3BECAUSE 第6話
善は家のまえで、立ち止まっていた。


(おじさん…おばさん…ごめん。
俺…みんなに迷惑かけたくないから…だから行くよ。

探さないでくれよな。
じゃあ…行ってくるよ)


善は心の中でそうつぶやき、おじさんの家をあとにした。





3BECAUSE

第6話
 「たった一つの選択肢」





この先…どうしたらいいか分からない。
自分はどうすればいいのか分からない。

やはり、頼るのはレトインしかいなかった。


(正直なんかあいつは信用できねぇけど…
でも今はあいつに頼るしかねぇ…

あいつ…まだいるかな…)


善は先ほどまでレトインと話していた場所までむかった。

すると…
レトインはまだそこにいた。


「!!
レトイン…まだここにいたのか…」


「来たか…善」


「来たかって…俺を待ってたのか…?」


「そろそろ俺んとこに来るんじゃないかと思ってな。
おまえが今頼れるのは、俺ぐらいしかいない」


「けっ…俺の心ん中、全部見透かされてたってわけかよ…

でももう…そんなことはどうだっていい…レトイン…」


「……?」


「俺はどうしたらいい…?これから先、どうしたら…」


「まえも言ったはずだ。俺の言うとおりにしろ」


「言うとおり…?じゃあ…ジョーカーと戦うしかないのか?
俺は嫌だぜ…そんな危ねぇ組織を、敵に回したくない」


「そう言ってもな…もうその手しか残ってないんだよ」


「逃げることはできないのか!?戦わずに逃げることは!?」


そう言うと、レトインは下を向き、少しの間黙った。

数秒間の沈黙の後、レトインは善に言った。


「善…どうしてだと思う?
なんでジョーカーの連中は…おまえが“リミテッド”だと…
そしておまえの居場所が分かったんだと思う?」


「もしかして…あいつらには分かるのか!?」


「あぁ。分かる。

リミテッドの者は、リミテッドの“力”を感じ取ることができるんだ」


「そうなのか…じゃあ、俺がリミテッドの力を使わなきゃ、
俺の居場所はあいつらには分からねぇんだな!?」


「いや…そーいうわけにもいかない。
リミテッドの者は、無意識のうちに、微量なりのリミテッドの力を自然と放っているんだ。

だからやつらジョーカーは、おまえから放たれるリミテッドの力を感じ取り、
居場所を割り出してくる。
正確な位置までは分からんが、おおよその居場所は割り出せる」


「マジかよ…そいつはどーすることもできねぇのかよ!?」


「方法はある。その無意識に放っているリミテッドでの力を抑えればいいんだ。
完全に遮断する。

しかし、まだ経験の浅いおまえには、それは不可能だ。
よっておまえはジョーカーのやつらに自分の居場所を教えていることになるんだ」


「チッ…だからあいつらから逃げらんないってわけか…」



レトインは善に、そっとあるものを差し出した。

「ん!?これって…地図?」


それはこの地域一帯の地図だった。

地図には赤く印がつけられた部分があった。


「善…今日の深夜3時に、この場所へ来い」


「ここって…市場かなんかか…?
なんでこんなとこに…」


「この市場から出るトラックの荷台に忍び込み、“ここ”から離れる。この地域から去ろう」


「えっ…?でも、ジョーカーからいくら逃げても無駄なんじゃ…
さっきあんたがそれを説明して…」


「ここには…失いたくないやつがいるんだろ?

やつらは何でもする。おまえの大切な人を人質にとったりもな。そうなったら不利だ」


「!!!
そ、そーいうことか!分かった。ここから離れるよ」




レトインには俺の心中は完全に読まれていた。

レトインにはそんなこと全く、におわせた言葉すらを言ってない。


なのに…なんてなやつだ…


『こいつにはかなわねぇ』


そう心の中で思った。



でも…“そーいうわけじゃなかった”

この時は、こんなふうにしか思わなかったけど…

そーいうわけじゃなかったんだ…



この“そーいうわけじゃない”の意味も…

いずれ分かることになる。今の俺は、単に勘違いをしていただけにすぎないってことが…



深夜3時
約束の場所


「ふぁ~ぁ…眠いぜまったく…」


「待たせたな。橘善」


「なんでこんな時間にしたんだよ…」


「“こんな時間だからこそ”だ。

幸いにも、ジョーカーはあれから襲ってこなかった。
ここから離れるなら、今がチャンスだ」


「それもそうだな…
ふぁ~あ…それにしても眠い」


「いいから黙って車に乗れ!!」

ドン!!

「うわっ!!」


レトインは善の背中を押して、無理矢理大型トラックの中へと押し込んだ。


「痛ぇなぁ…

なんだよ…まだこのトラック誰もいねぇじゃん」


「当たり前だ。運転手が来る前に忍びこんだんだ。
こーでもしなきゃ、うまくここを離れられないだろ」


「別に移動するだけなら電車とかでもいいだろ!なんでこんなやり方を…」


「もし電車で移動中にジョーカーが襲ってきたらどうする?
大勢の人が犠牲になるんだぞ!?」


「そうかもしれないけど…」


「このトラックだったら、最低限の犠牲で済む。

数多くの犠牲を出すよりはマシだ」


「!!!
なんだよそりゃ!!このトラックの運転手の命はどうだっていいって言うのかよ!?
そんなの俺は許しはしねぇぞ!!」


「静かにしろ。人が近づいてきたようだ」



レトインは外にいる人に気づかれぬよう、小声で喋り出した。


「おまえはまだ何も分かっていない…

誰も死なないと思うな。何も失わないと思うな。

おまえの考えは甘すぎる」


「………

でもよ…」


言い返すことはできなかった…なぜなら…



“怖かったから”だ。



もしジョーカーが襲ってきたとき、この運転手に危険な目にあったら…

自分の命を投げ出してまで助ける勇気がなかったからだ。


俺にはまだ“覚悟”が足りなかった。

まだ戦う準備なんて、これっぽっちもできてやしなかった。そして…


「てかまだジョーカーと戦うなんて、俺一言も言ってねぇし!あくまで逃げるんだし!!」


強がった。
また自分の気持ちに嘘をついた。

ただ恐怖を紛らわせようとして、言ったにすぎなかった。




とうとうトラックが動き出した。
行き先も分からない、とにかくここではないどこかへと出発した。


出発してからどれくらいの時間がたっただろう…

レトインを見ると、今にも寝そうなぐらい、うとうとしていた。


それを見てる俺も、なんだか眠くなってきた…

真っ暗なトラックの中で、眠りにつこうとするレトインと俺…


その時
トラックが急ブレーキをかけた。


そして…トラックの運転手の怒鳴り声が聞こえた。



「危ねぇだろ!!何道路の真ん中で突っ立ってやがんだ!!」



急ブレーキと共に、俺たちは一気に眠気が吹っ飛んだ。


「なっ、何が起きたんだ!?」


静かにすると、波の声が聞こえる。
どうやら海の近くを走ってたみたいだ。


「海……?

!!!
まずい!!今すぐこのトラックから出ろ!!」


「お、おい!海がどうしたってんだよ!?」


レトインは慌てた表情で、俺の手を引きトラックから出た。


「なんなんだよ急によぉ~…早く戻らないと、運転手にバレるぞ…」


「まさか…こんなに早く現れるとは思わなかったよ…



“ジョーカー”」


レトインが話しかけた方を見ると…
昼間俺を襲った“あの女”が立っていた。


「!!!
 おまえは…」


「忘れないで欲しいわね。闇に紛れるのが“ジョーカー”よ。
夜は私たちの世界なの」



まだ何の覚悟もできてない俺に…

早くも覚悟を決めなければならないときが、訪れてしまった。





第6話 "たった一つの選択肢" 完
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