3BECAUSE 第12話
夜の世界は闇の世界。


闇の世界は“ジョーカー”の世界。


善は忍び寄る影をまえにして、眠りについていた。


「バカだねぇ~…ぐっすり眠ってやがる…
夢でも見てんのか?こりゃきっと悪夢だろうなぁ…


じゃあな。橘善」


謎の人物は、ポケットからナイフを取り出した。

そして…
善の心臓めがけて、一気に突き刺しにかかった



が、そんな簡単に善がやられるわけがなかった。


「き…貴様…」


「何者だ…てめぇは!?ジョーカーか!?」


ナイフの先には、真っ赤な炎で創られたイフリート・ソードが。

善は見事に謎の人物の闇討ちを防いでいた。


「寝てるフリをしていたって言うのか…?
いや、完全に寝ていたはず!!」


「そうだな。目が覚めたのは、ほんの数秒前だ」


「なぜ気づいた…?なぜ俺の存在に気づいたんだ!?」


「はっ!俺を闇討ちしようなんて10年早ぇんだよ!!

(まっ、これもレトインのおかげなんだけどな)」





3BECAUSE

第12話
 「善VSジョーカー・大悟」





数時間前。レトインが善のもとを離れる前の出来事。


『レトイン…メシを…メシをなんとかしてくれ!!
山菜じゃあ腹の足しにならん!!肉を…肉をくれ~』


『わ、分かったよ!!俺が何か買ってきてやる。だからおまえはここでおとなしくしてろ』


『えっ!?俺もいっしょに行くよ!!』


『何度同じ事を言わせるつもりだ。
おまえには危険が伴うんだぞ!?おまえはここでじっとしてろ。それに…

今のおまえに、そんな体を動かす体力なんて残ってないだろ…?』


『………』


『フン…おまえがじっとしていられるか不安だな…』


『なっ、なんだよ!?』


レトインはそう言うと、少し離れた場所から、少し長めの“ヒモ”を運んできた。


『ヒモ…?そんなもん、どこで手に入れたんだよ!?』


『宅急便のトラックにいたときだ。何かに使えるかと、数本くすねといたんだ』


『い、いつの間に…』



レトインは黙って善の体をヒモでグルグルと巻きつけ始めた。


『おい!何すんだよ!!俺が体痛くて動けないことをいいことに!!』


善の体に巻きつけたあと、今度は近くの木に巻きつけた。


『おまえを拘束しようと思ってな。動けないようにな』


『もともと動けない上に、何しやがるレトイン!!』


『と、言うのは冗談だ。

罠を張ろうと思ってな』


『えっ…罠…?』


木にヒモを巻き付けたあとは、その木の周りにある別の木にもヒモを巻き付け

善がいる場所にある木を中心に、ヒモを張り巡らせた。


『これが…罠だって!?』


足下付近の高さに、ヒモがピンと強く張ってある。


『誰がこんな罠に引っかかるって言うんだよ。
足に引っかかって、転ぶバカがいるって言うのか?』


『確かに“今の状態”じゃあ、こんな罠バレバレだろうな』


『……?今の状態…?』


『これが“夜”になったらどうだ?

おまえがさっき言ってたように、これじゃ夜は辺り一面真っ暗だ。
足下のヒモなど気づきもしないだろう』


『そうかもしれねぇけどよ…こんなんで相手を転ばせるってのか?
随分子供だましな手だな…』


『そーいう目的ではない。
ジョーカーに狙われた時に、一番怖いのは…

寝込みを襲われたときだ。そいつを心配してたら、寝る暇なんてない。
ジョーカーはそんなことを平気でしてくる、あくどい連中だ』


『なるほどね…これだけヒモをピンと張って、俺の体に結びつけとけば

何者かがひっかかったときに、寝てる俺も気付くってわけね!
しかし…そんなにうまく行くもんかね…?』


『さぁな。やらないよりはマシだ。

“闇”をフィールドするジョーカーが、自らを“闇”が苦しめるんだ』


『けっ!あんたの考えそうなことだ…
あんたのがよっぽど、あくどいぜ!!』


『誉め言葉として受け取っとくぞ。

俺は今から行ってくるから、そこでおとなしくしてるんだぞ?』


『分かったよ…てかこれじゃ動きたくても動けねぇし!!

こんな縛られたままの状態は勘弁だ。早く帰ってきてくれよ』


『あぁ。なるべく早く戻る』



「わ、罠だと!?どこにそんなものが…」


「気づかなかったか?何度も引っかかってたぜ。

さすがに寝起きの悪い俺も、おかげで目が覚めた」


いくらジョーカーの一員と言えど、これから目の前の人を殺すとなると

普通の精神状態ではいられるわけがなかった。


普段なら、歩くと足に引っかかるヒモの存在に気づくことはわけないが

平常心を保てない、今の状態では、罠のヒモの存在に気づくことはできなかった。


(やるなレトイン。こんなにうまく行くとは思ってなかったぜ)


善は自分に絡みついていたヒモを投げ捨て、軽くジャンプしてみせた。


「とう!!」


罠にはめて、してやったり!!

と、勝ち誇った気分で、善はかっこつけて少しジャンプして見せた


のだが…
目の前には罠のヒモがピンと張ってあり、それに気づかなかった善は…


「どわーーっ!!」


ジャンプしたと同時に善の足に引っかかり、善は顔面から地面へと落ちた。


「ぐっ…くっ…

だ、誰じゃーーっ!!こんなとこに罠を仕掛けたやつは!!」


(いや、おまえだろ…
こいつ正真正銘のバカだ…)


善は二度とこんな恥ずかしい目にあうことがないように

仕掛けてあった全部のヒモを“火の力”で燃やした。


「はぁ…はぁ…くそっ!やるじゃねぇかおまえ!」


(いや、俺何もしてねぇし!!)


「しかし闇討ちとは…あんたには男としてのプライドもねぇのか!?」


「俺は任務を遂行するためには手段を選ばない。

楽におまえを倒せるとこだったんだがな…」


「そんな簡単に死んでたまるかよ」


ジョーカー・大悟は手にしていたナイフをポイッと捨てた。


「……?」


「まぁいいか…おまえを殺すのに、ちょっと手間が増えただけだ…」


「いいのか?大事な武器を捨てちゃってよ!?」


善は余裕ぶった表情で言って見せた。


「いらねぇよ…こんなもん…

俺には…
“この力”があるからな」


そう大悟が言うと、目の前から土煙が立ち上がった。

そして、善の視界から大悟が消えた。


「なっ、なんだ!?どこに行きやがった!?」



「ここだよ」



大悟はいつの間にか、善の背後へと回り込んでいた。


「!!!」


善はすぐに後ろを振り返り、数歩後ろへと下がった。


「貴様も剣を使うんだな」


「何だって…?」


大悟はリミテッドの力を溜め出した。

そして善のイフリート・ソードよりも、はるかに大きな剣の形を創り出した。


「で、でけぇ…大剣ってやつか!?
それに…この力は…」


「“グランド・リミテッド”


“土”の力だ」


「土の力だと…?」


大悟は勢いよく、大剣を善に向かって振り切った。


キン!!!


金属音と似たような、周波数の高い音が響き渡った。
大悟の大剣の攻撃を、善の剣でなんとか受け止めていた。


「おもしれぇな。火の剣と土の剣なのに…

ぶつかると本物の剣みてぇな音するんだな」


「確かに構造は火であり土であるが…
それ以前にリミテッドで創られたものは“力”

力と力の衝突だ。
リミテッドの力は実に不思議なもんだ…

剣の形を創り出せば、まるで本物の剣のように、切れ味まで生み出すことができるんだからな」


「そうだな…ただの土の塊と考えてたら、痛い目にあいそうだ!

(それにしてもこいつ…あの剣の大きさで、あの太刀筋…

剣を振る速度はとんでもなく速かった…
土の力だ…重量は間違いなく俺の剣よりあるんだろうな…

なんて腕力の持ち主なんだ!!)」


「それにしてもよく俺の剣を受け止められたもんだな」


「へっ!たいしたことねぇぜ」


「それは心外だ」


大悟はまた大剣で善に攻撃をしかけた。
そして善はまたもやその攻撃を自分の剣で防いだ。


(ぐっ…なんて重さだ…でかいだけあって、破壊力も十分だ)


「おかしいな…?」


大悟が突然言い出した。


「何がだ…?」


「もう一人いるはずなんだがな。
おまえとは別の男が…」


(レトインのことか…)

「誰のことだ?俺はずっと一人だぜ」


「つまらん嘘はやめろ。おまえの他に仲間がもう一人いることはバレている。

隠しても無駄だ。志保はそいつがいたせいで、心を乱しておまえに負けたと聞く」


「………

けっ!バレちゃあ仕方ねぇ!!
今そいつは出かけててな。残念ながらここにはいないんだよ。

(それにしても…なんでそんなことまで、こいつは知ってんだよ…?)」


「何かとそいつの存在は厄介みたいだからな。
そいつが帰ってくる前に、さっさと終わらすとしよう…」


「終わらねぇよ!!」


攻撃を受け続けていた、善が攻撃を仕掛けた。


「うりゃ!!」


もの凄いスピードで大悟の懐へかけこみ

1、2、3、4…
4回連続攻撃をかましてみせた。



しかし…
その攻撃も、全部大悟に受け止められてしまった。


(くっ…くそ…やはり剣の腕はこいつのが上なのか…?
ど、どうすりゃいいんだ…)


「こんなもんか。おまえの腕は。
こんなやつに志保がやられたかと思うと、なんだかがっかりだ」


「う、うるせーー!!

(こうなりゃリミテッドの力で勝負!!くらいやがれ!!)

ファイヤー!!」


善は左手を大悟の方に向け、火の力を放った。

しかし…


「無駄だ」


大悟は地面に向かって拳を叩きつけた。

すると、たちまち土の力が地面から立ち上がり

火の力は立ち上がった土の力にすべてかき消された。


(くそっ!!剣の腕はおろか、リミテッドの力でもあいつには及ばないってか!?

どうすれば…どうすればいい…
レトインは何やってんだ…?早く帰ってきてくれ…

あいつは頭がいいからな。こんな時にレトインがいれば
何かいい策が見つかるかもしれねぇのに…


てかそれより…なんかおかしい…なんか体がおかしいぞ…?

体が妙に疲れてるってゆーか…どんどん苦しくなってくる…)


「……!!」


善の異変に、すぐさま大悟が気づいた。


「はぁ…はぁ…なんだ…これ…」


みるみるうちに、善の武器、イフリート・ソードが小さくなっていく。力を失っていく。


「力が出ねぇ…リミテッドの力が出ねぇ…」


「そろそろ限界が来たようだな…橘善。

“メンタル”も計算に入れず戦ってきたんだ。無理もない」


「メンタル…?

(そーいや志保もそんなこと言ってやがったな…

何なんだよ…メンタルって…?
教えろよ…助けてくれよ…

早く来てくれよ!レトイン!!)





第12話 "善VSジョーカー・大悟" 完
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