3BECAUSE 第5話
「ごめん。ごめん…親父…今まで迷惑ばっかかけてごめんな…」


泣き崩れた善は、空にむかってひたすら謝っていた。

遙かかなたで見守ってくれてるであろう、今は亡き父にむかって。


初めて見せた、素直な気持ち。

届いただろうか…?いや、届いてるに違いない。


この時は、なぜかそんな気がしてやまなかった。




3BECAUSE

第5話
 「First Because」



「どうやら…やっと受け入れることができたようだな。橘善」


「信じるしかねぇだろ。もう…」


善の右手の甲には、不思議なマークが描かれ、光輝いていた。

このマークは善が“火”を発したときに、浮き出てきたものだ。


「なんなんだよこのマーク…こいつがリミテッドの証なのか…?」


「いや…そーいうわけではない。そのマークはリミテッドの者、全員にあるわけではない」


「……?」


すると、光輝いていたマークの光が消え、マークだけが善の右手の甲に残った。


「それにしても何者なんだあんた…
なぜそんなリミテッドなんつーもんに詳しい!?」


「………

俺の名前は“レトイン”俺のことは今後そう呼べ」


「答えろよ!!俺の質問に!!

(何がレトインだ…どう見ても日本人じゃねぇか!!あくまで本名は出さねぇつもりか)」


「悪いがそいつは、答えるつもりはない」


「チッ…だったら…
俺を助けた理由は!?」


「……?」


「おまえは明らかに俺が危険な目にあうことを知っていた。
なんで事前に知ってたのかってとこが怪しいが…なぜ俺を助けようとする必要があった!?」


レトインは、にやけながら善に言った。


「なんだ?人を助けることに、理由なんているのか?」


「けっ!あんたそんなガラじゃねぇだろ」


「フン…生意気なガキだ…
仕方ない…正直に話そう。

おまえの“力”が必要だったからだ」


「俺の力だと…?」


「そうさ。どうしようもねぇクソみてぇな父親が残してくれた力が必要でな」


「親父が、どうしようもねぇクソみてぇなだって…?

てめぇそれ以上親父を悪く言うんじゃねぇ!!!」


善はレトインに右手をかざした。
そして怒りと共に叫んだ瞬間。

善の右手は光り、真っ赤に燃える“火”の力が放たれた。



そしてレトインの顔の左横を火の力はかすめた。


(これほどまでとは…想像以上だ…)

「そう。その力だ。そのおまえの持つリミテッドの力が必要なんだ」


「!!!

(こいつ…俺をわざと怒らせて、この力を俺に出させやがったな…)」


「やつらを倒すためには必要なんだよ…おまえの力がな」


「やつらって…誰なんだよ…?」


「“ジョーカー”の連中だ」



“ジョーカー”



この名前には俺も聞き覚えがあった。


「ジョーカーって…確かあの女が俺に誘ってきたチームの名前じゃねぇか」


「そうだ。あのおまえを襲った女も、ジョーカーの一員だ」


「なぁ…いったい何なんだよ…ジョーカーって…」


「ジョーカーとは…リミテッドだけで構成された、闇の組織」


「リミテッドだけでだと!?」


「そうだ…今まではジョーカーは息を潜んで闇に隠れていた。
しかし、とうとうジョーカーは表に出てきて、動き出した」


「やつらの目的は…いったい何なんだ…?」


「さぁ…それは分からない…
ただ一つだけ分かっていることがある」


「……?」


「やつらはおまえを狙っている」


「お、俺を!?なんでまた俺なんかを!?」


「スカウトだ。ジョーカーへのな」


「スカウトだって!?誰がそんな危ねぇ組織なんて入るかよ!!
バカバカしい!!」


善は話を聞くだけ聞いて、レトインのまえから立ち去ろうとし出した。


「おい!善!どこに行く!?」


「帰るんだよ。もうだいたいの話は分かった。
色々教えてくれて助かったぜ」


「おまえにはもう帰る場所なんてない。
おまえはこれから命を狙われ続けることになるぞ!?」


「………」


「組織からの勧誘を断れば、おまえのリミテッドの存在は逆に邪魔になる…
そうなればおまえは殺される!!」


「だったら…俺はどうすればいいって言うんだよ!!」


「闘え。それしかない。ジョーカーに勝つしか…もうそれしかない」


「なんだよそれ!闇の組織を敵に回して生き続けろって言うのかよ!!
そんなの嫌に決まってんだろ!!」


「しかし…もうどっちかしかない。
ジョーカーに服従するかか…ジョーカーに反発して闘うかの…な」


「そんなの…

(どっちも嫌に決まってるじゃねぇか…)」


「だが善…おまえはジョーカーと戦わなければならない。
おまえには“その理由が3つある”」


「理由だと…?」


「通常…リミテッドになってからな、その能力を操るには、最低でも半年はかかるんだ」


「!!!」


「しかしおまえは、先程能力に目覚めたばっかにもかかわらず、もう操ることが可能だった。

おまえには十分にリミテッドとしての素質がある」


(そんな素質…いらねぇっての…)


「だからこそジョーカーはおまえの力が欲しいんだ。

逆に敵に回せばおまえの力はジョーカーにとって脅威になる」


「そんなこと知るか…」


「“リミテッドとしての素質”…それがおまえがやらなければならない理由のひとつだ。

その力を活かし、おまえはジョーカーを倒さなければならない」


「素質があるから、俺はジョーカーを潰さなければならないって?
ちょっとそれ…そーとも言えないんじゃねぇか…?」


「……?」


「素質があるからこそ、俺がジョーカーの一員になる。

そしたらどーする?」


「………」



もし本当にそーなったとしたら…



『世界は終わる』



そう善に言いかけたが、レトインは言うのをやめた…


「冗談だよ!ジョーカーになんか入るわけねぇだろ!そんな怖ぇ顔すんなっての!

第一、なんで素質があるからって俺がジョーカーを潰さなきゃなんねぇんだっつーの!
それ自体、理由として成り立ってないんだけど」


「おまえはまだ、事の重要さを分かっていないんだ…」


「あぁ。そうなの?
で、俺がジョーカーを潰さなきゃならねぇ理由が3つあんだろ?

別にやるわけじゃねぇが、ついでにあと2つも教えやがれ」


「………

今のおまえには、言うつもりはない」


「なんだよそれ!あんた肝心なとこはそーやってぼかすんだな!!

そんなんだから、どうもあんたは信用できねぇんだよ!!」


「別に信用されたいとは思わない。俺が敵か味方かどうかは、おまえが判断しろ」


「興味ないね。あんたのことなんて」



レトインの話に呆れた善は、自分の家へと帰りだした。


「じゃあな!今度こそ本当に帰るからな!」


「知らないぞ…?どーなっても…

少し考えれば分かることだ。おまえの今置かれている状況を考えれば、
どれほど危険な目にあうかが…」


「どうぞ。おかまいなく」


「リミテッドの、ジョーカーの、何の知識もないおまえがだ。

俺といっしょに行動することが一番安全だってことがな!!
無い頭で、ちょっとは考えてみるんだな」


「あーっ!!うるせぇ!!あんたになんか守られたくないっての!!」


善はレトインと散々言い合いながらも、結局は家へと帰って行った。




「ただいまー」

(今日はなんだか疲れちまったぜ…)


善はようやく自分の家(叔父さんの家)へと帰ってきた。

今日1日で、色々な出来事が起きた。


善の身体は、肉体的にも、精神的にも疲れていた。

そのせいか、帰るなり、善はすぐ眠ってしまった…



「ん…う~ん…

俺…寝ちまったのか…今何時だ…?」


昼過ぎに寝たせいか、あんまりよく寝ることはできなかったようだ。

時計を見ると、まだ夕方頃だった。


(なんだ…まだこんな時間か…)


レトインと別れてから、あらから数時間がたった。

また命を狙われると言われたが、何も起きる気配はない。


(ほれ見ろ…何も起きやしねぇじゃねぇか。これからは俺は普通の人生を過ごすんだよ)


しかし、善はふと思った。

もし…レトインの言ったとおり、俺がまた命を狙われたら…



いっしょに住んでる、叔父さんや叔母さんが危ない。



もし…俺が学校に行ってる間に、あいつらが襲ってきたら…


学校のやつらが危ない。


“もし”…“万が一”…そんなことを考えていたら、キリがない…

けど…起きてしまってからでは、もう遅い。


レトインは善に向かって、こう言っていた。



『おまえにはもう帰る場所なんてない』



それを聞いた善は、あの時こう思っていた。


『俺には帰る場所がある。居場所はいくらでもある』


両親は亡くなってしまったけど…

俺には大切な人がまだたくさんいるから…そう思っていた。



でも…それは“逆”だった。



大切な人だからこそ…


“失いたくないんだ”


そーいうことだったんだ…今になって、レトインの言葉の意味に気付いた…

俺の周りには、危険が伴う…



俺にはもう…帰る場所なんてなかったんだ…





第5話 "First Because" 完
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