3BECAUSE 第11話
善は見事、ジョーカーの刺客・水野志保を倒し、つかの間の休息を味わっていた。


「あぁ~…ただでさえ眠いのによぉ~…

志保との戦いで、すげぇ疲れちったよ…
なんかすげぇだるいんだよな…」


「無理もない。まだおまえの体はリミテッドの力に慣れてない」


「重い…体が重い…うまく体が動かせねぇ…」


「しかし、そこは道のど真ん中だ。
邪魔になる。早くこっちに来い」


善は車道のど真ん中に座り込んでいた。


「マジかよ…いてててて…」


重たい体を動かし、なんとか立ち上がって歩き出した。


「もしさぁ…今ジョーカーが襲ってきたら…
確実に俺、終わるよな?」


「………


そうかもな。来ないことを願っとけ」


「けっ…神頼みかよ!」



同時刻。とある場所にて。



「リーダー!ご報告が!」


「ん…!?
どうした?“大悟”」


「それが…志保が…

橘善にやられました!!」


「………
そうか…予想以上の強さみたいだな。

しかし…おかしいな…
まだ志保の気が残ってる…」


「それが…負けた志保を橘善は生かしたようで…」


「………
志保じゃ役不足だったようだな…

大悟。おまえが行け。おまえの力で橘善をねじ伏せてこい」


「はい。おまかせを」


ジョーカーのリーダーは、自分の左手の甲を見つめ出した。


「リーダー…そ、それは一体!?」


「うずく…俺の左手がうずいてやがる…」



リーダーの左手には、善と同じ謎のマークが光り輝いていた。


「やるじゃないか…橘善!なかなか楽しませてくれる!」


リーダーは不適な笑みを浮かべながら、大悟に言った。


「出てくる芽はな…早めに摘むんでおかなければならない。
そいつが花咲かす前にな。分かるか?大悟?」


「えぇ…分かっております」


「しかし、やつは相当しぶといやつと見た。
そーいうやつは、根っこごと引き抜く必要がある。

芽を摘んだぐらいじゃ、またすぐに新たな芽を出す…

橘善を根絶やしにしろ。完膚なきまでに叩きのめしてこい」


「おおせのままに」


「あぁ…それともう一つ…
ゴミ掃除をお願いしなきゃな」


「ゴミですか…?」


「あぁ。必要ないものはゴミだ。捨てないとな…



志保を抹殺してこい」


「………
はい。分かりました」



志保が善にやられることは、ジョーカーの計算の内に入っていた。


ジョーカーの真の狙いは、間髪入れずに、次の刺客を送り込み

志保との戦いで体力を消耗した善を楽に倒すためだった。



善たちの思い描いた嫌な“予感”は…

見事なほどに、的中した。





3BECAUSE

第11話
 「夜の世界」





ジョーカーから新たな刺客が送り込まれていることなど、全く知るわけもない善達。


「あぁ~…失敗だったなぁ~…あれ絶対いけたよなぁ~…」


気の抜けた善の独り言に、レトインが問いかける。


「絶対いけた…?何の話だ?」


「あぁ…ほら志保だよ」


「志保…?志保がどうした?」


「おまえも見てただろ?最後、絶対俺らいい感じだったよな!?

あそこでもっと押せば、確実に志保をゲッキューできたはず!!」


「………
(そんな話か…)」


「ゲッキュー…ん?何か違うな…ゲッツーだっけ?

いや、ゲッツーは6-4-3だろ。
ゲップーだっけ…?

いや、ゲップは生理現象。違げぇだろ。あらっ…?じゃあなんだっけ?

なぁ、レトイン!なんだっけ!?」



ゴン!!!



鈍い音が聞こえた。レトインが無言で善の頭に、げんこつをかました。


「そんなもん、なんだっていい」


「痛ってぇなぁ!!何すんだよ!!
目から火出たぞ!?火花散った!!」


「フン…おまえは元から火は出るだろ」


「本当にいてぇなぁ…いきなし殴るんだもんな…

ちぇっ。こんなんなら英語の判田の授業ちゃんと聞いとけばよかったぜ」
↑きっと授業ではそんな言葉は学ばない


(さっきまで死にそうになってたやつが、何言ってんだか…
こいつが本当にジョーカーを倒すような男に思えなくなってきた…)


「レトイン…腹減ったよ~…何か食いもんくれよ~」


「フン。そこらへんに食いもんはあるだろ」


「そこらへんに!?どこにだよ!?」


「おまえの目の前にある、山菜だ」


「山菜…?」


善達がいた場所は、辺り一面草木が生い茂っていた。
人の手が施された場所などは見当たらない。


「てか…どこだよ…ここは!?」


「さぁな。ここまでトラックに運ばれてきたしな…
まぁ、おまえが前住んでた場所からそこまでは離れてないだろう」


「志保と戦ったとこからは、けっこう歩いてきたけど…

こんなとこ、誰も足を踏み入れないんだろうな。街灯すら見当たらない」


「だからいいんじゃないか」


「えっ…?だからいいって…?」


「しばらくはここを拠点に生活するぞ。
ここなら誰も人は来ないだろうからな」


「えーーっ!!!なんだって!!??
ここで暮らす!?まさか野宿…?」


「そうだ。仕方あるまい」


「ふざけんなーー!!嫌だぞそんなの!!
たいしたメシもなけれや、風呂も入れないじゃないか!!」


「風呂って…女子かおまえは。

わがままを言うな。
もしジョーカーが襲ってきても、恐らくここなら無関係な人物を巻き込むことはない。

ジョーカーを迎え撃つなら格好の場所だ」


「だからって、ずっとここで生活ってのは…」


「別に俺は構わないんだ…問題はおまえなんだ」


「……?俺!?」


「以前も話したが、リミテッドは常にリミテッドの力を放っている。

その力を遮断できないおまえがいる限り、ジョーカーの連中はおまえの居場所が分かるんだぞ!?

俺は別に自由に行動できるんだ。
それなのに俺はおまえに付き合ってあげてるって言うのに…」


「けどよ~…こんな何もないところじゃさぁ…

灯りすらない…夜は寒そうだし、真っ暗だなこりゃ」


「その件に至っては大丈夫だ。

夜になっても、電球にストーブがあるからな。
その問題は解決だ」


「電球にストーブだぁ!?そんなもん一体どこに…」


そう言いながら、レトインの顔を見ると

見たことないほどの満面の笑みで、レトインは善のことを見ていた。


「ま、まさか…電球にストーブって“俺”のことか!?
俺の“火”の力を使って…

なんて力の無駄遣い!!鬼かおまえは!!」


「はっはっは!まぁいいじゃないか」


「この野郎…リミテッドの力を“おまえこそ”いいように利用してやがる…」


「なんとでも言うがいい!」


「けっ!しょーがねぇなぁ!分かったよ!俺がなんとかするよ!
けどよぉ…

メシは…メシだけはなんとかしてくれ!!
山菜じゃあ腹の足しにならん!!肉を…肉をくれ~」


必死にレトインにしがみつく善。
正直みっともない。見苦しい光景だ。


「わ、分かったよ!!俺が何か買ってきてやる。だからおまえはここでおとなしくしてろ」


「えっ!?俺もいっしょに行くよ!!
レトインじゃ俺の食い物の好み分からなそうだし…」


「何度同じ事を言わせるつもりだ。
おまえには危険が伴うんだぞ!?おまえはここでじっとしてろ。それに…

今のおまえに、そんな体を動かす体力なんて残ってないだろ…?」


「………」


レトインに言われた通りだった。
善の体は、志保との戦いで相当疲れていた。

動くことすらままならないほどだった。


「分かったよ…早く帰ってきてくれよ」


「あぁ。なるべく早く戻る」


そう言って、レトインは善のもとを離れていった。


「あっ!!」


その時、善が何かに気づいた。


「そーいや、レトインって…


あんな風に笑うこともあるんだなぁ…
ちゃんと赤い血の流れた、まともな人間だったのか」


素朴な疑問であった。


そんな変なことを考えたあと、一人になった善は

退屈になったのか、木に寄りかかり眠りにつこうとした。


すると、時刻はまだ昼まえだったが、体が疲れていたため、驚くほど早く寝てしまった。



今の善が、気づくわけがなかった。自分に近づいてくる“闇”の存在に…


刻々と迫ってくる。すべてが闇を覆い尽くす、夜の世界が。

日も暮れて、太陽は沈む。
善はまだ眠っている。よっぽど体は疲れていたようだ。


そして、とうとう訪れた…夜の世界が。


善が眠る場所は、辺り一面真っ暗…
唯一の明かりは月の光のみ。

月の明かりが、善の寝顔を映す。


その明かりを奪うように、善の顔一面に“影”が覆い尽くした。


「バカだねぇ~…ぐっすり眠ってやがる」


夜の世界は闇の世界。


闇の世界は“ジョーカー”の世界。


「夢でも見てんのか?こりゃきっと悪夢だろうなぁ…


じゃあな。橘善」


覆い尽くした影は、月の明かりをすべて奪い去り

唯一の“光”は“闇”に包み込まれ…


消えた。





第11話 "夜の世界" 完
第10話へ
STORYトップに戻る
第12話へ