3BECAUSE 第4話
「現実を受け入れられないでいるのか?橘善」


「受け入れるとかの問題じゃねぇ!!
おまえが言ったことは全部ウソだ!!そうに決まってる!!」





3BECAUSE

第4話
 「リミテッド」





「違うんだろ善…ウソだと“思ってる”ではなく…
ウソだと“思いたい”だけなんだろ?

おまえだって自分の目で見たではないか…いや!自分で“その力”を示したじゃないか」


「うるせぇ!!!黙れ!!!」

(ウソなんだろ…なぁ…ウソだろ…?
そう言ってくれよ…なぁ…親父…)




『橘善…数ヶ月前、おまえの家は火事になったな…?』


『!!あぁ!よく知ってんな…』


『その火事のとき、おまえは



本当は死んでいるんだ』


『!!!
はっ…何をバカなこと言ってんだおまえ?死んでねぇから俺が今ここにいるんじゃねぇか!』


『………

いいか善。よく聞け。おまえはあの大火事の中、無事に帰ってきた…

しかも“無傷”で焼け跡すら残っていない…変だと思わないか?』


『!!!

(確かに…俺が病院で目が覚めたときに医者が言っていた…
俺が生きているのは“奇跡”に近いと…何の損傷もなく、何の異常もないなんて…)』


『なぜだと思う?それはおまえが一度あの火事で死んだからだ…』


『なんだよそれ…だから俺は今生きてんだよ!それじゃ意味分かんねぇだろ』


『最後まで話を聞け』


『!!??』


『おまえは一度死んだ。だが蘇った…』


『蘇った…?』


『かすかに命が残っていた、おまえの父親の命が乗り移ってな』


『なっ…なんだと!?』


『本当はあの火事で死ぬはずだったのは、おまえの方だったんだ。
しかし父親の魂がおまえに乗り移り、代わりに父親が死んだ』


『俺の代わりに親父が死んだだと!?てめぇデタラメなこと言ってんじゃねぇぞ!!』


『デタラメではない。そして火事で焼け死んだはずのおまえに、父親の魂が乗り移ったとき…

命と同時に、おまえは“ある力”を手に入れた


“ファイヤーリミテッド”

“火”の力だ』


『ファイヤーリミテッドだぁ!?』


『こー言えば分かりやすいか?さっきおまえを襲った女の力は

“ウォーターリミテッド”

“水”の力だ』


『ウォーターリミテッド…水の力…
はっ!なんだよ。俺があの女みたいに、手から火を出したりできるって言うのかよ!』


『あぁ。その通りだ』


『その通りだじゃねぇ!!あんたいい加減にしろよ!?

こっちはマジなんだよ!真面目に答えろ!!
本当に死んだのは俺の方だぁ!?俺には火の力があるだぁ!?
ふざけんじゃねぇぞ!!この野郎!!』


怒りに身を任せ、善は思いっ切り男を右手で殴りにかかった。



その時だった。


善の右手から光が放たれ、そして善の右手が



燃えた。



真っ赤な“火”に包み込まれながら。



『なっ!!!』


『だから言ったじゃないか…
これで分かったか?善』


『お、おい…なんなんだよ今の…
これじゃまるで、あの女といっしょじゃねぇか…

どーなってんだよ…俺の体はどうなっちまったんだよ!!!』


善の右手の甲には、さっきまではなかった不思議なマークが描かれ、光り輝いていた。


『それが“ファイヤーリミテッド”
俺が全部説明した通り…』


『うわぁぁぁぁ!!!』


善は男のまえから突然逃げた。

こんなのウソだ…ありえるわけがない…信じたくない…


度重なる“恐怖”…いや

善は“真実”から目を背けたかった。その思いから男のまえから逃げた。

しかし、それは単なる現実逃避にしかすぎなかった…




「ウソだ…こんなの全部ウソだ…こんなことありえるわけがねぇ!!」


「すべてを受け入れろ。善」


「くっ…くそっ!くそーーっ!!」


地べたに座り込んでいた善は、突然起き上がり男に飛びかかった。


「なんでなんだよ!!なんで親父が俺の代わりに死ななきゃいけねぇんだよ!?」


「………」


「親父が俺に付けてくれた、この“善”って言う名前…

俺は今まで小学校や中学で悪さばっかしてよ…
学校の先公共には“似合わない名前だ”なんてバカにばっかされ続けてよ…

親父にはいつも迷惑ばっかかけて…嫌な思いさせてばっかりで…

俺、親父にまだ何もしてやれてなかったんだよ!!
親孝行の一つも満足にできてやしなかったんだよ!!!」


「………」


「なのに…なのに…なんで自分の命を俺の命に変えてまでして…勝手に死んじまって…
最後の最後まで迷惑かけてどうすんだよ!!!」


気力をなくし、善はまた座り込んでしまった。


「………

リミテッドには2つの条件がある…」


地面に這いつくばって泣いてる善は、耳を傾けた。


「一つ目の条件は…
目の前に死者が出て、なおかつ自分が死の極限状態におかれた時…

そして…もう一つの条件…

その目の前の死者に対して“愛”があること」


「!!!」


「その2つの条件が成り立ったとき…
ごくわずかな、もの凄い低い確率でリミテッドという奇跡が起こる。

どちらか一方が欠けても成り立たない」


「あ…愛…だって…?」


「おまえは愛されていた。自分は親に迷惑ばかりかけていたつもりかもしれないがな…

それでもたった一人の息子であるおまえを愛していたんだ」


「親父…そ…そうだったのか…」




おれは今までずっと勘違いをしていた。
親父は俺のこと嫌いなんだとばっかり思ってた…




『すいません。先生…うちのバカ息子が…
ほら!善!おまえも謝れ!!』


『………』


その日の帰り道


『なんでてめぇはいつも俺に迷惑のかけることばっかりしやがんだ…
おまえに付けた名前と反対のことばっかしやがって…』


『俺…絶対謝んないかんな…』



俺は人に謝んのが嫌いだった。

やっちまったもんはしょーがねぇじゃん。
謝ったって何か解決するわけじゃねぇし。

そう考えていたからだ。


いつもは俺に怒鳴り散らしてばかりいる親父が…

先生のまえでペコペコ頭下げてんのが、不思議に俺は思えてた。


そんなダメな息子だから。親父は俺のこと嫌ってるって思えてたんだ…


俺が悪さする度に謝って、俺を叱ってた親父だったけど…

その怒った後、だいたい俺にこう言ってた。


『ホントおめぇってやつは…悪さばっかしやがってよ』


『うるせーよ…』


『たがよ…

あんな頭悪りぃクソ教師には頭なんか下げなくていい。
なんであんなやつが教師やってんだ?あんなやつすぐにやめさせちまえ!!』


どんな時でも親父は、いつも俺の味方だった…


家では偉そうにガミガミ言い散らしてるくせに

まるで子供みたいな屁理屈を息子に言う親父。


俺はそんな親父が…好きだった…




「てっきり親父は俺のこと嫌ってんのかと思ってた…



ごめん。ごめん…親父…今まで迷惑ばっかかけてごめんな…」



さっきまでフードの男が話したことは、信じたくなかった俺だけど…

今はなぜだか逆に、ちょっと信じたく思えてきた。


初めてかもしれない…こんな素直な気持ちで人に謝ったのは…

あの時“ごめん”じゃなくて“ありがとう”と言えたら…



なぁ、どっちのがよかったかなぁ…?



でもどっちを言っても親父は…


きっと照れくさそうに笑うんだろうな。





第4話 "リミテッド" 完
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