「う、うるせーー!!」



この大悟との戦いは、ほとんど連戦に近い。

志保との対決を終え、少し睡眠をとり、驚くほどの回復力を見せた善であったが…


それでも体は十分に回復したとは言えなかった。


体力・メンタルを消耗した善に、即座に刺客を送り込むジョーカーの作戦は…

見事成功した。



「まだだ…まだ力は残ってる!!俺の火は消えちゃいねぇ!!」


「はっ!そんなちんけな火の力で何ができる!?

俺の力のまえでは、そんなかすかな力は無力だ」


「黙れ!!やってみなきゃ分かんねぇーよ!!」


無謀にも善は、ものすごく小さくなったイフリート・ソードで、大悟の大剣に挑んだ。


「………

そーいうのは勇気とは言わない。単なるバカって言うんだよ!!」


大悟に飛びかかった善。イフリート・ソードは、今にも消えかかりそうだった。

そして…
大悟の懐に入り込もうとした瞬間…



イフリート・ソードの炎が、完全に消えた。


(ま、まずい!!!)


それに気付いた善が、ギリギリの所で、瞬時に後ろへと下がった。


それに対し、待ちかまえていた大悟が、善に強力な一撃を

土の力の大剣を、善にむかって振り切った。


「ぐはっ!!!」


大悟の懐近くまで入り込んでいたため、そこから後ろへ退いたところで間に合うわけがなく…

大悟の攻撃は善に入り、善の体に大きな傷が刻まれた。


「ぐっ…いてっ…痛てぇ!!」


「だが正解だぞ、橘善。

武器を失ったおまえが、あのまま俺に突っ込んできてたら…
今頃おまえの体は真っ二つになっていたかもな」


善の体に、ゾクッと寒気が走る。


(あ、あぶ、危ねぇ!!)


「もうあきらめろ。橘善。
今のおまえに何ができる?」


「あきらめろだ…?あきらめたら助けてくれんのか?」


「あきらめろとは…潔く死ねって意味だ」


「ばか言え!!そんなん誰が!!
それに…

俺は死んでもあきらめたなんて言わねぇよ!!」


「………

救いようがないくらいのバカだな。おまえは」


(しかし…マジでどーする…?
とうとうリミテッドの力は出なくなっちまった…

まさか素手で戦うか!?それこそ勝ち目なんて…

そうだ!!)

「いいこと考えたぜ…」


「……?」


「うりゃ!!くらえ!!」


善は地面の砂を、めいいっぱい掴んで、大悟の目をめがけて投げつけた。


「愚かな…
“グランド・リミテッド”のこの俺に、目潰しとは…効くわけがあるまい」


「まだまだ!!ファイヤー!!」


今度は善は、手からリミテッドの力を放った。


「!!!
剣を作り出すことはできなくなっても、火の力を出すことはまだできたか!!

だが、これも効かないことはさっきも証明したはずだ!!」


大悟は地面へ拳を叩きつけた。
すると、地面から土の力が立ち上がり

善の弱い火の力は完全にかき消された。


(よっしゃ!!もらった!!)


善は大悟が火の力に気を取られているうちに

瞬時に大悟の背後へと回り込んだ。


そして…
目潰しの砂を取る時に、いつかの“罠”を作ったときに使用した

“ヒモ”をもう片方の手に善は掴んでおり…


大悟の首へとヒモを、ぐるぐると巻きつけ、一気に縛った。


「全部ヒモは燃やしちまってたかと思ってたけど…
まだ一本残ってたんだな!

殺しやしねぇ。ちょっとばかし気を失ってもらうだけ…


!!!」


善は大悟の顔をチラッと見た。
すると、大悟は全く苦しんでいる姿はなく…

平然とした表情で、善のことを見ていた。


「そんな柔な攻撃が、俺に効くとでも思ったか…?」


(な、なんだこいつビクともしねぇ!!
なんなんだ!こいつの首の太さは!!)


善の攻撃は、大悟に絶好のスキを与えているだけにすぎなかった。

そして…



「終わりだ。橘善」



大悟の大剣の攻撃が、善の体に完全に入った。

さっきの浅く入った攻撃とは違い、完全にとらえた。


ドサッ……


善の体は無情にも、静かに地面へと落ちた。


「終わったな…」


善はピクリとも動く様子はない。


「よし、リーダーに連絡を入れるとしよう」


大悟がポケットから携帯を手にし、連絡を入れようとした瞬間…

その瞬間、大悟の目に、何かが映った。



「な…なぜだ…なぜなんだ!!!」


目の前には、血だらけになりながら、かろうじて立っている善の姿があった。


「な…なにがだよ…?なにかおかしいことでもあったか…?」


「お、おまえだよ!!なぜ立っていられる!!
おまえは今完全にやられたはず…」


完全に終わったと思った。大悟は勝利を確信した。

しかし、大悟の予想を遥かに越え、善はまた立ち上がった。


「勝手に決めんなよ…
言っただろ…?死んでもあきらめねぇって…」


「ありえない…何なんだ!おまえのしぶとさは!!
何がおまえをこうまでさせる!?」


「約束したから…」


「約束…?」


「あぁ…レトインと…約束したから…」



『なぁレトイン…これだけは俺と約束してくれないか?』


『約束…?』


『あぁ…
目の前にいるやつが、例えどんなやつでも…例えどんなに悪いやつであろうとも…


俺はそいつを殺さねぇ』


『!!!』


『助けられる命は必ず救う。自分の身に危険が及んでもな。
俺の目の前で、死人なんてもんは絶対出させねぇ!!』


『善……』


『目の前の人を助けるのは、決して無駄なことなんかじゃない。

だからレトイン…今言ったこと…
これだけは約束してくれないか?』


『………


分かった』



「約束したから…レトインと…

目の前に死人ださねぇなんてかっこつけといて、自分が死んじまったらざまぁねぇや…」


「約束…だって…?」


「だから死ぬわけにはいかねぇんだよ…死んでたまるかよ…」


(そのレトインとやらとの約束のために…こいつはここまで…)

ここまでの力が出せるのか…)



『大悟…約束よ…これだけは約束してよね…』



(い、いかん!!こんな時に俺は何を思い出しているんだ!!
集中しろ…目の前の敵に集中しろ!!)

「橘善…敵ながら尊敬するぜ。
仲間との約束のために、ここまでできるとはな…

だが、悪いが俺にも“事情”があってな…」


「事情……?」


「今度こそ…本当に終わりだ…

死ね!!善!!」


大悟が善に大剣で、トドメの一撃をさしにいった。


(ダメだ…マジで…マジで終わる…)


あきらめの悪い善が、とうとうあきらめた。
自分の死を覚悟した。



しかし!!
その時、善の背後から“何か”が飛んできた。



「アクア・ウィップ」



そして、大剣を弾き返し、善を大悟の攻撃から守った。


「えっ…!?こ、この技は…」


善が後ろを振り返ると、そこには“あいつ”がいた。


「まさか今、あきらめてたんじゃないでしょうね?橘善」


「し、志保!!!」


それともう一人…


「遅くなったな。善」


「レトイン!!なんでおまえら二人がいっしょに!?」


「志保だと…?ど、どーいうことだ!?」


「善…話はあとだ。いいから今は戦いに集中しろ。

まさか本当にあきらめてたわけじゃあるまいな?」


一度は本当に死を覚悟し、あきらめた善であったが…

レトインの問いに対し、善は笑った。


「へっ!バカ言え…

あきらめるわけがねぇだろ。こっからが勝負だぜ!!」


善の反撃が、今、始まる。






第13話 "メンタル" 完
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