3BECAUSE 第9話
苦しい…助けて…
息が…息ができない…苦しいよ…

助けて…助けてよ…
お父さん!!



私がいけないんだ。お父さんの言うことを聞かないから。

危ないからやめろと言われたのに…


だからバチが当たったのかもしれない。
私が悪い子だから…だから…



お父さんは死んでしまったんだ…





3BECAUSE

第9話
 「志保」





小学校低学年の時。お父さんと2人でキャンプに行った。

大きな川を目の前に、テントを張っていた。


私はお父さんの忠告を守らず、お父さんの目を盗んで

1人で川の中に入って遊んでいた。


そして…
案の定、私は川で溺れた。

流れの速い川で、当然私はうまく泳げるわけもなく…
溺れながら流されていった…


私は助けを呼んだ。
お父さんのことを、お父さんの名前を必死に叫んだ…



私が覚えているのはここまで。
私が意識を取り戻した頃には、私は河原の上にいた。

どうやらここで寝ていた用だった。


隣にはお父さんが横たわっていたけど…

何度、大きな声で叫んでも…
体をゆすって起こそうとしても…


お父さんは全く動くことはなかったのを、今でもよく覚えている…



でも、本当はあの時死んだのは私の方で…

私が“リミテッド”だと知ったのは、だいぶ後になってのことだった…



(このレトインとか言う男…
なんで私の過去について、こんな知ってるのよ!?)


戸惑いを隠せない志保…

だが、善も志保がジョーカーに入った理由を聞いて、
とてつもないショックを受けていた。


「おいおい。レトインを攻撃するなんて…相手は俺だろ!?

試合放棄か!?俺との試合はまだ終わってないぜ」


しかし、それでも善は強がってみせた。

本当は辛いのに、弱いとこなんて見せず、すぐ強がる。
善の悪いところである。



が、その強がりは善の良いところでもあった。

今、この場で心が折れている場合じゃない。


強力な武器を手に入れ、かなり優位になったと言える善だが

命をかけた戦いは、善は今日が初めて。


確実に場数をふんでるであろう志保の方が

それでもまだ、かなり優勢であるに違いなかった。


ただでさえずっと不利な立場で戦わねばならぬ善にとって

気持ちまで、心まで折れたら…



気持ちで負けたら…
終わる。



善はそのことを、本能ながらにして、分かっていた。



「なにが試合よ…ふざけるのもいい加減にして!!
これは試合なんて優しいもんじゃないわ。あなたは今から死ぬのよ?」


「はっ!どうだかな!

さっきから俺、ずっとやられっぱなしだったなぁ…
今度は俺から行くぜ?」


今まで防戦一方であった善が、自ら攻撃をしかけた。


善は志保と話を終えるやいなや、もの凄いスピードで走り出し

あっという間に、志保の懐まで入り込んだ。


「!!!
(は、速い!!)」


すぐさま善は、志保の体めがけて斬りかかった。


(もらった!!)


しかし、リミテッドの戦いに関して、決して素人ではない志保。

そんなに甘くはなかった。


志保が右手に持っていたアクア・ウィップの形が瞬時に変形し

ムチの形は崩れて、一気に膨張し、志保の背丈と同じぐらいの高さまでになった。


志保の体を捉えたかと思ったが、感触は妙に鈍く

高さだけでなく、厚みまで増していた志保が作りり出した

“壁”のような水の力で善の攻撃は防がれていた。


善の火の剣は、その水の壁の、半分ぐらいまでいったところでめり込んでいた。


「急に形が!?」


「驚いた?水に特定の形はないわ。
変幻自在よ」


「はっ!だったら…

それは“こいつ”も同じだぜ!!」


善がそう言うと、善の武器、イフリート・ソードは燃え上がり

志保の武器と同じように、巨大化した。


そして、めり込んでいた部分から、壁は火の熱によって

みるみるうちに溶けていき、壁のような水は消えた。


「今度こそ…もらった!!」


善は志保に向かって一気に剣を振り下ろした。


だが、善の攻撃を読んでいたのか

見事なまでのバックステップで、志保はひらりと善の攻撃を回避した。


「へっ!ギリギリじゃねぇか」


「どこが…ギリギリなのはどっちよ?」


「はぁ…はぁ…」


善も薄々と気付いていた。
自分の身体が肉体的にと言うより、精神的に限界を迎えているのを。


ギリギリだったのは自分の方だった。


「“メンタル”も考えずに戦ってるものね…無理もないわ」


「メンタル…?
(なんだそりゃ…?)

何のことだかさっぱりだが、あんたさっきより動きに“キレ”がなくなってんじゃねぇか?

やっぱ俺やレトインが言ってたことが図星で、こたえたか?」


「なにを!!だから違うって言ってるでしょ!?

私は自分のやりたいことをやってる。
自分の意志でジョーカーの一員となってる!」


「だったら…それだったらもっと…
あんたの目は…」


善は力を振り絞りながら、剣を振り下ろした

が、またもや志保の水の壁によって防がれた。


「輝いてるはずだ」


「!!!」


剣と壁がぶつかり合い、至近距離の中、志保は善と目が合った。

善の息づかいは荒れている。限界が近づいてきている。
しかし、それでも善の目は…



“本気”だった。



(これが…追いつめられている男の目なの!?
あんたに勝ち目なんてないのよ…?

なのに、なんであんたはあきらめようとしないの…?
なぜそんなにまだ、勝機に満ち溢れたような目をしていれらるのよ!?)


「本当にそれがおまえのやりたいことなら、そんな腐った目をしてるはずがねぇ!!」


「うるさい!!黙りなさい!!」


志保はいったん後ろに退いた。
そして力を溜め始めた。


「もう…二度と喋れないようにしてあげる…」


「はぁ…はぁ…
(や…やべぇ…)」


志保が力を溜めている時間は、数秒間あった。
しかし、善は志保に攻撃を仕掛けることはなかった。

いや、できなかったと言うべきか。


(あいつ…もしかして…まともに攻撃する気力すら残ってないんじゃ…?)


「終わりよ。橘善」



「避けろ!!避けるんだ善!!!」


志保が溜めていた水の力を一気に放った。
そして…その攻撃は…



善に直撃した。



「善!!!」


「これで分かったでしょ?最初から勝ち目なんてないのよ」


レトインが走って善のもとへと駆け寄った。


「善!!大丈夫か!?しっかりしろ!!善!!」


その時だった。
レトインの耳に、何かが聞こえた。


「水野志保…志保って…」


何かが聞こえたかと思った次の瞬間、レトインは手を、ぎゅっと強く掴まれた。


そして…やつは…


善は立ち上がった。


「なっ、なんですって!?」


善が小言でブツブツ何かを言っている。
耳を澄まして聞いてみる…


「志保って…志保ってさぁ…」


「……?」


「“志し”を“保つ”で志保か…?」


「そ、そうよ!それが…なんだって言うのよ…」


「そうか…



いい…名前だな」


「!!!」


「俺の名前は“善”

いい名前だろ?親父がつけてくれたんだ。
名前に恥じないような生き方しないとな。おまえもそうしろよ…」


(こんな時に…何を言っているの!?
今の、この状況を分かっていないの!?)


もう立ち上がることはないと思った善が、立ち上がった。
そして突如名前の話をしだした善…

その光景は…志保にはやたら不気味に見えた。


「いい加減…終わりにしよう…決着をつけようか…」


(何言ってんのよ…あんたが、しぶといんでしょ…
攻撃する力なんて残ってないくせに)


志保はまた、力を溜め始めた。
さっきより強力な力をぶつけるつもりだ。


(それにしてもなんなのよこいつ!!偉そうなことばっか言って…

散々言われたけど私だって、私にだってね…)


「はぁ…はぁ…」


『リーダーのやりたいことを、おまえがやっているってことだな?

おまえは決してやりたいことではないのに』


(自分のやりたいことの一つや二つ、あるのよ!?
人のことばかにして!!)


『“志し”を“保つ”で志保か…?
いい…名前だな』


(そりゃ私だって、こんなことやりたくてやってるわけじゃない…
私には…私のやりたいことは…)


『名前に恥じないような生き方しないとな。おまえもそうしろよ…』


(あれっ…?
私のやりたいことって…



何…?
私のやりたいことってなんだっけ…?

なんで私、こんなことしてんだろ…)


『志保』


(えっ…?誰!?
私の名前を呼ぶのは誰!?)


『志保…しっかりしろ!目を覚ませ!』


(目を覚ませって…
その声…

もしかしてお父さん…?)


『志保…志保!!』


(なんでお父さんの声が今聞こえるの…?なんでだろ…

あれっ…?なんで私…


泣いてるんだろ…?)


「うぉぉぉぉっ!!!」


善は最後の力を振り絞って、志保に飛びかかった。


「善!!うかつに飛び込むな!危険だぞ!?」


(俺が…目覚まさしてやるよ!!
あんたの本当にやりたいこと…

一番輝ける自分を…あんたの笑顔を!!
そいつらを邪魔してるジョーカーから…

俺が全部取り返してやる!!)





第9話 "志保" 完
第8話へ
STORYトップに戻る
第10話へ